声楽を学んできた立場からすると、器楽というものは楽器を複数用意して交換して演奏することが出来ることが何ともうらやましい様に感じます。もっともそのためには財力が必要になりますが。しかし声楽では親から授かった自分の声帯の特性によって声質が決まってしまい、いくら歌いたいと思ってもバリトンやバスが「誰も寝てはならぬ」を歌うことは難しいですね。ところがフルートであればピッコロに持ち替えれば更に高音域に、アルトフルートやバスフルートに持ち替えれば低音域を容易に広げることが出来ます。
さて、フルートに限らず現在の木管楽器というものは全て理想からはかけ離れたもので、常に音程を微妙に調整しながら吹奏する必要があるのだとか。管体にトーンホールという多数の穴を開けて、キィを操作して特定のトーンホールを開け閉めすることで管体の実効的な長さを変えることで音程を作ることが原理ですね。倍音をつかってオクターブ音程を上げると開放端補正も変わるので音程が微妙に変わるのは当然と思います。さて、フルートやサキソフォンでは金属製の管体から平面上のタンポがトーンホールを閉じられるように側壁が立ち上がっています。なので管体の中にある空気の立場で眺めてみると、管体のあちこちに凸凹があることになります。これらの凸凹の空間が理想的な管体からのズレを生む一つの原因にもなっているのではないかと気になります。
つまり単純なパイプ状の管体にトーンホールを開けただけで、側壁の立ち上がりのない形状の方が理想的なフルートになるのではないかと思うのですが。バロックフルート等の古いフルートは木製で管の厚みがある一方でトーンホールの大きさは小さく、人間の指だけで開閉していた訳です。現代フルートの父と呼ぶべきドイツ人のベームにより改良されたモダンフルートで、金属製の管体で管の厚みが薄くなり、トーンホールが大きくなり側壁が立ち上がってタンポでトーンホールを開閉するようになりました。当時の金属工作の精度や技術では側壁の立ち上がりのない湾曲したトーンホールを正確に開け閉めする機構を作成することは至難の業だったと思います。しかし現代の様々な加工技術や素材を用いれば、側壁の立ち上がりのない理想的なパイプ状の管体に、湾曲したトーンホールを直接開閉するタンポを用いることも不可能ではない様に思うのですが。
そうすると、より抵抗なく息を流せて、遠達性のある豊かな音が吹奏できるのではないかと思うのですが如何でしょうか・・・。これまでにも合成樹脂製のタンポ等が提案されているようですが、いまだに昔からのフェルトに豚の腸だか魚の皮だかを貼ったタンポが使われています。髪の毛一本分の狂いでも音が出なくなる等と言われているようですが、現時点では半信半疑です。デリケートな演奏技術が身についてくると、クラシックスタイルの楽器が一番だと言うようになるのでしょうか。そう言えるようになるぐらいまで演奏技術を身につけてみたいものです。