
前回5月の訪日でも、滞在期間の多くがの岡本眞先生による、個人教授の日々でした。
特に、5月10日の稽古内容は、私が30年ほど稽古を続けてきた、圓功禪拳(以下円功禅拳)を完成させるための研究指導でした。そして、円功禅拳から、大東流合気柔術を俯瞰してみようということになりました。
円功禅拳は72式の動きがあって、各々の動きを稽古した後は、これらを自由につなぎ合わせて稽古をします。同時に、その動きの中に動禅ともいえる境地を見出す修行を行います。
この日はほぼ丸一日をかけて、これらの動きを大東流合気柔術を中心とした岡本先生の武術に対する豊富なご経験から分析して、その用途を徹底的に研究して体現することになりました。
例えば、最初の段階で習う、単化手という動きがあります。これは、下記の動画の2分03秒のあたりで出てくる動きです。
https://www.youtube.com/watch?v=emn9fqFPYOI
1.この動きを、習った時の形を正確に表現して、体を縦に通る軸をしっかりと認識します。
2.そして両腕の無駄な力を抜ききって、手首から先は「ぐい飲みの手」で柔らかい手首をつくります。
3.そして、腰を安定させて、両肩の後ろあたりを意識して、体感から湧き出る勁力を弛緩させた両腕を通して相手に渡す感覚で動かします。
師匠の言うとおりにして、このふわふわと動いている手を邪魔するように、別の先輩にわたくしの体の前に立ってもらいました。
すると、彼の体は驚くほど遠くに弾かれてしまったのです。
「???! うそでしょ?」私に力感は全くありませんでした。
次に、同じ動きの延長で、その「ぐい飲みの手」で、あくまでも軽く、相手の腕や体の一部を引っかけたり、捕まえて、この単化手の動きを行うと、相手はわたくしの手先に吸い付いてしまい、いとも簡単にキリキリと振り回されてしまいました。
「???! 本当に私がやっているのだろうか?」まるで綿あめのついた割り箸を振るような感じでした。本当に力感がゼロなのです。
師いわく、私は円功禅拳の稽古を長く実直に続けてきたので、どの武術にも共通する身体操作に必要なパーツと回路が自然にできあがっている。
「この回路を再認識して、意を以て操作をすることができると、体の動きができあがっている人は、すぐ達人の領域まで行けるのです。」とのことでした。
恥ずかしながら、私自身も円功禅拳がこんなに実践的な武術だとは思っていませんでした。体を正確に無理のない操作で使ったときに、こんなに強い勁力が伝わって相手が吹っ飛んだり、相手の力がふにゃふにゃと抜けたようになって戦闘不能にさせたりする現象を自分が起こせるとは思いませんでしたので、恐ろしく感動いたしました。
さて、ここでいい気になって、「オレはすげーんだ!もっとやってやるぜ!」と変な自我を出してしまうと、この神通力のような技は跡形もなく消えてしまうのです。回路が働かなくなってしまうのです。
これは、強い自我が、腕の力みを生んでしまい、せっかく体幹部から湧き出てきた勁力が止まってしまうから起きる失敗です。そうなると、力んだ腕一本分だけのチカラ技に堕してしまうので、何の現象も起きません。
体全体から湧き出る最大限の力(いわゆる勁力)を無駄なく相手に渡すには、力みを捨てた無我の境地に近づかなくてはなりません。ここが「動禅」といわれるゆえんなのでしょう。。。
師匠曰く、「円功禅拳は検索をかけても、他の人が書いた文章や画像は全く出てきません。たぶん他の伝承者がいないようなので、黒谷さんが継承者ということになるかもしれませんね。大事に次の世代に引き渡す義務がありますよ。」と励ましていただきました。
責任は重大ですね。でも大東流とともに一生をかけて完成させる意義のあるライフワークとなりました。
ありがたいことです。