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政治心理学とロシア・ウクライナ戦争

2022年03月15日 | 研究活動
ロシアの戦争開始の政策決定について、プーチンの思考が推察されていますが、「政治心理学」で多くは説明できそうです。以下は、スティーブン・ウォルト氏(ハーバード大学)による『フォーリン・ポリシー』誌のブログ記事からの抜粋です。

【プロスペクト理論】
「人間は…損失回避のためなら、より大きなリスクを厭わない…プーチンは、ウクライナが米国やNATOとの連携へと徐々に傾いてると確信したなら…彼が取り返しのつかないとみなす損失を実現させないことは、一か八かの賭けに値するものなのかもしれない」。

※プロスペクト理論は、ダニエル・カーネマン(ノーベル経済学賞受賞)とエイモン・トベルスキーにより確立されました。 Daniel Kahneman and Amos Tversky, "Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk," Econometrica, Vol. 47, No. 2 (Mar., 1979), pp. 263-291.

【属性バイアス】
自分の行動は環境のせいにして、他人の行動はその人の本性のせいにする傾向も、たぶん関係している。現在、西側の多くの人は、ロシアの行動をプーチンの非道な性格が反映されたものであり、以前の西側の行為への反応とは解釈していない…プーチンからすれば…米国とNATOの行為は生来の傲慢さから生じたのであり、ロシアを弱い立場に置き続けたい深い願望に根ざしており、ウクライナは誤導されている…と見えるのだろう」。

【誤認】
「誤認に関する膨大な文献は、とりわけ故ロバート・ジャーヴィスの画期的な研究が、この戦争について、われわれに多くを教える。今やプーチンが多くの面で深刻な誤算をしたのは明らかだ。彼はロシアに対する西側の敵意を過大評価し、ウクライナの決意をひどく過小評価し、迅速かつ安上がりな勝利をもたらすはずだと自軍の能力を過度に見積もったようだ」。



【自信過剰】
「恐怖と自信過剰の組み合わせの…典型だ。国家は素早く相対的に低コストで目標を達成できる確信がなければ、戦争を始めたりしない。長く血みどろの高くつく敗北に終わるだろうと信じる戦争は、誰であれ始めない」。

【認知不協和】
「さらに、人間はトレードオフを扱うのは居心地が悪いので、一度戦争が必要だと決めたら、上手くことが運ぶだろうと見込む強い傾向がある…この傾向は政策決定過程から異論が排除されると酷くなり得る」。

要するに、プーチンの決定は、彼を「非合理的な狂人」と見なさなくても、説明できるということです。ウォルト氏は、「残念なことに、誰一人として権力の座にいる者は、学問的成果に深い関心を寄せていないようだ」と嘆いていますが、わたしもまったく同感です。政策立案者や専門家、市民が、国際関係理論をもっと活用すれば、ロシア・ウクライナ戦争への理解が深まり、より良い対応ができると思います。

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