渓流詩人の徒然日記

知恵の浅い僕らは僕らの所有でないところの時の中を迷う(パンセ) 渓流詩人の徒然日記 ~since May, 2003~

バルブオイルの普及 & 炭素鋼の焼き入れ

2016年10月06日 | open



自作焼き入れ刃物の炉について電脳波乗りしていたら見つけた。
こちらのブログ ⇒ こちら

へ~、この人もバルブオイル使ってるんだとか画像見て思ったら、
ぬぁんと、参考にしたというサイトは、たぶんおいらのこの渓流カフェ
日記でしょ(笑

このナイフ、めっちゃカッコいい。


日本刀の強度確保の造形を採り入れている。いい!



焼き入れについては、理由は長くなるから省くけど、備長炭は駄目
で、松炭がベスト。でも松炭は入手し難いので、楢炭でもまあいける。
そして、最大限に大切なことは、火のムラを無くすために炭は親指の
関節大に小割りにすることだ。
私などは、さらに火力に微妙なムラができないように、一度火消し
壺で作った消し炭をナイフなどの小物の焼き入れには使っている。
手間を惜しんでは良い焼きは入らない。
焼き入れは刀身に命を吹き込む瞬間なので、刃物作りの世紀の瞬間
なのだ。そこに向けてすべての作業がコツコツと行なわれてきたの
だから、焼き入れには細心にして最大の心血を注ぐ。

そして、このサイトにもあるデンガク炉のような物では特に有効だが、
完全に炭の中に刀身を埋没させてじっくりと焼くとうまくいく。
送風をし過ぎて炉内温度を上げ過ぎると、切先が溶けてしまうので
注意を要する。

冷却時の温度は、鋼材にもよるが、A1変態点を少し超えたあたりの低温
領域
で冷却を開始させる。(炉から出した瞬間と入湯直前では温度差
があるので注意)

これは、冷却液に入れる寸前の温度のことだが、加熱時も高温で焼き
を行なうと鋼が馬鹿鉄になって内部粒子が粗大化して脆くなるので高温
に加熱しすぎは避ける。

さらに、冷却液は、水の場合は30℃以上の冷却液では焼きは入らない。
また、油は逆に60℃以上に熱していないと焼きは入らない。
この条件を外しても焼きが入る場合は、それは灼熱の刀身により表面
接触した液体がその適正温度に達した際に表面上に焼きが入っている
だけのことだ。
そのため、刀身全体をまんべんなく包むようにするために冷却液には
冷却促進剤となるいろいろな物が添加されたりする。
試しに水の場合は、海水や温泉水(冷泉)で焼き入れをすると、とても
焼き入れ性が高くなるのだが、これにも科学的な意味がある。
また、日本刀の焼き入れの場合でも、刀工各人により様々な添加物が
入れられていたりする。場合によっては半ゲル状液体にする場合もある。
気をつけないといけないのが、水の場合には、石鹸などの表面活性
剤などが混ざると一切焼きは入らない。

焼き入れが成功すると、必ず焼き入れ成功の知らせが音として伝わって
くる。これはいろいろあるが、炭素鋼の場合はジョォオォ~ンだったり、
ジョワァアァ~ンだったりする。
チュンというのは、大抵は焼きが入っていない。冷えた油などに刀身を
入れた場合の焼き入れ失敗などは、このようなチュンという短い音がする。

焼き入れの際に刀身に焼刃土(大村砥の粉、松炭の粉、土の粉末)を塗る
のは、毛細管現象で焼き入れ水が浸透して早く冷却する意味と、厚塗り
により冷却を遅くするための二つの意味がある。
また、焼き入れは冷却液に浸けた場所から瞬時にマルテンサイト変態が
開始され、525℃で完全変態するので、液に浸けた部分から硬化が始ま
る。
ということは、刀身全体をドボンではなく、刃先から上手に入湯させれば、
プログレッシブな刀身硬度を付与させることもできるということだ。
これを利用して日本刀は映りなどを出すことができる。乱れ映りは焼刃
土の置き方と引き土のやり方にこの入湯方法をミックスすることで出す。
完全ドボンの場合には、焼刃土の置き方が決め手になる。

要するに、熱管理をどのような意図でどのような目的の指標をきちんと
自分の中で組み立てて持って行くかだ。
行き当たりばったりでは絶対に狙った焼きは入れられない。

あと、刃切れが起きることを回避することとしては、刃の面取りをして、
刃先を丸めてやればかなりフォージングエフェクトによる膨張負荷に
堪えられるので刃切れが生じにくくなる。これはいろいろ試してみれば
すぐに実感できる。
焼き入れ前の鑢仕上げの際に、エッヂの角を立てていたりすると焼き
割れなどが入り易い。これはエッヂの角はR状ではないため、負荷の
分散ができずに応力などが一点に集中し、それに耐えきれなくなったら
そこから組織結合の損壊が始まるからだ。なので耐えきれなかった
一点から崩壊する。堤防決壊を想像してもらえばイメージが掴み易い
かもしれない。

一度、正しい理論的な裏付けで正しい行為で要領を掴むと、以降は
ほとんど初歩的な失敗は起きない。
失敗とするならば、「狙ったところに持って行けてはいない」という内容
的に狙った目標到達点の可否という高度なレベルの段階に一歩進ん
いる筈だ。
自作鍛造刃物焼き入れに挑戦する同好の士の皆さんの健闘を祈る。

平成7年の私の処女作。超ウルトラど素人にしては、そこそこ出来て
いると思う。事前理論学習はかなりした。削り出しではない鍛造打ち。


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