野口和彦(県女)のブログへようこそ

研究や教育等の記事を書いています。掲載内容は個人的見解であり、群馬県立女子大学の立場や意見を代表するものではありません。

『ユートピア政治の終焉』読後感

2011年05月28日 | 研究活動
最近読んだ本の中で、印象に残ったものを紹介したいと思います。

ジョン・グレイ、松野弘監訳『ユートピア政治の終焉―グローバル・デモクラシーという神話』岩波書店、2011年。¥4000+税

『ユートピア政治の終焉』は、本格的な政治哲学の書物です。本書のテーマは政治に潜む終末論的宗教の普遍性を暴くことであり、内容を一言で紹介すれば、「理想的な社会(千年王国)を創ろうとする試みは、必然的に悲劇的な結末に終わる」というものです。このような格言は、政治的リアリズムの底流を流れるものですが、理想と現実の逆説的な関係は直感的には、すぐには理解しがたいのではないでしょうか。なぜ理想を追求することがいけないのか?それは、いかなるユートピア思想にも、善い目的(理想郷の建設)を達成するためには、たとえ暴力(革命、戦争、テロ)であれ、いかなる手段も正当化されるという考えが内在しているからです。

グレイは次のように述べています。
「人間が互いに相容れない事柄―興奮と静かな生活、自由と安全…を欲するのは当然のことであると思われる。人間が衝突から自由な存在になるのは不可能であり、それが試みられた場合はいつでも、その結果は人間にとって耐えがたいものになる。仮に人間の夢が実現されたとするならば、その結果は夢半ばで潰えたユートピアよりもひどいものとなろう。…不可能な目的を達成するために非人道的な方法を用いることは、革命的ユートピア思想の本質である」(同書、24-25ページ)。

本書を読んでいて、私の脳裏に浮かんできたのは、故永井陽之助先生のことです。「全能の幻想」「政治とは、より少ない悪を選択すること」といった永井政治学の格言は、グレイの政治哲学に通じるところがあります。

実証主義者の観点からすれば、グレイの主張が正しいと論証するためには、人類の究極的調和の追求と破滅的結末の因果メカニズムを反証可能な仮説にすること、そして、その仮説の妥当性を検証すること、これら2つの作業が不可欠であり、残念ながら、本書では十分になされていないように読めます(とりわけ、サッチャーリズムの事例は、やや強引な引用であり、他の事例に比べて、従属変数の変化がほとんどないのでは)。しかしながら、政治哲学は政治哲学の方法論(認識論)がありますので、こうした実証主義との対話はすれ違いに終わるかもしれません。

「夢」という言葉が氾濫する今日の日本社会において、『ユートピア政治の終焉』は西欧の政治哲学の英知が凝縮された、重厚かつ示唆的な読み物だと思います(原書のタイトルはBlack Mass〈黒ミサ〉ですが、この書名そのものが同書の重みを象徴しており、なおかつユートピア思想の本質を暗喩しています)。


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特別授業のお知らせ

2011年05月26日 | ゼミナール
2011年度春学期「国際政治学」の6月16日(木)4時限目の授業は、学外から講師を招いた特別授業を行います。

今回、お招きする特別講師は、ノルウェー科学技術大学社会政治学科のポール・ミッドフォード准教授です。特別授業のテーマは、「日本の安全保障政策と世論」です。


講師のポール・ミッドフォードさんは、東アジア国際政治・安全保障や日本の対外政策、特に日本の防衛政策を専門にする研究者です。ミッドフォードさんは、米国のコロンビア大学で博士号(Ph.D. in Political Science)を取得しました。日本の滞在経験も豊富で、東京の平和・安全保障研究所などで研究活動を行うとともに、金沢大学や関西学院大学で教鞭をとった経験があります。

ミッドフォードさんは、近年の研究成果をまとめた著書『日本の世論と安全保障再考(Rethinking Japanese Public Opinion and Security: From Pacifism to Realism?)』をスタンフォード大学出版会から今年の2月に刊行しました。今回の特別授業では、この近著の内容を踏まえながら、世論が日本の安全保障政策の形成に与える影響について話してもらいます。


ミッドフォードさんは、私の古くからの友人であり、信頼できる研究仲間であり、「先生」でもあります。これまでミッドフォード先生とは、いくつかの研究プロジェクトを共同で実施しました。その成果としては、共著論文である「戦後アジアにおける日本と古典的勢力均衡論―国家評判と脅威均衡論の視点から―」『行動科学研究』第54号、2002年3月があります。その他、「定性的研究方法への道案内」という力作を吉川直人・野口和彦編『国際関係理論』勁草書房、2006年に寄稿して頂きました。

ミッドフォードさんが近著『日本の世論と安全保障再考』を刊行するにあたり、私も少しお手伝いをさせていただいたのですが、彼は本書の前書きで、その謝辞を次のように述べてくれました。

"I owe an exceptionally large debt of gratitude to Noguchi Kazuhiko, one of Japan's best up-and-coming scholars of international politics, ... for generously double-checking the transliterations of every Japanese word in this manuscript and offering valuable substantive comments along the way."

何か少し「こそばゆい」ですが、こうして研究仲間とエールを交換できるのは嬉しいですね。


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ゼミ生紹介

2011年05月23日 | ゼミナール
2011年度「専門ゼミナール」(3年次)のメンバーを紹介します。今年度は6名です。
まずは、それぞれの学生にゼミへの抱負を語ってもらいましょう。

植田野々香さん「考えて、考えて、考える!!」
谷島はなえさん「自分らしく理解を深めていく」
佐藤裕介君「ゼミでの学習を疎かにせずに、今まで以上に努力することと、自分将来のビジョンを明確にする」
三塚清夏さん「ゼミは大学で学ぶことの集大成になるものだと思うので、充実したゼミ生活を送りたい」
日野愛実さん「ゼミ生のみんなと仲良く、また一生懸命に取り組んでいきたい」
山之内健君「自分の本当に関心のあるテーマを見つけ、一つの事をとことん勉強する」

本年度のゼミは、例年に比べると少人数ですが、ゼミナールを効果的に運営するにはちょうどいい人数です。
もちろん「大所帯」のゼミもそれなりに良いところはありますが、私が大学学部・大学院時代に所属したゼミは「小所帯」でしたので、個人的には、このくらいの規模が大学のゼミナールらしいと思います。

3年次の後半に入ると、ほとんどの学生は就職活動に忙殺されてしまいます。ゼミで集中して知的探求ができる時間は、あまり長くありません。みなさん、専門ゼミでは悔いを残さないようシッカリと勉強して、満足できる成果を残して下さい。



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特別ゼミナールのお知らせ

2011年05月18日 | ゼミナール
2011年度第7回の専門ゼミナールは、以下の通り、外部講師を招いた「特別ゼミナール」とします。

テーマ:激動する国際情勢下の日本のグランド・ストラテジー
講師:川崎剛氏(サイモン・フレーザー大学政治学部准教授 アジアカナダ・プログラムディレクター)

日時:6月3日(金)15:10~16:40 場所:東海大学湘南校舎13-207教室


特別講師の川崎先生のプロフィールは以下の通りです。

川崎剛さんは、日本の対外政策やアジア太平洋の国際関係、カナダのアジア政策を専門にする研究者です。川さんは、同志社大学を卒業後、カナダのトロント大学で修士号、アメリカのプリンストン大学で博士号(Ph.D.)を取得し、現在はカナダ在住です。

川崎さんは、さまざまな国際関係の専門誌に英語で論文を発表しており、日本語で書かれた近著としては「国際権力政治の論理と日本」(原貴美恵編『「在外」日本人研究者がみた日本外交』藤原書店所収)や『社会科学系のための「優秀論文」作成術』勁草書房、2010年があります。今回の特別ゼミナールにおいて、川崎さんには、国際社会において日本はどのような針路をとるべきなのかについて、国際政治のダイナミズムと関連させながら語っていただきます。



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春スキーに行ってきました

2011年05月13日 | スポーツ
GW後半に、志賀高原の熊の湯スキー場に行ってきました。前回、熊の湯で滑ったのは、たぶん20年以上前(それまで横手や一の瀬、奥志賀などでは、何度か滑りましたが)。本当に久しぶりです!

熊の湯スキー場では、春スキーのリフト早朝運転を朝6時から行っていました。そこで、頑張って早起きして、早朝から滑りました。5月とはいえ、朝のバーンはしまっているので、気持ち良く滑れますね。春スキーは、雪がザクザクになり滑りにくいのですが、早朝はトップシーズンと変わらない雪質です(ただし、さすがに5月なので、気温にもよりますが、すぐに雪質は悪くなってしまいます)。春スキーの新しい発見でした。

息子は、元アルペン・トップレーサーの海和俊宏さんのレース・キャンプに入りました。久しぶりのポール練習でしたが、楽しそうでした。私は、海和さんのサインをもらいそびれてしまったのが残念。海和さん、次回はぜひ、サインを下さい。

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