田園都市の風景から

筑後地方を中心とした情報や、昭和時代の生活の記憶、その時々に思うことなどを綴っていきます。

孫息子の旅と人生の旅

2023年09月16日 | 話の小箱

 夏休みの終わり、高2の孫息子が友人と横浜へ旅行した。誰かのライブを観に新幹線で往復しただけである。それでも彼にとっては自分だけで行く初めての旅だ。母親に土産は不要と言って少しばかりの餞別をことづけた。その夜、本人から御礼の電話があり、楽しんでおいでと返事して土産はいらないよと言い添えた。

 中学生の時、父の故郷に一人で行ったことがある。だが自分の力で実行した初めての一人旅は高1の終わりの春休みだった。瀬戸内海の小豆島から山陰へ回り、山口を経由する3泊4日の旅だった。同年代のノンフィクション作家、沢木耕太郎も同じく16歳の春休みに東北地方に一人旅をしている。私はユースホステルを利用したが、彼は長い旅程のほとんどを駅舎のベンチや夜行列車の車中で寝泊まりをした。

  高校生は旅を始める年頃なのだろう。沢木は高校から大学にかけて全国を一人で旅する。東北旅行から10年後にはユーラシア大陸を乗合バスで横断する旅をし、のちに「深夜特急」という紀行を書いた。この本は若者の旅心をかきたて、バックパッカーのバイブルとなる。彼は大学卒業後、丸の内に本社がある企業に就職したが、入社当日に退社した。学園紛争で迷う心にけじめをつけて、背広と革靴ではない別の世界を選んだのである。

 まだ現役のころ、人事課の職員から「あなたはモデルだ」と言われたことがある。俺はそんなに男前ではないぞと思ったが、別の話だった。大学浪人をせず、留年もせずにストレートで就職し、転職組や中途採用でない職員は賃金モデルなのだそうである。要するに平凡な人生を送ったということだ。

 時どき、旅とは何かを考える。これまで全国各地へ行ったが、ほとんどが仕事での旅行だった。プライベートで旅をしたのは数えるほどしかない。沢木は辞書を引用して「旅とは途上にあること」と言う。人生もまた途上にあり旅であると。以前紹介した戸井十月の五大陸のバイク旅もそのようなものではないか。

 その後、孫息子とはまだ会っていない。菓子土産でもあれば報告かたがた来ただろう。彼は小さなころから素直な子だった。いらないとのダメ押しは余計だった。

       フリーフォトより

  

  「道、果てるまで」 戸井十月(2016年12月)

 

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6 コメント

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 (青葉)
2023-09-16 09:50:51
おはようございます。
今日も楽しく拝見させていただきました。今回のお題は「旅」。小生も旅に明け暮れた人生だった気がします。小さいころから親離れをして遊び歩きました。毎日が冒険でした。小学校高学年になると夏休みは叔父伯母宅(岐阜県)に2~3週間、世話になりました。地元の子らに負けずに木曽川を何度も泳ぎ渡りました。スイカ流しでも二つもゲット、伯母を驚かせました。以来今まで旅のし続けです。新鮮な出会いがなんとも言えません。
こんにちは (九州より)
2023-09-16 12:59:37
色々と旅をされたようですね。
私は子どもの頃から父の故郷である広島県によく行きました。
おかげで小学生の高学年になると時刻表の見方を覚えました。
大人になってからは、もっぱら仕事での旅です。それでも住む町を離れて、いつもとは違う風景を歩くのは楽しいものでした。
Unknown (miyazaki_seagaia100)
2023-09-19 08:04:26
おはようございます。
とても良い記事でした。
私の欲しい答えがここにあるような気がします。
miyazaki_seagaia100様 (九州より)
2023-09-19 18:28:27
こんばんは。
旅はいいですね。
体が動くうちに行きたいと思うのですが、
旅立つまでに億劫さも感じます。
思い立った時にふらりと行きたいものです。
コメント有難うございました。
九州よりさんへ (徒然)
2023-09-20 16:09:10
人生行路のように読み進みました

孫は可愛いですね
菓子折りはいらぬが 
孫の見聞楽しみですよね
徒然様 (九州より)
2023-09-20 18:28:25
こんばんは。
こちらから電話すれば済むことですが。
孫たちも年頃になったので、あまり構ってもいけないと遠慮しています。
こんど食事でもした時にでもと思っている所です。

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