野口和彦(県女)のブログへようこそ

研究や教育等の記事を書いています。掲載内容は個人的見解であり、群馬県立女子大学の立場や意見を代表するものではありません。

政策提言と検証作業

2014年09月28日 | 教育活動
来月から後期の授業が始まります。「国際関係論ゼミナールⅡ」では、政治学/国際関係論の分析手法と政策提言の方法を学びますので、私も準備をしています。その一環として、久米郁夫『原因を推論する-政治分析方法論のすすめ-』有斐閣、2013年を読み直しました。



今回は、国際関係理論と政策に関する「雑文」を仕上げた直後だったので、その視点から『原因を推論する』を読みました。本書は、政策提言について、当然のことながら、忘れがちなことに改めて気づかせてくれました。それは、以下の「教訓」です。

「分析が不充分なまま、前のめりに結論を急ぐ間違いを犯すことが往々にしてある……政策提言が、期待された効果を生まなかったときに、その提言のどこが間違っていたかを知ることは、それが前提とした因果関係のどこにまちがいがあったかを検証することなしには不可能である。それをしなければ、提言と反省を無限に繰り返すことになるだろう」(同書、236-237ページ)。

まったくその通りです。メディアでの華々しい政策提言に比べれば、検証作業は一見地味で目立ちませんが、社会で役に立つ政策を立案するためには必要不可欠だということです。

もう1点、久米氏の主張に同感したことは、以下のかれの信念です。

「(日本の大学改革論において)英語で学ぶことと論理的に思考する能力を身につけることが等値される傾向にある……必要なのは、英語であろうと日本語であろうと、論理的に思考し表現する能力であろう。原因を推論するための方法論を学ぶことが、そのような能力を高めると筆者は確信している」(247ページ)。

私もまったく同じ確信をしています。

幸い、今では、同書を含め、「原因を推論する」方法論を扱う良質な日本語のテキストや英書の邦訳が増えましたので、英語が苦手な学生でも、社会科学の論理(方法)を学びやすくなりました。理論構築やデータによる検証は、「文系(社会科学)」とは関係ない「理系」の世界のことだ、と勘違いしている高校生や大学生も少なくないでしょう。こうした誤解が、はやく解消されることを願いばかりです。本書を読むと、少なくとも、そのための土台ができつつあることを感じます。

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国際関係研究の最新の動向

2014年09月02日 | 研究活動
今日は、ある研究会で読んだ学術図書を紹介します。Bear F. Braumoeller, The Great Powers and the International System (New York: Cambridge University Press, 2012)です。同書は、ISA(国際学学会)の2014年度最優秀学術図書賞を受賞しています。



『大国と国際システム』は、国際関係研究の最近の方向性をよく示しているようです。第1に、国際関係研究において定量的手法と定性的手法の両方を使うということです。このような傾向は既存のIR研究でも示されており、本書でも、第3章が定量分析、第4章が定性分析に充てられています。第2に、同書から、理論研究にける「主義(ism)」の後退が、進んでいる印象を持ちました。著者のブラウメラー(と読むのでしょうか)氏曰く、「理論というものは、いかなる単一のパラダイム、あるいは『~主義』とも関係ない」(同書、XVページ)ということです。

私が思うに、この『大国と国際システム』が最も評価された理由の1つは、著者が仮説・検証にとどまらず、新しい「システム理論」の構築に挑戦したことです。ブラウメラーの主張のポイントは、市民(個人レベル)と国家(国内政治レベル)、そして国際システム(システムレベル)の相互作用を理論化することにあります(29-43ページ)。これを彼は「入れ子政治モデル」(21ページ)と呼んでいます。詳しくは、同書の第2章を読んでください。著者が、それに成功しているかどうかは、これから厳格に評価されることになるでしょう。

『大国と国際システム』は、分析レベルを統合するグランドセオリーを構築しようと試みた、久しぶりの本格的な国際関係研究だと思います。



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