渓流詩人の徒然日記

知恵の浅い僕らは僕らの所有でないところの時の中を迷う(パンセ) 渓流詩人の徒然日記 ~since May, 2003~

今夜も西部劇 映画『ヘイトフル8』(2015)

2021年09月29日 | open

『ヘイトフル8』(2015年)
タランティーノ監督 2時間47分
 
推理サスペンスの異色西部劇。
映像表現もそうだが、脚本がとても
よく出来ていて、面白い。
昔の西部劇小説にクリスティ作品を
合体させたような展開だ。
 
本作は65ミリフィルムで撮影され、
70ミリ映写機用に編集して上演され
たが、日本には70ミリ用シネス
コープ
劇場は存在しない。
なので全米公開翌年の2016年の日本
での劇場公開では原形を35ミリ用に
編集する事でしか公開できなかった。
リアルワイドではなく、上下黒カット
のあれ。残念。
 
銃器は1896年以降のピースメーカー
を使用しているので、厳密な時代考証
としてはおかしな時代設定になって
いる。あのピースメーカーが出て来る
頃は、南北戦争で黒人がどうとか、
南軍のおたずね者がとかの時代では
ない。
ただ、セリフの中に「ワイルドビル
ヒコック?」というセリフが出て来
るので、1880年頃という設定も成り
立つが、賞金稼ぎが人殺しをしてどう
のというのは、いくらワイオミング
であっても本当はあまり無い話。
まあ、タランティーノ独特の架空世界
での物語、エンターテイメントとして
観るべき作品だろう。
なんたって、タランティーノは、作品
の中でヒトラーを映画館で銃殺しちゃ
う映画を作るくらいだから。
邦画の『ジャンゴ』には喜んで出演
して西部の荒くれガンマンの夫を演
じていた。南部訛りでしゃべるんだ
とかかまして。途中でどんどんアド
リブだらけになって監督が困ったら
しい。
 
タランティーノの映画に外れ無し。
水野さんや荻原さん、淀川さんが
生きていたら大絶賛だったのでは
なかろうか。

ただ、射撃角度と着弾位置が大幅
にずれているのはいただけない。
至近距離での発砲着弾シーンは
映画製作者はとても注意を要する。
これはレオーネ監督の『荒野の
用心棒』にも見られた。
主人公の名無し(クリント・イース
トウッド)が酒場にやって来て、
無法者を見ないで横射ちするシーン
では、とんでもない方向を撃って
いるのに、おたずね者は被弾して
ぶっ飛んで死んでいる。
そういうのは、日本の時代劇で
天に向かって切ったら動体真っ
二つ、みたいなもんであり得ない。
映像視覚表現としては芳しくない。
ただ、タランティーノ作品はあく
までエンターテイメントだから
許容できる。
この出血(笑)。
現実には着弾でこんなのは存在
しない(笑)。

これ、1発目と2発目の狙う場所を
役者が順序間違えたのではと思う。


ただ、オールド・ウエスタン・
ムービーファンをニヤリとさせる
映像もタランティーノは収めて
いる。

ここはまるで『シェーン』(1953)
での物語の舞台のようだ。




『シェーン』。
1880年代が時代設定だ。
流れ者のガンマンだったシェーンと
開拓民一家の触れ合いを描いていた。
『シェーン』のストーリーが日活
無国籍映画の全作品に模倣された。


現在のシェーンロケ地。
国立公園であるので、70年前と
変わらない。


ただ、本作でシェーンのワイオ
ミングのような景色を映した
ロケ地はワイオミングではなく、
コロラドだ。


雰囲気がワイオミングにそっくり。
タランティーノの憎い演出だ。


コロラドのウィルソンメサから
ワイオミングのグランドティトン
までは920kmも離れている。
ただし、600マイルブレンドよりは
距離はかなり短い。




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