写真はBBC NEWSによる2020年6月香港デモのカット
警官隊に捕らえられうつ伏せにされながらカメラを凝視して
世界に伝えてくれと何かを訴えている香港青年
【習近平中国の膨張政策と香港接収の時系列】
2012-11
中国共産党中央委員会全体会議で習近平氏、党総書記並びに党中央軍事委員会主席就任
2013-03-14
全国人民代表大会で習近平氏、国家主席並びに国家中央軍事委員会主席に就任
2013-09
習近平国家主席、カザフスタンのナザルバエフ大学で 「シルクロード経済ベルト」構想を発表
2013-10
習近平国家主席、インドネシア国会で 「21世紀海上シルクロード」建設構想を提案
2014-05-15
フィリピン外務省が時系列写真を証拠として、フィリピン領海である南シナ海ジョンソン南礁を中国が埋め立てたと発表。中国は、その島は中国領土であるとして相手にせず。
2014-11-01
中華人民共和国の「反スパイ法」が施行され、これに応じて1993年2月22日から続いていた国家安全保障法が廃止になりました。
2015-02
中国政府に「一帯一路」建設工作領導小組が発足
2015-07-01
新たに、「中華人民共和国国家安全保障法」施行
2015-07-09
中国で人権派弁護士ら300人以上の一斉拘束が始まった。
新「中華国家安全保障法」施行に呼応したもの。
2015-10-24
香港で銅鑼湾書店店主ほか店員ら4人の失踪事件発生。
わかってみれば同日、彼らは中国の国家安全局に香港で逮捕され、中国本土の寧波ニンポーで拘禁されていた。
2016-06 銅鑼湾書店関係者(香港)、釈放
2016-06-16 林栄基・銅鑼湾書店主が記者会見
2016-12-13
米国CSIS(戦略国際問題研究所)によって、中国が南沙諸島で埋め立てた7つの人工島すべてにおいて航空機攻撃用の高射砲や巡航ミサイル迎撃用の「近接防空システム (CIWS) 」を配備したとする衛星写真に基づく分析結果が公表された(※出典Wikipedia)。
2019-02-13 香港政府が逃亡犯条例改正案提起
2019-10-23 林鄭月娥香港行政長官が逃亡犯条例改正案正式撤回
2020-07-01 香港特別行政区国家安全維持法施行
【習近平中国の対外膨張性格】
上の時系列を見てみましょう。2012年11月、習近平氏は中国共産党の総書記、党中央軍事委員会主席に就任。4カ月後の2013年3月、国家主席と国家中央軍事委員会主席に就任。習近平氏が独裁権力基盤を獲得しました。
それから半年後の2013年秋、習近平主席は「一帯一路構想」を発表して、推進していきます。
これに並行して、南シナ海の岩礁を何カ所も埋め立てて軍事基地を作りました。航空基地になり得る飛行場を完成しています。南シナ海はフィリピン、インドネシア、ベトナムの領海が絡む領域ですが、中国は自国領海だとして相手にしません。
中国の海洋進出について、明の永楽帝の時代、鄭和の艦隊が有名です。中華民族という表現で言えば漢民族ということになりますが、中国の歴代王朝は異民族であることが多いのです。世界史上最大の版図を広げた元はモンゴル民族です。
元軍は鎌倉時代に日本に侵攻しましたが、元軍の構成は、元に征服された南宋の漢人主力軍と、元王朝属国の高麗王朝韓人軍でした。
習近平中国を謳歌している人々は、明王朝永楽帝の栄華を思い起こして奮い立っている様子です。しかし、習近平中国の強権政治の性格は(共産党独裁はいつでもどこでも強権政治ですが)、「一路一帯」の「一帯」の方が近いという感があります。
すなわち元王朝の方に近親的である感がします。中国王朝の外国支配の方法は、朝貢貿易です。朝貢という臣従外交関係はこちらが弱みを見せれば、「属国」という関係になり、もっと弱味を見せればチベットのように併合されて、独立国でなくなります。
このたびの香港特別行政区国家安全維持法施行による事実上の香港接収は中国国内のことですが、香港返還に伴う一国二制度50年維持という国際公約を公然と破る行為です。
【国内抑圧政策】
「一帯一路」膨張政策がレールに乗り始めた2015年7月、一帯一路に符節を合わせるかのように、「国家安全保障法」が中国で施行されました。
これは国内抑圧政策です。弁護士300人以上が、2015年7月一斉に拘禁されました。
同2015年10月には香港・銅鑼湾書店の関係者5人が行方不明になりました。香港警察が承知していたのかどうかわかりませんが、香港特別行政区域外の中国治安機関によって連れ去られて、彼らは寧波に拘禁されていました。
銅鑼湾書店店主が翌2016年に釈放されて記者会見したのですから、中国政権は、一国二制度に基づく香港の警察権をわざわざ踏みにじって、香港内外に見せつけたのでしょう。
これら中国国内弁護士の大量拘禁や銅鑼湾書店関係者の不法連れ去りを香港人は見知っています。2019年2月の逃亡犯条例改正案に対して100万人といわれる規模の大デモが起きました。イギリス植民地という制限がどこかにあったはずの香港人にとってはそれでも、母国中国の不自由さより良いということなのでしょう。
逃亡犯条例改正案は、香港における犯罪人あるいは犯罪容疑者の中国本土送致が含まれていました。この改正法案は香港法を順守する体裁を取りながら骨抜きにするものでした。
それは見透かされて余りに反対が多く、外国の視線も強くなったので、習近平政権は改正案を10月、香港行政長官に撤回させました。このままで済むだろうかと思っていたら、習近平中国政権は一気に跳躍しました。もはや香港や台湾や英国ほか外国の反発にかまっていられないと決断しました。
それが、「香港特別行政区国家安全維持法」7月1日施行です。
【香港圧制接収――対米国内結束を急いだため】
日本人が香港のこれからの成り行きをしっかり見守っていくことは、習近平中国が根っこのところで専制国家であるという実態を知ることにつながります。私は自由と民主主義の良さを広げる国の善き人として、専制国家の壁に捉われることなく、自由と民主主義を求めるアジアの人たちと手をつないで生きたいと思います。
全国人民代表大会常務委員会は今年2020年6月30日まで、香港人にも香港行政機関にも議会にも全く内容を知らせないまま、香港国家安全維持法を可決、成立させました。
これは、中国国内、香港特別行政区内、諸外国のどのような反発も受け入れないという習近平政権の強固な意思表明でした。
2020年7月8日、「駐香港国家安全維持公署」の開所式が行われました。これは香港特別行政区国家安全維持法48条~61条に規定されているもので、中央人民政府直属の治安機関です。
今後の香港で政権批判や国政批判をしたり、抗議活動をすることは、中国本土内と同様に、香港国家安全維持法第20条~30条にある「国家分裂罪」「国家政権転覆罪」「テロ活動罪」「外国と結託する罪」に問われる危険性があります。
これらの罪の厳密な基準は今のところ公表されていません。そして適用認定するのは治安機関です。香港人といえども過剰に自粛して身の安全を守らねばならなくなります。
香港銅鑼彎書店関係者や中国国内人権派弁護士は或る日、秘密裏に拘束されて行方不明になりました。治安当局はその後に少し月日を置いてから逮捕拘禁を公開して見せしめとし、国民が萎縮しておとなしくなるのを待つのです。もちろん見せしめに拘禁して見せるのは、政権批判をしたり、しようと思っている人達に対するもっとも優しい処置です。