「ラースと、その彼女」

　ラースは、人づきあいがとても苦手な青年です。兄夫婦が住む実家の離れで独り暮らしています。そんな彼が、初めて連れてきた恋人は、ビアンカという名前のダッチワイフなのです。ラースとどのようにつきあっていけばいいのか、家族や村の人たちの驚きと動揺から映画は始まります。

　村の医師のカウンセリングによって、ラースは他人に触れられると痛みが全身に走ることが明らかになります。それは、彼を出産したときに母が亡くなってしまったことが一番の原因であり、兄が家を飛び出した後の父との二人だけの生活の中で、より大きな傷となってラースの心に残ったものなのです。

　「妄想が必要なうちは、ラースにとって、ビアンカは実在しています。」という医師の助言に従って、家族も村の人たちも、ビアンカをラースのほんとうの恋人として接していきます。ビアンカにアルバイトを紹介したり、ラースとビアンカをパーティーに招待したり。村の人たちとラースのユーモラスで、ちょっぴりせつないつきあいが描かれていきます。

　人を支えるというのは、ほんとうに息の長い、しんぼうのいる行為なのだとつくづく思う一作でした。心温まる映画だけれど、テーマ自体は重たいと思う。映画の中だけなんだろうな、こんなふうにうまくいくのは。