野口和彦(県女)のブログへようこそ

研究や教育等の記事を書いています。掲載内容は個人的見解であり、群馬県立女子大学の立場や意見を代表するものではありません。

政治学と歴史学の対話は続く

2017年03月31日 | 研究活動
政治学と歴史学は、戦争や平和といった同じようなテーマを扱うにもかかわらず、学問分野として異なっています。これらの学問を橋架するのは、至難の業です。最近、こうした学術的挑戦を行った注目すべき図書が刊行されましたので紹介します。

1つは、宮下明聡氏(東京国際大学)の『ハンドブック戦後日本外交史―対日講和から密約問題まで―』(ミネルヴァ書房)です。


宮下氏によれば、本書は日本外交に関する仮説構築や検証に使える「事例集」とのことです。サンプルが多くなることは、理論を発展させることに役立ちますので、本書は政治学と歴史学のギャップを埋める基礎作りに、大きな貢献をしています。

もう1つは、榎本珠良氏(明治大学)が編集した『国際政治史における軍縮と軍備管理』(日本経済評論社)です。


編者の榎本氏はこう言っています。

「本書に至る一連の研究を基礎にして、歴史学者の側から、近現代の軍縮・軍備管理に通用する何らかの一般化を行う目的が掲げられ、国際政治や安全保障の研究者…との学際的研究の必要性が提起されたことは、極めて稀な現象である」(263ページ)。

今後、こうした研究が日本外交や軍備管理・軍縮の理論の発展や構築にどう結びついていくのか、注目していきたいと思います。

「吉田ドクトリン」の終焉

2017年03月10日 | 研究活動
外交雑誌『フォーリン・アフェアーズ』の最新記事「トランプとアメリカの同盟関係-同盟国に同盟責任を委ねよ-」(ダグ・バンドウ著)は、日本の安全保障戦略に重い課題を突きつけていると思います。本論文の要点は、以下のとおりです。

「朝鮮半島で戦争が起きても、アメリカの安全保障を直接脅かすわけではない。新大統領は、同盟国に自国を防衛する責任を引き受けさせることに力を注ぐべきだし、そのためには同盟諸国は戦争を抑止し、戦争になればそれに勝利できる通常戦力を構築すべきだろう」。

こうした主張は、トランプ政権になったから行われるようになったと考えるべきではないでしょう。むしろ、国際システムの構造的変化(米国の相対的衰退、中国の台頭、ソ連の崩壊によるパワー分布の変化)によるものではないでしょうか。トランプ大統領のパーソナリティや政権の政治力学に注目しすぎると、こうした大局的視点が抜け落ちてしまいます。国家の対外政策は、国際環境からの制約を強く受けるものです。

私見では、アメリカの東アジア政策は、「アジアに覇権国が出現することを阻止する」伝統的な「オフショア戦略」と「アジアにおける紛争に巻き込まれることを避ける」孤立主義の間で漂流しそうです。どちらの戦略にアメリカが傾くにせよ、同盟国、すなわち日本に自助努力を促すことになります。

ですから、戦後日本の国家戦略「吉田ドクトリン」(軽武装経済重視路線)は、もはや通用しないでしょう。日本は、新しい国家戦略を構築する時期を迎えたと思います。