夕立は夏の季語。歳時記には、夏の夕方に降る局地的な激しい雨とある。短時間で雨は上がり、涼しい風が吹いてくる。
子どもの頃、夏休みに外で遊んでいると、よく夕立に降られたものである。神社の境内で草野球をしていた時には、楼門の下で雨宿りをした。みんなで肩を寄せ合っていると、大粒の雨に打たれて舞い上がった、生暖かい土埃の匂いがした。
就職して何年目だったろうか。まだ週休二日ではなかった、ある夏の土曜日。当時はクールビズという言葉はなく、夏でも背広を着ていた。その日は少しばかり残業をして、日が高いうちにバイクで帰途についた。丘の上の団地にある我が家までは30分もかからない。
走り出してしばらくすると、急に雲行きが怪しくなってきた。空が翳り暗くなった。もう少し持ちこたえてくれと思っていたら、叩きつけるような雨が降ってきた。周りはビルばかりで雨宿りする場所もなく、仕方なくそのまま走り続けることにした。
団地まであと少しの交差点に差しかかった時、激しい雨がぴたりと止み明るくなった。上を見上げると雲一つない青空である。道路は乾いていて雨の降った様子がない。狐につままれた思いで団地にたどり着いた。アパートのベランダには洗濯物や布団が干してあり、広場では子ども達が遊んでいる。
あの時、炎天下で着るずぶぬれの背広は重かった。今になって馬の背を分けるという諺を思い出している。
歳時記にこんな句があった。
さつきから夕立の端にゐるらしき 飯島晴子
フリーフォトより
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