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研究や教育等の記事を書いています。掲載内容は個人的見解であり、群馬県立女子大学の立場や意見を代表するものではありません。

拙稿「核革命と軍拡競争―中国の核戦力の事例による検証―」

2022年03月04日 | 研究活動
この度、拙稿「核革命と軍拡競争―中国の核戦力の事例による検証―」が、『群馬県立女子大学紀要』第43号(2022年2月)に掲載されました。本稿は、昨年3月に日本国際政治学会編『国際政治』に発表した「国際システムを安定させるものは何か―核革命論と二極安定論の競合―」の続編になります。後者では、バーナード・ブローディ氏が理論の原型を示し、ロバート・ジャーヴィス氏が定型化した「核革命論」の妥当性をキューバ危機の事例により検証しました。しかしながら、これは「第一の核時代」には妥当かもしれませんが、冷戦後の「第二の核時代」では通用しない、時代遅れの理論かもしれません。

この数十年で、核戦力の技術が大幅に進歩しました。とりわけ核ミサイルの位置を探知するテクノロジーや潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の飛躍的な命中精度の向上は、核戦力の非脆弱性を劇的に低下させる結果、相互確証破壊(MAD: Mutual Assured Destruction)を無効にしたとの「核革命神話論」も無視できません(Keir A. Lieber and Daryl G. Press, “The New Era of Counterforce: Technological Change and the Future of Nuclear Deterrence,” International Security, Vol. 41, No. 4, Spring 2017, pp. 9-49; “The End of MAD? The Nuclear Dimension of U.S. Primacy,” International Security, Vol. 30, No. 4, Spring 2006, pp. 7-44)。そこで前者の「核革命と軍拡競争」では、「核革命論」が現在世界においても引き続き妥当なのかを、この約10年間における中国の核戦力の展開を事例にして検証しました。その結果、わたしは核革命論は引き続き核保有国の相互関係や行動を説明できると結論づけました。

また、「核革命と軍拡競争」では、中国が「少量で効果的な(精干有效)」核戦力の態勢を維持してきたパズルにも挑みました。周知の通り、中国は大規模な軍備増強を行っていますが、核兵器の数量に限っては、目立った増加を見せていません。これに対する回答としては、中国が「核革命論」のロジック通り、必要性最小限の非脆弱な核の報復能力を維持することで安全保障を担保すると共に、台湾海峡の有事などに備えた通常戦力により力を注いでいると分析しました。

ジャーヴィス氏は、Nuno P. Monteiro and Fritz Bartel, eds., Before and After the Fall: World Politics and the End of the Cold War, Cambridge University Press, 2021 に寄稿した論文「核の時代―冷戦中とその後―」において、核革命は冷戦前後の国際政治において、継続して妥当性を保持していると、このように主張しました。「冷戦の終結とともに、核戦争の危険は劇的に低下した。そして、核兵器とこの対立との関係は自然と次の期待をもたらした。すなわち、核兵器は国際政治において非常に乏しい役割を果たすか、おそらく何も果たさなくだろう、と。このことは実現しなかった。ブローディが言及した核兵器の存在とその甚大な破壊力という二つの事実は、いまだに多くの国家の希望と恐怖なのだろう。核兵器によって創られた実在の世界は、政治文化やイデオロギーが異なるにもかかわらず、全てとは言わないまでも、大半の政策策決定者に、それ自体を同じようなものに印象づけている…大規模な核戦争の根本的不毛さは、普遍的に理解されているようである…核兵器は攻撃を抑止することに、よりすぐれているのだ」(前掲論文、117、122、128ページ)。わたしもかれと同じ結論に達しました、核兵器は1945年から引き続き現在まで、国際政治に大きなインパクトを与えているということです。なお、拙稿は近いうちに、JAIRO Cloudで公開されます。よろしければご笑覧ください。

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