渓流詩人の徒然日記

知恵の浅い僕らは僕らの所有でないところの時の中を迷う(パンセ) 渓流詩人の徒然日記 ~since May, 2003~

ねぇ、マリモ (2012年記事一部訂正再掲)

2023年12月17日 | open

ぽちたまは、なぜもう少し長く
生きてくれないのだろう。

だけど、そんな思いは人間の
勝手な思いだ。

彼らは彼らで、自分たちの生涯
を懸命に生きている。


我が家にも犬がいた。
最初の子は、私の息子が死んで、
悲しみに暮れる日々の中で
数年
後に迎えた雄のキャバリアだっ
た。

騎士たれとの願いを込めてルー
クと名付けた。

存外の聡明さという犬の能力の
高さに驚いた。

ある日、娘ができた。
娘と幼馴染のようにそのキャバ
リアが育ってくれることを望ん
だ。

当時住んでいた新宿区では、毎
晩20頭以上の犬が
近所の公園に
集まって、犬たちは互いにじゃ
れて遊び合い、
人間たちはそれを
見守りながら談話して、とても
和んだ空気と温かい
時間が流れ
ていた。

娘の出産の時に、犬の散歩仲間
が厚意でうちの犬を預かって

れた。


だが、ある寒い朝、1歳になった
ばかりのその子は冷たく
なって
帰って来た。

体は冷たくなって硬くなっている
のに、お腹だけはぐにゃぐにゃに

柔らかかった。鼻先も折れていた。
酔った人間に殴り殺されたうちの
ワンコがそこにいた。

妻は三カ月毎晩泣いた。
親友の家で起きた悲惨な出来事に、
私も茫然自失となった。


私も朦朧とした日々が続く中、あ
る日、町中のペットショップに

ふらりと寄った。
うちのルークというワンコが生き
ていた時、時々、立ちよった店だ
った。

そこでケージに入れられた三毛の
メスのキャバリアを見た。

以前ルークとも店で会ったことが
ある。

しかし年は5才だ。1年半もケージ
に入れられている。

いろいろ事情を聴いて、店主の物
言いと店での扱いに腹立たしくな
り、
すぐに現金を渡してその子を
連れて帰った。
帰りしな店主が「いらなくなった
らいつでも引き取りますから」と
言った。生体販売者の実体を見た。
生き物の命は中古車じゃない。

名前は前の飼い主がつけたクルミ
というままにした。

足がだいぶ弱っていたが、うちで
徐々に回復し、だんだん元気も

取り戻してきた。
私は仕事以外で車で出るときには、
どこに行くにも連れて行った。
車のドアを開けると自分からすぐ
に飛び乗って、すぐに助手席で
グーグー寝る子だった。

死んだルークと血のつながった
キャバリアを私はルークを世話
してくれた
横浜の業者にお願い
していた。

ルークが死んで1年後、その店か
ら連絡が来た。一般的店舗では

あり得ない計らいなのだそうだ。
すぐに妻と乳幼児だった娘と共
に出かけて見に行った。

ルークのイトコにあたるブレン
ハイムという毛色の犬が店にいた。

不細工だった。ルークの幼い時と
あまりにも器量が違った。

少し逡巡していると、別なお客さ
んがその子を抱きかかえて
離さな
い。

今を逃すともうこの子との縁が
切れてしまい、ルークとの縁も

切れてしまいそうな気がした。
その子をつれて帰った。
我が家にはワンコが2頭と娘と妻
と私の五つの生命体が同居する

ことになった。
新しく迎えた子にはアークと名
付けた。十戒を納めた石櫃だけで
なくノアの箱舟の意味がある。


クルミは生後9年の時、広島の
三原市の家で死んだ。

キャバリア特有の心臓疾患だった。
10歳までにキャバリアの100%が
罹患する。

キャバリアという犬種は、一度
絶滅した犬種を多種をかけあわ
せて
1945年に復活させた新しい
犬種のため、無理な近親繁殖が
たたり、
心臓の弁が閉鎖不全を
起こす病気をすべてのキャバリ
アの命が
持つことになってしま
った。

人間は神ではないので、種を新
たに生み出すことはできない。

種でなくとも、似たようなことを
すれば無理が生じる。

キャバリアという犬種は、死ぬ
時にはすべて心臓病で苦しみな
がら
死んでいく。そして、意外
と短命だ。

ペットブームというのは身勝手
なもので、キャバリアは一時期

愛らしさと聡明さと飼いやすさ
から人気がうなぎのぼりだった
短命であることが知れ渡ると
人気は一気に低下した。

ルークがうちに来た頃は、国内
でそれまで数十年で1700頭しか

キャバリアはいなかったが、ペット
ブームで一気に数が増加し、
さら
にブームだから流行り廃りで人気
が落ちてからはまた一気に
数が
減った。

ブームの時には、増産のため、
健康に留意しないブリードが

業者によって行われ、心臓疾患
の蔓延に拍車をかけた。

アークはルークと性格がまったく
異なり、先祖が鳥猟犬とも思えぬ

程のガンシャイ(銃の射撃音に生
まれながらにすごく怯える性格)
で、
性格も落ち着きがなくチョロ
マツだった。

犬は一頭一頭まるで性格が異なる
のだということを私はクルミと

アークと出会って初めて知った。
それでも、アークは愛嬌のある奴
で、娘とは幼馴染として育った。

おもちゃの取り合い。

「どうしたの?」となだめに入るクルミ

アークはキャバリアとしては異様
な長命をさずかり、14年生きて、

そして、心臓疾患で死んだ。
家の中で家族三人に看取られて、
妻の腕の中で苦しみながら死んだ。

生まれてから2ヵ月でうちに来て、
それからずっとこの日まで一緒に
過ごした時間は、人間の時間から
するとほんのわずかの間だが、
とても温かい
時の流れを私たち家
族に与えてくれた。あいつもきっ
と楽しかったと思う。

犬や猫がもっと生きてほしいと
願うのは、人間の勝手な思いだ。

犬や猫は人間にくらべると年を
取るのが早すぎて、いつの間に
人間よりも大人になり、そし
て老いていく。

けれども、それも現実として私
たちは受け止めなければいけない。

それに、人間の方が犬より短命
だとしたら、飼い主の人間が先
に死んだら、
一緒に暮らした犬だ
ってきっと途方にくれてしまうだ
ろうと思う。


好きな短編映画があった。
「いぬのえいが」という短編シリ
ーズの中の「ねぇ、マリモ」とい
う映画だ。

youtubeでアップされていたが、
例によって著作権侵害申し立てで

削除されていた。
だが、別な人が再アップしていた
ので、ここに紹介したいと思う。

ワンコのマリモの声を吹き替えで
入れたバージョンだが、
私はマリ
モのセリフがスーパーだけだった
原作の方が良い作品の
ように思え
る。

犬はしゃべれない。しゃべれない
けど、人間がその心をくみとって

あげている雰囲気がマリモの声な
しバージョン原作ではよく表現さ
れていた。

でも、吹き替えの方もこれはこれ
でよいかなとも思うので(声優さん
がとても良い)、マリモ肉声
バー
ジョンの動画を紹介したい。


いぬのえいが『ねぇ、マリモ』
(後作のマリモの声入りバージョン)




『ねぇ、マリモ』(吹き替えなし原作)

(2023年。動画はクリアなものに
差し替えました)

マリモが無声なだけに、ラスト
の宮﨑あおいの肉声のセリフが
コントラストとして生きる。
映像として非常に完成度が高い。
映画というものは、そういう製作
サイド視点での観方をしてはいけ
ないのだけど(苦笑)

この二本は吹き替えがあるかない
かで、まったく印象が異なる作品
となっている。


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