野口和彦(県女)のブログへようこそ

研究や教育等の記事を書いています。掲載内容は個人的見解であり、群馬県立女子大学の立場や意見を代表するものではありません。

「永井政治学」に関する高論

2014年04月23日 | 研究活動
戦後日本の主要な政治学者に関する注目すべき研究成果が発表されました。酒井哲哉「永井陽之助と戦後政治学」『国際政治』第175号(2014年3月)、70-83ページです。永井陽之助「先生」は、日本を代表する「政治的リアリスト」として知られています(直接、授業を通して教えを受けた者の一人として、ここでは永井氏を「先生」と呼ばせていただきます)。

近年では、永井先生の代表論文を英語に訳して紹介するプロジェクトも行われました。私の古くからの知人であり友人でもあり「先生」でもある、ポール・ミッドフォード氏(ノルウェー科学技術大学)らの尽力により、永井先生の高論「日本外交における拘束と選択」(『平和の代償』中公クラッシック、2012年[復刻版]所収)の全訳が、Japan Forum に掲載されました。

さて、私が論文「永井陽之助と戦後政治学」に引きつけられたのは、著者の酒井氏が、国際政治学者としての永井先生と政治学者としての永井先生の著作を「同時に考察」して、「戦後思想史の文脈に位置づけ」ようとしているからです。そして、この酒井氏の試みは、「永井政治学」の内なる「葛藤」を鋭くつくことに成功していると思いました。

第1に、酒井論文では、外交と内政に対する永井先生の分析の違いが指摘されています。曰く、永井政治学は「外交は現実主義、国内は社会変革という二元論がかなり唐突に挿入される結果になっている」(酒井:79ページ)ということです。私は、国際政治に関する永井先生の著作については、何度も何度も読みましたが、「現実主義論争」を引き起こす前の政治学の著作には、簡単に目を通した程度でした。不覚といえば不覚ですが、こうした永井政治学の二元性を明確に自覚することは、これまでありませんでした。

第2に、「永井政治学」が「科学」と「アート」の間で揺れ動いていたことが、酒井氏により、見事に描き出されていることです。このことは、私も何となく感じていましたが、明示的に意識していませんでした。北米の国際政治学/国際関係論のオーソドックスな方法論では、はじめに「パズル」を設定して、それを解くことが、一つの研究の手続きの正当なやり方として認知されています。他方、永井政治学は、そうした方法を次のように批判しています。

「政治問題は『困難』であって、『パズル』ではない。政治問題をパズルと見る考えは政治とエンジニアリングを同一視し、唯一の正解があるという誤見に導く」(酒井:74ページに引用)。

この点は、永井先生が常々強調していたことですが、酒井氏の鋭い「永井政治学」の批判的分析から気付かされるのは、それでも永井先生が、「科学としての政治学」と「アートのしての政治学」の葛藤に、最後まで悩まされていたのではないかということです(私の誤解でなければ)。そして、その一種の矛盾は、永井先生の華麗で独特のレトリックにより、私のような「凡人」には、見えにくくなっていたのかもしれません。

このディレンマは、「パズル」ではないので、当然、「解答」はないということになるのでしょう。これはもっともなのでしょうが、社会科学から距離を置くことには、代償も伴うようです。もちろん、永井先生が米国の国際政治学の主要理論(バンドワゴンなど)や概念(安全保障のジレンマ」など)を先取りしていたところもありますが(詳しくは、土山實夫「永井政治学の偉業を称えて」『青山国際政経論集』第50号、200年6月参照)、定性的アプローチによるものであれ、定量的アプローチによるものであれ、米国で発展した社会科学としての国際政治学/国際関係論とは、残念ながら、うまく調和しなかったようです。永井先生が、「アメリカの社会科学」としての国際関係論に批判的なスタンレー・ホフマン氏(ハーバード大学)や歴史学者のジョン・ルイス・ギャディス氏(イェール大学)の著作について、授業でしばしば言及したり、教材としてよくお使いになったりしたことは、方法論上の必然的な帰結だったのかもしれません。

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2014年度のゼミ生紹介(更新)

2014年04月21日 | ゼミナール
群馬県立女子大学国際コミュニケーション学部において、私の「国際関係論」ゼミナールの1期生になる学生を紹介します。まずは、それぞれの学生に、ゼミへの抱負を語ってもらいましょう。

M・Hさん:本を読んで知識を増やし、自分の意見をもてるようになりたい(と決意しています)。
K・Mさん:本を読んで、読んで、読みまくりたいと思います。
A・Kさん:(ゼミの)各テーマごとに、自分なりの意見をしっかり持って、発信したいです。
R・Cさん:本を読む習慣をつけ、しっかりとしたブックリポートを書けるようにしたいです。
M・Tさん:読書を通して、知識だけでなく、感性も豊かにしたいです。
T・Iさn:自分の意見をしっかり持ち、発信できる力を身につけたいです。
K・Tさん:国際関係のニュースに意見出来るように成長したいです。



私が、日頃から読書の大切さを強調してることが、ゼミ生たちのコメントに影響しているようですね。

ご参考までに、4月22日付け『朝日新聞』ウェブ版によれば、大学生の4割が1日の読書時間ゼロ、1ヶ月の図書購入費も過去最低とか。では、大学生は何をしているかと言えば、暇ならスマホだそうです…(もちろん、これが「県女」」の学生に当てはまるというわけでは、必ずしもありません。あくまでも、ある1つの調査結果が示した、日本の大学生の平均にすぎません)。

ゼミ生たちには、多読を勧めるのはもちろんのこと、国際関係論や社会科学のエッセンスから、知的刺激を受けてほしいと思っています。また、ブックリポートや小論文の執筆が、ゼミ生の達成感や満足感につながり、最終的には、それが批判的思考力を備えた人材の育成に役立つことを願っています。


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国際安全保障論の日本語による無料オンライン授業

2014年04月15日 | 教育活動
JMOOC など、日本でも大学の無料オンライン授業が、組織的に始まりました。その中でも、私の専門に関して注目すべき取り組みが始まります。

gacco による「国際安全保障論」の授業です。講師は、新進気鋭の国際政治学者・栗崎周平氏(早稲田大学)です。

この授業の内容は、日本における一般的な安全保障論のアプローチとは、やや異なるように思います。第1に、授業内容は参考文献が示唆するように、国際政治の計量的手法を用いた安全保障論ということです。講義内容は、その説明を見る限り、誤解を恐れず単純に言えば、米国の(計量的な)国際政治学と安全保障論を足して2で割ったようなものかもしれません。ですので、安全保障論のみならず国際政治学に関心がある人にも、お勧めです。

第2に、この授業は、領土紛争や抑止、同盟といった安全保障問題の実証に重きを置いていることです。日本の安全保障論は、一般的に、定性的アプローチによる政策志向がやや強いように思いますが、そうした授業とは方向性が異なるようです。その意味では、日本の安全保障論の教育に、一石を投じることになるかもしれません。

いずれにせよ、無料オンライン大学にて、世界レベルの「国際安全保障論」を日本語で学べるのは、喜ばしいことだと思います。


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「イースター英語お話会」のお知らせ

2014年04月11日 | 教育活動
群馬県立女子大学の学生たちによる「イースター英語お話会」が開催されますので、お知らせします。

場所は、群馬県玉村町文化センター2階和室1・2、日時は、4月20日(日)10:30~です。

どなたでも自由に参加できるそうですので、県女の学生たちと英会話を楽しんではいかがでしょうか。

ご参考までに、「イースター・サンデー」とは、キリストの復活を記念するキリスト教の祝日で、春分後の最初の満月の次の日曜日に行われる「復活祭」のことだそうです(デジタル『大辞泉』より)。

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群馬県立女子大学に移籍しました

2014年04月01日 | 日記
「エイプリール・フール」の冗談ではありません(笑)。

長年にわたり在籍した東海大学国際学科を去り、本日より、群馬県立女子大学国際コミュニケーション学部に移籍しました。この場を借りで、これまでお世話になった東海大学の関係者にお礼を申し上げるとともに、群馬県立女子大の関係者の皆様には、ご指導・御鞭撻の程、お願い申し上げる次第です。

移籍先の大学は、比較的小規模な公立大学ですが、教育スタッフの充実や教育成果などは、同大学同学部が英語やグローバル社会を学ぶのに素晴らし環境であることを示しています。英語教育に関して、TOEICの在学中の点数の上昇は眼を見張るものがあります。海外の著名大学で、Ph.D.(博士号)を取得している教員も多数在籍しています。

私はわたしで、新しい教育・研究組織において、先生方と協力しながら、自分にできることを地道に行っていきたいと思っております。


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