1日1日感動したことを書きたい

本、音楽、映画、仕事、出会い。1日1日感動したことを書きたい。
人生の黄昏時だから、なおそう思います。

「大搾取!」(スティーブン・グリーンハウス)

2009-10-31 12:54:23 | 
 「大搾取!」(スティーブン・グリーンハウス)を読みました。筆者は、ニューヨークタイムズの労働問題担当の記者です。最低賃金以下で働かされる移民労働者。夜間店舗に監禁され、タダ働きを強制するウォルマートの従業員。労働組合を作ろうとしたことで職場から追い出された女性労働者。独立自営業者だという名目で社会保障や残業代をカットされるトラック運転手。「常用臨時雇用」される派遣労働者。年金がカットされたために、70歳をこえて働き始めた清掃労働者。高騰する学費をねん出するために、アルバイトとローンに追われる学生たちなどなど。

 この本をよむと、アメリカの働く人たちが、いかに厳しい状況におかれているのかということがとてもよくわかります。2001年11月以降、アメリカでは企業の収益は二倍になり、労働者の生産性が15%高まったにもかかわらず、平均賃金は1%しか上昇しませんでした。規制緩和とグローバリゼーションという名のもとに、労働条件の切り下げと働く人たちの尊厳が踏みにじられてきました。

 これは決してアメリカだけのことではありません。私たちの国においても、2000年からの8年間に、企業の経常利益は2.5倍に拡大しましたが、雇用者の報酬は、同じ時期に0.8%低下しました。リーマンショック以降の景気後退の中では、派遣やパート労働者の方々が真っ先に職場を失っていきました。この本で紹介されている労働者の過酷な実態は、日本の働く人がおかれている状態をうつす鏡なのだと思いました。

 このような状況を改善していくために、わたしたちは何ができるのか。筆者は、「王道」として、二つの取り組みを提案しています。ひとつは、「従業員にやさしい会社」をつくることです。筆者は、従業員がオーナーであり、取締役の3分の2が従業員が占め、みずからの賃金や福利厚生やボーナスを従業員が決定している訪問介護ヘルパーの会社、コーポラティブ・ホームケア・アソーシエイツの取り組みを紹介しています。日本でも注目され始めた労働者協同組合が、アメリカでも注目され始めているのですね。

 そしてもうひとつは、労働組合の力です。筆者は、アメリカの労働組合の腐敗や幹部の官僚主義を批判しつつも、「労働組合は、アメリカにあるほかのどんな組織や制度より、低賃金労働者の生活を向上させ、不平等を減らすために貢献」していると指摘し、労働組合が予算の25%を未組織労働者の組織化にあてることを主張しています。この本の中では、ラスベガスで働く労働者の組織化や技能訓練に成功した労働組合キャリナリー・ワーカーズ第226支部や、清掃労働者の大規模な組織化に成功した労働組合SEIUの実践が紹介されています。企業の横暴に屈ぜず、労働者としての尊厳を求めて立ち上がり始めたおっちゃん、おばちゃんの姿が、とても素敵なのです。

 雇用情勢の悪化がつづくなかで、「従業員にやさしい会社」をつくることと、労働組合を再生していくことは、日本においてもとても大事な課題なのだと思いました。