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研究や教育等の記事を書いています。掲載内容は個人的見解であり、群馬県立女子大学の立場や意見を代表するものではありません。

米中のパワー・トランジッションと国際関係研究の新しい展開

2019年04月15日 | 研究活動
アメリカと中国のパワー・バランスが接近しているとよく指摘されます。これは、何をもたらすのでしょうか。世界の国際政治研究者は、この国際構造の変化に注目しており、いくつかの新しい成果をだしています。

1つは、Joshua R. Itzkowitz Shifrinson, Rising Titans, Falling Giants: How Great Powers Exploit Power Shifts (Ithaca: Cornell University Press, 2018) です。シフリンソン氏(ボストン大学)は、新進気鋭の国際政治学者です。本書の最大の特徴は、パワー・トランジッション期における台頭国がとる戦略を分析していることでしょう。衰退国が始める「予防戦争」の研究はたくさんありますが、台頭国がどのような政策を選択するのかを明らかにする研究は、確かに、ほとんど目にしません。彼によれば、台頭する大国は、既存の覇権国が自国の安全保障に寄与するかどうかで、対抗するか協力するかが決まってくると主張しています。




もう1つは、Paul K. MacDonald and Joseph M. Parent, Twilight of the Titans: Great Power Decline and Retrenchment (Ithaca: Cornell University Press, 2018)です。本書で、マクドナルド氏(ウエズリー大学)とペアレント氏(ノートルダム大学)は、上記の図書とは対照的に、衰退する大国の戦略に注目します。そして、国際関係論の「通説」とは異なり、大国は戦略的縮小をしばしば実行して、その地位を維持しようとするものだと主張しています。



これらの最新の研究は、パワーシフトによる米中の「覇権戦争」が、これまで言われるより起こりにくいことを理論的に実証しようとしています。これが正しい分析だとすれば、日本のみならず世界にとっては、よいニュースでしょう。悪いニュースは、日本では、こうした国際政治研究が必ずしもキチンと丹念にフォローされていないことでしょう。昨年末、「国際政治学」は終わったかどうかが、日本の学界で問われているのを知りました。そうした大胆な議論を行うのは「学問の自由」ですが、もっと大切なことは、国際政治学/国際関係論という学問の発展や展開を世界レベルで総合的かつ網羅的に把握することでしょう。

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