野口和彦(県女)のブログへようこそ

研究や教育等の記事を書いています。掲載内容は個人的見解であり、群馬県立女子大学の立場や意見を代表するものではありません。

スキーの「常識」とは???

2012年08月24日 | スポーツ
猛暑が続くなか、季節外れですが、多少は涼しさを感じそうなスキーの話題を1つ。スキー専門誌の1つに、『月刊スキージャーナル』があります。同誌の最新9月号は、なかなか興味深い特集「スキーのあなたの常識はまちがっている!?」を組んでいます。

この特集は、スキーの基本的な技術ポイントについて、各分野を代表する7名のトップスキーヤーが答えるという、面白い企画です。私は、スキーの基本は同じであり、答えもほとんど一致するのだろうと思って読んでみたのですが、その期待は見事に裏切られました(笑)。ほとんどの問いに対して、答えはバラバラなのです!

たとえば…
「スキーで一番大切なのは外脚だ!」に対して、○と答えたのが4名、☓が2名、△が1名と、見事に(?)見解が分かれているのです。その他、「クローズスタンスは良くない」については、○が1名、☓が5名、△が1名、「カカト荷重を意識している」については、○が4名、☓が1名、△が2名といった具合です。唯一、全員の見解が○で一致したのは、「ひねり(回旋)操作を使う?」に対する答えのみでした。

こうも「よい」とされる技術が違うと、何が「よい」のか、われわれは迷ってしまいますね。一般スキーヤーは、一体、どのように滑ればよいのでしょうか?

そこで、元ワールドカップのトップレーサーだった木村公宣氏の著書『スキー絶対上達』(実業之日本社、2004年)にも、答えを求めてみました。同書は8年前に書かれたもので、多少は古くなっているのかもしれませんが、参考になると思ったからです。



スキーのスタンスについて、木村氏は、「肩幅くらいあれば、ターン中、身体を傾けても内足を邪魔せずに、外足をスムーズに使うスペースができる」(23ページ)とあります。つまり、スキーの基本ポジションは、「クローズスタンス」ではなく、「ナチュラルスタンス」だということでしょう。「う~ん、なるほど」と思って、再度『スキージャーナル』を見てみると、あるスキーヤーは、こう答えています。「スタンスが広いと両スキーを同時に操作することがむずかしくなるので、クローズスタンスは必要」(31ページ)。「えっ~、どっちなの???」と正直、思ってしまいますね。

荷重ポイントについて、木村氏は、「足裏の親指の付け根にある拇指球と小指の付け根である小指球、そしてカカトの3点を結んだ三角形に圧を加えるように体重を乗せていく」(26-27ページ)ことを勧めています。では、『スキージャーナル』に登場したスキーヤーは、どうなのでしょうか?「カカト荷重というより足裏全体で立つ意識を持っています」と木村氏に近い感覚のスキーヤーもいれば、「つま先でバランスを取って滑るタイプ」や「つま先に体重を乗せる意識は全くありません」との回答も寄せられています。もちろん、「カカト荷重を意識して滑っています」との答えも複数ありました(34ページ)。

以前から、特に基礎スキー技術には「ナゾ」が多いと感じていましが、『スキージャーナル』を読んで、その「ナゾ」は深まるばかりです…(余談ですが、スキー技術のあれこれは、つまるところ「仮説」に該当しますが、それがどのように「検証」されているのか、個人的には興味をそそられます)。結局、スキーは、個人の身体的特性に大きく左右されるスポーツだということなのでしょうかね。

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日本の海上自衛隊と中国海軍の比較

2012年08月23日 | 研究活動
アメリカの海軍大学校の研究者ジェームズ・ホルムズ氏が、日中の海上における軍事衝突のシナリオ分析を『フォーリン・ポリシー』誌のネット版で公開しています。記事のタイトルは大胆で、「2012年における日中海戦―起こりそうにないのは分かっているが、もしそうなったら、どちらが勝つのだろうか―」です。

ホルムズ氏は、同僚のトシ・ヨシハラ氏(米海軍大学校)と共著で、中国の海洋戦略と海軍力を分析した専門書も最近、発表しています。



さて、架空のシナリオとはいえ、日中海戦の結果をホルムズ氏はどのように予測しているのでしょうか…。気になる方は、上記サイトの記事にアクセスして直接お読み頂ければと思います。


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日米同盟の「アーミテージ・ナイ報告書」を読む

2012年08月17日 | 研究活動
日米同盟に対する有識者の政策提言書が、米国の戦略国際研究センター(CSIS: Center for Strategic and International Studies)から発表されました。「日米同盟―アジアの安定を確かなものにするために―(The U.S.-Japan Alliance: Anchoring Stability in Asia)」です。執筆代表者は、リチャード・アーミテージ氏(元国務副長官、アーミテージ・インターナショナル代表)とジョセフ・ナイ氏(ハーバード大学)です。両氏が日米同盟の報告書を作成するのは、2000年、2007年に次いで、今回で3回目になります。

同レポートについては、『日本経済新聞』、 『読売新聞』『朝日新聞』 、『産経新聞』など、主要メディアが簡単に論評しております(同報告書を読んだ後に、各新聞社の論評を比較すると、面白い発見があることでしょう)。また、今後、さまざなま評価や分析も行われることでしょう。ここでは、この報告書に関する、私なりの読後感を簡単に述べたいと思います。

今回のアーミテージ・ナイ・レポートは、いくつかの特徴を持っています。それらをつきつめると、①日米同盟をより広くとらえていること、②日米同盟の「効率化」を求めていること、に集約されると思います。

同報告書は、日米同盟の「守備範囲」を拡大しています。このレポートは、同盟=軍事同盟という旧来のイメージから離れています。もちろん、日米両国の軍事協力について重要な提言がいくつか示されていますが、それが提言の中核を形成しているとは必ずしもいえないのです。これには少し驚きました。

同レポートの目次を構成するテーマは、最初から順番に、「エネルギー安全保障」、「経済と貿易」、「隣国(中国や北朝鮮)との関係」、「新しい安全保障戦略」となっています。かつては、軍事・安全保障問題は「高次元の政治」、経済問題などは「低次元の政治」と扱われていましたが、これらの優先順位は、アーミテージ・ナイ・レポートでは逆転しています。すなわち、レポートの目次は、軍事・安全保障問題より、エネルギーや経済により高い優先順位を与えていることを示唆しているのです。

エネルギー安全保障について、同レポートは、「日米両国は天然資源同盟になるべきだ」(p. 4)と主張しています。いうまでもなく、この提言は、3.11福島原発事故後の日本のエネルギー安全保障を考慮したものです。経済や貿易については、TPP(環太平洋経済連携協定)への参加が、日本の経済安全保障上の利益になると強調され、TPPに日本を参加させることが米国の戦略目標であるとハッキリ書かれています。

隣国との関係を分析した章は、「日米韓関係」、「中国の再台頭」、「人権と日米同盟」から構成されています。そして、肝心の中国については、「再台頭(re-rise)」という斬新な概念を軸に議論が展開されています。同報告書は、明白な「中国脅威論」に立脚していないと言ってよいでしょう。もちろろん、中国への警戒は随所に示されていますが、今年初めに米国が発表した「新国防指針」に比べ、ややトーンダウンしている印象です。むしろ、このレポートで使われている「再台頭」との言葉は、中国の現在の対外行動はアジアの安定を著しく損なうものでないとの前提に立ち、中国の勢いはなくなりつつあるとの見方を示唆しているようです。

このような想定に基づき、日米同盟の対中戦略は、アーミテージ・ナイ・レポートによれば、「関与(engagement)」とリスク「ヘッジ(hedging)」が望ましいということになります。対中関与政策は、今年5月に発表された米国の「中国の軍事力に関する年次報告書」でも強調されていましたので、それと重なります。ここでいう「関与」とは、要するに、アジアの多国間制度を活用しながら、日米中関係ひいてはアジア全体を安定化させるということでしょう。「ヘッジ」戦略については、明確にこう言っています。

「一つだけ確かなことがある。日米同盟は、中国の針路の変化に対応できる能力と政策を形成しなければならない、ということだ」(pp. 9-10)

ここから浮かび上がるキーワードが、「インターオペラビリティ(相互運用性)」です。そして、このことは、日米同盟の効率化とも密接に関連してます。財政的制約が厳しいため、日本も米国も今後ますます軍事支出を減らさざるを得ません。だからこそ、日米両国は協力しあって、中国の膨張行動や北朝鮮の核開発に対して効率的に対応すべきだということです。具体的には、「米国と日本はエアシー・バトルや動的防衛力といった概念を統合」して、新しい役割と任務を打ち出すこと、「統合サイバーセキュリティ・センター」を創設することなどが提言されています。

アーミテージ・ナイ・レポートは米国政府の公式見解を反映したものではありませんが、これが日米同盟に与える影響は小さくないでしょう。実際、ジョセフ・ナイ氏は、国防次官補の時に「東アジア戦略報告」(1995年)の作成に携わっており、この報告は日米同盟の再定義や新ガイドラインの策定(1997年)につながりました。同報告書の提言に、とりわけ日本政府がどのように対応していくのか、注目したいと思います。

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国際安全保障研究のサイバー・フォーラム

2012年08月15日 | 研究活動
インターネットは、安全保障研究にも大きな影響を与えています。かつては研究者が研究成果を発表したり情報を共有したりするためには、学会や研究会という場所や紙ベースの学術誌や図書を利用しなくてはなりませんでした(もちろん、それらの重要性は今も変わりませんが)。現在では、それに「サイバースペース」が加わっています。

ここでは、安全保障研究に関するサイバー空間フォーラムとして、International Secuirty Studies Forum を紹介したいと思います。

このフォーラムは、安全保障研究の最新の学術書や論文を議論するためのものです。同サイトは、安全保障研究の主要学術誌である、International Security誌、Security Studies誌、Journal of Strategic Studies誌、そして、国際学会(ISA: International Studies Association)の安全保障研究部会とも連携していますので、その利用価値は高いと思います。そして、議論の結果は、H-DiploのISSF Series として、ネット上で公開されます。ですので、利用者の利便性に優れた学術サイトといえるでしょう。もっとも、フォーラムの母体であるH-Diplo は、外交史や国際関係史のフォーラムということもあり、ISSFで取り上げられる研究成果は、歴史学とも通じるものが多いようです。

なお、国際関係研究における政治学と歴史学の共通点や相違点については、コリン・エルマン、ミリアム・フェンディアス・エルマン編『国際関係研究へのアプローチ―歴史学と政治学の対話―』東京大学出版会、2001年をお読みください。



いずれにせよ、ISSFは、世界の安全保障研究の動向をチェックするのに役立つサイトです。安全保障問題に関心がある人なら、誰でも、いつでも、どこでも同サイトにアクセスして、安全保障研究の新しい動きを知ることができるのですから。便利になったものです。

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安全保障研究における計量分析

2012年08月14日 | 研究活動
近年の国際政治学において、数学を使った計量分析がどのように行われているかを分かりやすく解説した論文を紹介したいと思います。多湖淳「国際政治学における計量分析」『オペレーションズ・リサーチ』第56巻第4号(2011年4月)です。

数年前、私は国際関係の主要理論やアプローチを紹介したテキスト『国際関係理論』(勁草書房、2006年)を研究仲間とともに出版しました。同書は、お陰様で刷数を重ねておりますが、同時に、「国際関係の数理アプローチを軽視している」との批判も受けておりました。同書に、こうした物足りなさや不満を感じた方は、上記に紹介した多湖論文を読んで、国際政治学の計量分析へも視野を広げて頂ければ幸いです。

多湖論文が、国際政治学、とりわけ安全保障研究の計量アプローチの動向をうまくまとめていますので、私が、ここであまり余計なことを言う必要はありませんが、同学問の現状や計量分析の実証について、若干付記させていただければと思います。

1つは、現在の安全保障研究は、さまざまなアプローチから成り立っているということです。すなわち、「知的・方法論的多様性(the intellectual and methodological diversity)」(S. ウォルト氏)が維持されている、ということです。国際政治学の世界のトップジャーナルを見ると、傾向として、American Political Science Review誌、International Organization誌などは計量分析の論文をこぞって掲載する一方、International Security誌や Security Studies誌は、日常言語で書かれた理論や事例研究の論文を重視しています。こうした学問上の多様性は、国際政治学や安全保障研究にとって健全なことだと思います。

2つめは、数理理論の実証についてです。理論の経験的検証は、その妥当性を確かめるために必要不可欠です。その主なツールは、統計と事例研究です。合理的選択理論家がよく使う統計的検定は、検証の有力な方法である一方、事例研究による因果関係の過程追跡(出来事が理論通りに起こっているのかを歴史証拠などにより確認すること)も、理論の検証には、なくてはならないものです。前者については、多湖論文でもいくつか紹介されていますが、後者については、多湖論文が発表された後に大きな展開がありました。

計量分析での精緻化が進んだ「観衆コスト」モデルについて、ようやく本格的な事例研究が行われたということです。その1つが、Jack Snyder and Erica D. Borghard, "The Cost of Empty Threats: A Penny, Not a Pound," American Political Science Review, Vol. 105, No. 3 (August 2011), pp. 437-456 であり、もう1つが、Marc Trachtemberg, "Audience Costs: An Historical Analysis," Security Studies, Vol. 21, No. 3 (Jan-Feb 2012), pp. 3-42 です。

スナイダー・ボガード論文は主に第二次世界大戦後の事例、トラクテンバーグ論文は、第二次世界大戦前の事例から、観衆コストモデルを検証しています。両論文の結論は、理論の妥当性をかなり強く否定しています。この2つの刺激的な論文に対しては、おそらく、今後、数理理論家から反応があるでしょう。

これに関連して、イランの核開発危機は、観衆コストモデルの「実用性」を考える機会をわれわれに与えています。ダニエル・ドレズナー氏(タフツ大学)が『フォーリン・ポリシー』誌の「ブログ」で示唆するように、現在進行しているイランの核開発をめぐる「危機」は、観衆コスト仮説を試す、現在進行形の「テスト・ケース」を提供しています。この危機が、どのような帰結を迎えるのか(民主国イスラエルの脅しに、イランは屈するのか、など)、ということにも注目したいと思います。

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