野口和彦(県女)のブログへようこそ

研究や教育等の記事を書いています。掲載内容は個人的見解であり、群馬県立女子大学の立場や意見を代表するものではありません。

中国の戦略行動と攻撃的リアリズム

2018年02月07日 | 研究活動
私の恩師である天児慧先生の早稲田大学退職を記念して、教えを受けた天児組の「弟子」たちが、先生への感謝の気持ちを込めた論文集を刊行しました。早稲田大学アジア太平洋研究センター『アジア太平洋討究』(天児慧教授退職記念号)第30号、2018年1月です。編集の労は、平川幸子氏がとってくださいました。ありがとうございました。

本号に、私は拙稿「中国の安全保障政策におけるパワーと覇権追求―攻撃的リアリズムからのアプローチ―」を寄稿しました。昨年の夏季休暇を使い、天児先生の学恩に報いようとの気持ちで、ヘロヘロになりながらも一所懸命に執筆しました。なお、拙稿は早稲田大学リポジトリにおいて、近いうちに公開される予定です。

天児先生との出会いは、「野球」でした(先生の野球愛は有名)。約25年も前になります。青山学院大学の野球練習場でナイターの草野球をやるというので、私は当時、非常勤講師を務めていた群馬の私立大学で講義を終え、そのまま東京の青山まで野球に駆け付けました。その後、しばらくは天児大投手の「へぼ」キャッチャーとして、バッテリーを組ませていただきました。天児投手の決め球は、「スライダー」。右打者の外角低めに決まった時は、まず打たれませんでした。

閑話休題。

天児先生は、ご自身の集大成として、『中国政治の社会態制』岩波書店、2018年を出版されました。実に、25冊めの単著です!




本書の主な主張の1つは、欧米でつくられた社会科学の分析枠組みによる中国政治の説明に対する警鐘です。他方、拙稿は米国の学者が構築した理論による中国の戦略行動の分析です。つまり、「師匠」の主張に真っ向から対立する「論文」を恩師の退職記念の論集に寄せたことになります。「私はそもそも若者と語り合い、議論することが大好き」(前掲書、291ページ)な先生だからこそ、論争的な研究を許してくださったと私は信じています(もう若者ではありませんが、苦笑)。

「人を育てる」ということは、多感な青年期の人間の心にどれだけ寄り添って、彼らの研究や将来についてサポートしていけるかということだろう(290-291ページ)。

至言です。「こいつはバカだから」と言いながら(25冊も単著を書く学者からすれば、ほとんど全ての「弟子」はバカでしょうね(笑)、公私にわたり、いつも温かなご支援を与えてくださった天児先生に、心から感謝申し上げます。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

博士と教授の実態

2018年02月04日 | 日記
ある調査によると、小学生男子がなりたい職業の第1位は、「学者・博士」のようです。確かに、メディアには、学者を肩書にする人物がしばしば登場して、さまざまな社会問題にコメントをよせたり、意見を発したりしています。優れた研究成果を残した学者は、社会から高い尊敬を集めます。こうしたことから、小学生が「学者・博士」に憧れても、不思議ではありません。

私は小学生の「夢」を壊したいと思いませんが、「学者・博士」の実態が、どれだけ世間で理解されているのか、とても気になっています。おそらく、ほとんど理解されてないのでしょう。

第1に、博士号を取得しても、大学で学問を生業にできる研究者は、ごく一部です。ある教育社会学者によれば、大学教員のポストは、今や博士14人に1人です。とても狭き門をくぐらないと、大学教授にはなれません。一生涯「フリーター」の博士は珍しくないといったら、多くの人達は驚くでしょう。しかし、これが実態なのです。

第2に、大学教員の最高位である教授は、世の中の多くの人がイメージするほど、給与が高くありません。大学教授(60歳)の平均年収は、大手企業の課長クラスと指摘されています。しかも、大学教員の就職は、一般企業や公務員より、はるかに遅い。博士号を取得するまでに時間がかかり、さらに、専任教員や研究員のポストを得るための「就活期間」も決して短くありません。30歳代半ばから40歳前後といったところでしょう。20歳代で正職がみつかる学者は、そうとうな幸運に恵まれいます。したがって、生涯賃金は、大手企業のビジネスパーソンに比べると、さらに下がります。さらに、多くの「学者」は、大学院時代に受けていた奨学金を返済しなければなりません。

運良く大学教員のポストを得たとしても、その仕事の実際はどうでしょうか。興味のある人は、櫻田大造『大学教員採用・人事のカラクリ』中公新書、2011年を読んで下さい。

キャリア教育は、今では子どもの時からから行われています。果たして、「職業としての学問」は、どのくらい小学生に教えられているのでしょうか。





  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする