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碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

毎日新聞で、ドラマ「相棒」について解説

2022年12月21日 | メディアでのコメント・論評

 

<特集ワイド>

相棒、復活 

「傍流」への共感、割り切れぬ結末で余韻

国民的人気の刑事ドラマ「相棒」に再び、注目が集まっている。主人公、杉下右京の初代相棒、亀山薫が14年ぶりに再登板。名コンビの復活は、ドラマが終わる予兆ではないかと気をもむファンもいる。

なぜ、ドラマはこれほど愛されるのか。相棒を演じる水谷豊さん(70)と寺脇康文さん(60)に会い、人気の秘密を探った。

衣装を着た右京役の水谷さんと亀山役の寺脇さんを目の前にすると、物語が始まるような臨場感があった。英国調の三つボタンのスーツできめた水谷さんは落ち着き払い、ミリタリージャケット姿の寺脇さんには今にも現場に駆け出しそうな躍動を感じる。

写真撮影のためカメラを向けると、寺脇さんが愛嬌(あいきょう)たっぷりのポーズで応えた。すかさず水谷さんが「亀山君、今のポーズは採用されないと思いますけど」と批評し、ドラマさながらの名コンビぶりを見せる。

ドラマは警視庁が舞台。推理と洞察に優れた右京は切れ者すぎるがゆえに「特命係」という窓際に追いやられ、相棒の刑事と組んで難事件を解決する。2002年からレギュラー放送され、歴代シリーズの最高視聴率は23%を超える。

水谷さんに右京の魅力を自己分析してもらうと、「世間の常識とは違っていても、ぶれずに正義を貫いている。決して友達にしたいタイプではないですが」と話す。

メディア文化評論家の碓井広義さん(67)は、20年を超える相棒人気を分析してきた。「時代の変化が激しい中で、チャンネルを合わせれば一貫して変わらない右京がいる。それが視聴者にとっての幸せなんです」。

右京は決して、捜査1課の花形刑事でも、重大事件を指揮するエリートでもない。主人公が「傍流」であることが、国民的人気を得る重要な要素だという。

碓井さんは「特命係とは名ばかりで、特別な任務が与えられているわけではありません。組織から烙印(らくいん)を押されて隅っこに追いやられても、活躍する姿を見ると視聴者はすかっとする。私たちの社会でも、みんなが王道を歩んでいけるわけではない。だから共感を呼ぶし、応援もしたくなる」と解説する。

寺脇さんは「特命係に実権はないが、しがらみもない。そんたくせずに正しいと思ったことをやり遂げることができる」と語り、水谷さんは「特命係の2人がいるような組織って、一つの理想だと思います」と付け加えた。

気にかかっていることがあった。今夏の週刊誌のインタビューで、水谷さんが<彼が最後の相棒になるのは間違いありません>と語っていたことだ。彼とは亀山のことで、最後とはどういうことか? 

その真意を尋ねると、水谷さんはこう語った。「感覚的なものですね。ドラマの最後は亀山君ともう一回、一緒にやるというイメージがあったんです。14年前に亀山君が特命係を出て行った時、彼が戻ってきて一緒にやる日がきたら、それは『相棒』が終わる頃だろうと思っていました。右京としても、僕としても」

そのイメージは、4代目の冠城亘(反町隆史さん)に次ぐ相棒を想定した時に具体化したという。水谷さんは「冠城君の次の相棒が想像できなかったんです。これだけドラマを長く続けてきて、さらに前に進むにあたり、相棒として亀山君が戻ってくること以外に考えられなかった。それはプロデューサーも同じだと思います」と説明する。

これが終わりの序章だとすれば、コンビの掛け合いをもっと見たくなる。寺脇さんは、右京から「君がいてくれて助かりました」というせりふを聞くとうれしいと明かし、水谷さんは「右京が右京らしく生きられるのは、相棒がいるからなんです」と返す。

右京の個性は、全く違うタイプの相棒を隣に置くことで際立っている。その最たる存在が直情径行の亀山だと指摘する碓井さんはさらに、これは推理ドラマの典型的な手法でもあると続けた。

「古くはシャーロック・ホームズの友人ワトソンのように、名探偵には相棒がつきもの。この普遍的な関係を、現代の警視庁を舞台に再現したところが新鮮だった」

碓井さんは「相棒はまるで、伝統を継承する和菓子屋さんのようです。脚本も演出も演技も、すべて職人芸。変わらない味を守りつつ、時代によって新しい要素を組み入れて常に進化している」と評価する。

亀山の復帰作となった今シーズンの第1話。亀山は、腐敗政治を正す女性活動家1人の命と、旅客機テロの標的とされる妻を含む150人の命、どちらを守るかを迫られた。この場面については、ファンの間でも意見が交わされた。

寺脇さんは「見ているみなさんがドラマで起こることをリアルに感じ、議論してくれる。価値観は一つではないから、見る人によって100通りの意見があっていい。時代や社会と連動しているドラマだと思います」と話す。

14年前も今も、変わらないことがある。撮影の朝、メーク室での2人のルーティンはアドリブの相談だ。「脚本家さんにつくってもらった会話を生きた言葉にしていくのが豊さんと僕の役割です」と寺脇さん。水谷さんはそれを「血を通わせる作業」と表現する。

相棒の命と言えるのは、綿密な脚本だろう。基本的に1話完結。複数の脚本家が入れ替わり執筆するところが特徴となっている。水谷さんは「第一に脚本が大事なんです。相棒は脚本家も監督も複数いるので、時代や人、社会へのさまざまな視点が作品に反映されている」と話す。

そんな多様性を重んじるドラマで目を引くのが、事件を解決する山場。一般的な刑事ドラマといえば、容疑者を逮捕することで悪を断罪する。ところが相棒においては、容疑者を懲らしめることで全てが解決するほど単純ではない。どの放送回を思い浮かべても「勧善懲悪」という紋切り型のラストではなく、割り切れなさが余韻として残る。

碓井さんはうなずき、こう続けた。「リアルな人間社会では、全てがマルとバツ、白と黒では片付けられないことが多い。何が正解かを簡単には言えない世の中です。そういうグレーな社会を反映したラストだから、視聴者は納得がいくのではないでしょうか」。

確かに、「予定調和」ではないからこそ飽きることがなく、また次の放送回も楽しみになる。

「この相棒、午後の再放送を見ていると癖になるんです。面白くて、つい見入ってしまう」。主演の水谷さんまで夢中にさせるとは。相棒中毒、おそるべし。【榊真理子】

(毎日新聞 2022.12.20夕刊)


『ウルトラセブン』放送開始55周年の今年、「特撮」へのリスペクトがCMにも

2022年12月20日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

『ウルトラセブン』放送開始55周年の今年、

「特撮」へのリスペクトがCMにも

 

気がつけば、今年も、あと半月。見る側を楽しませてくれたCMを振り返ってみます。
 
注目したいのは「特撮系CM」。往年の特撮作品を想起させる、リスペクト精神にあふれたCMに面白いものがありました。
 
 
時代を超える「セブン」の魅力
ヨコハマタイヤ「アイスガードセブン」 
「ウルトラ吸水ゴム」篇
 
『ウルトラセブン』(TBS系)が登場したのは1967年。今年は放送開始55周年に当たります。
 
前作『ウルトラマン』との違いは、地球の怪獣ではなく、宇宙からの侵略者との戦いが描かれたことでしょう。
 
SF色が強まり、セブンの造形も近未来的な美しさを誇っていました。
 
また実相寺昭雄監督が手掛けた「狙われた街」では、メトロン星人とモロボシダン=セブンが、アパートの四畳半で対決しました。
 
こうしたファンタジーとリアリティの共存も『ウルトラセブン』の特色です。
 
そんなセブンが今年もまた、ヨコハマタイヤのCMで深田恭子さんと共演しました。
 
CMのオンエア開始が夏だったので、「この時期にスノータイヤのCM?」とびっくり。
 
やがて到来する冬に備え、「氷った道」という強敵から人類を守る「アイスガードセブン」をアピールするためでした。
 
深田さんが「セブン!セブン!セブン!」と呼びかけると飛来する、永遠のヒーロー。
 
しかもタイヤやセブンを影絵で見せるシーンでは、『ウルトラセブン』のオープニング映像が見事にアレンジされていました。
 
まさにオマージュですね。
 
魅力的なキャラクターは、時代を超えて多くの人を引き付けます。
 
 
最新SFXを駆使したヒーロー
大和ハウス工業
「ダイワマンSEASON2 Episode 1&2」篇
 
 
冷たい雨が降る、夜のメトロポリス。ジェット噴射で空中に浮かぶ人影がある。ダイワマンだ。
 
やがて路上へと降り立つと、殺気立った怪しい者たちが迫ってくる。
 
まさに一触即発だが、ダイワマンは安易に戦わない。
 
ダイナモービルに乗って帰る先は、もちろんダイワハウスだ。
 
最新のSFXを駆使したハリウッド映画のような映像は、『バットマン』シリーズを想起させます。
 
大和ハウス工業の新企業CMシリーズ「ダイワマンSEASON2Episode 1『登場』」篇の主演は、西島秀俊さん。
 
西島さんは今、最も旬な俳優の一人です。
 
アカデミー賞の国際長編映画賞に輝いた、映画『ドライブ・マイ・カー』がありました。
 
さらに、この夏放送されたドラマ『ユニコーンに乗って』(TBS系)でも存在感が際立っていました。
 
年齢にかかわらず自分の夢に挑戦する役柄が、多くの人の共感を呼んだのです。
 
では、ダイワマンとは、一体何者なのか。
 
「Episode 2『継承者』」篇では、その正体が「俳優・西島秀俊」であることが明かされました。
 
西島秀俊が、俳優・西島秀俊を演じる。そのトリッキーな設定が、すこぶる愉快です。
 
 
怪獣より請求書が強敵? 
TOKIUM/TOKIUMインボイス 
トキウム防衛隊「発足・出動」篇
 
 
人々の命と幸せを守る、最強チームが結成されました。TOKIUMインボイスのCM、トキウム防衛隊「発足」篇です。
 
ピッカピカの指令室。胸のバッジが輝く真新しい制服やヘルメット。「テンション上がる!」と隊長(永山瑛太さん)も張り切っています。
 
一方、隊員たち(東京03と愛来さん)は溜まった請求書の処理で忙しそう。
 
そこに怪獣出現。「全員出動だ!」と隊長は叫びますが、「それどころじゃないの!」と隊員たちは動いてくれません。
 
このギャップが何ともおかしい。
 
また「出動」篇では、指令室を飛び出そうとする隊長がドアを開くと、そこには請求書の山。紙はかさ張るため、保管場所が満杯なのです。
 
モニターにはゴジラに似た怪獣の姿が映し出されますが、どうやら怪獣退治より先にペーパーレス化のほうが急務みたいです。
 
『ウルトラマン』の科学特捜隊や、『ウルトラセブン』のウルトラ警備隊を思わせる、トキウム防衛隊。
 
怪獣との対決はまだですが、「請求書受領サービス」を訴求する任務はしっかり果たしていました。
 

【気まぐれ写真館】 12月のグラデーション

2022年12月19日 | 気まぐれ写真館

2022.12.18


ドラマ『silent』から、なぜ目が離せないのか

2022年12月18日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

ドラマ『silent』から、

なぜ目が離せないのか

 

川口春奈主演『silent』(フジテレビ系)。
 
ちょっと、振り返ると・・・
 
高校生の紬(川口)と想(目黒蓮)は、周囲も認める似合いのカップルでした。
 
しかし卒業後、想は突然姿を消してしまいます。
 
それから8年。
 
偶然再会した想は、「若年発症型両側性感音難聴」で耳が聞こえなくなっていました。
 
それが、紬と一方的に別れた理由だったのです。
 
8年の間には、「変わったこと」と「変わらないこと」があります。
 
紬は高校時代の仲間である湊斗(鈴鹿央士)と付き合っています。
 
想には彼を支え、そして慕う、ろう者の奈々(夏帆)がいます。
 
でも、紬と想の中で、互いの存在は消えていませんでした。
 
湊斗は2人のため、そして自分のためにも紬と別れることを決めます。
 
奈々もまた、想と距離をとろうとします。いじらしい奈々を演じる、夏帆さんが素晴らしい。
 
物語の「共振性」
 
このドラマの秀逸さは、言葉に頼り過ぎない物語構築にあります。
 
登場人物たちが、思ったことを何でも口にするドラマとは異なるんですね。
 
想と奈々はもちろん、紬も彼らと話すときは手話が中心になっています。
 
とはいえ、微妙なニュアンスが十分に伝わらないことも多いわけです。
 
その「もどかしさ」が何とも切ない。
 
また見る側は、音声がない分、テレビ画面から目を離すことができず、物語にのめり込んでしまう。
 
わずかな沈黙の時間や表情の中に、彼らの気持ちや言葉にならない感情を探り、想像し、自分なりに補っていきます。
 
そして紬と想が互いの思いを通わせる姿に、つい感情移入してしまう。
 
その「共感性」もしくは「共振性」こそが、このドラマのキモと言っていいのではないでしょうか。
 
構成とセリフの妙
 
脚本は、生方美久さんのオリジナル。
 
時間軸も含めた見事な構成と繊細なセリフは、これが連ドラ初挑戦とは思えません。
 
たとえば、第7話。
 
紬と会ってきた奈々が、想に報告しました。
 
紬はこの日のために、自分が奈々に伝えたいことを、手話教室の先生(風間俊介)に頼んで“翻訳”してもらっていたのです。
 
奈々が言います・・・
 
「気持ちを伝えようって、必死になってくれてる姿って、すごく愛(いと)おしい。まっすぐに、その人の言葉が自分にだけ飛んでくる」
 
それは紬だけでなく、自分と向き合う時の想のことでもあります。
 
こうしたセリフが織り込まれた“会話”を、数分間にわたって展開させている。
 
見る側にも、音のない世界を体験させてくれている。
 
まるで自分が見えない人間になって、2人の隣にいるような臨場感があります。
 
さらに、手話によるやりとりが続いた後、すっと忍び込んでくる、静かなピアノのメロディ。得田真裕さんの音楽が実に印象的ですね。
 
ドラマは終盤へと向かっています。
 
川口さんはもちろん、間の取り方や微(かす)かな表情の変化などで、丁寧に気持ちを表現している目黒さんの演技も、最後まで堪能したいと思います。
 

言葉の備忘録302 歩く・・・

2022年12月17日 | 言葉の備忘録

 

 

 

歩く速度でしか

見えないものがある。

 

 

森田真生『偶然の散歩』

 

 

 


【気まぐれ写真館】 上野散歩(4)上野~御徒町~日本橋

2022年12月16日 | 気まぐれ写真館

御徒町 ぽん多本家

名物のカツレツ

日本橋三越


【気まぐれ写真館】 上野散歩(3)創立150年記念 特別展

2022年12月16日 | 気まぐれ写真館

平成館

創立150年記念 特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」


【気まぐれ写真館】 上野散歩(2)東京国立博物館

2022年12月16日 | 気まぐれ写真館

東京国立博物館

本館

表慶館


【気まぐれ写真館】 上野散歩(1)上野駅~国立西洋美術館

2022年12月16日 | 気まぐれ写真館

上野駅前

オーギュスト・ロダン「考える人」(拡大作)

国立西洋美術館


【気まぐれ写真館】 今朝の月

2022年12月15日 | 気まぐれ写真館


【気まぐれ写真館】 寒椿

2022年12月15日 | 気まぐれ写真館

 


NHK夜ドラ「作りたい女と食べたい女」 好きな人とおいしいものを食べるシアワセ

2022年12月14日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

NHK夜ドラ「作りたい女と食べたい女」

好きな人とおいしいものを食べるシアワセ

 

NHKの夜ドラ「作りたい女と食べたい女」が最終週に入った。

派遣社員の野本ユキ(比嘉愛未)は料理するのが大好きだ。しかし小食な上に1人暮らしで、思う存分作ることができないでいた。

ある日、マンションの同じフロアに住む、食べることが大好きな春日十々子(西野恵未)と知り合う。作りたい女と食べたい女の不思議な関係が始まった。

このドラマ、いくつかの側面を持っている。まず、いわゆる「食ドラマ」としての楽しさだ。登場する「かぼちゃのプリン」や「おでん」が何ともおいしそうだ。

また十々子を演じる西野の食べっぷりが実に見事。「ばくばく」「もりもり」といった擬音をビジュアル化したみたいなのだ。

そして更なる側面が、「生きづらさ」を抱えた女性たちのリアルを描いていること。

ユキは純粋に料理が好きでしているのだが、「家庭的」とか「いいお母さんになる」とかレッテルを貼る周囲に違和感を持っている。

一方の十々子は、保守的な父親から「女だから」という理由で自由に食べることも禁じられてきた。

やがてユキは、自分が十々子に魅かれていることに気づく。好きな人とおいしいものを食べるシアワセ。それは相手の性別とは無関係だ。

料理も恋愛も「型」にはめられることなく、自分で決めていけばいい。この作品はそんなメッセージをマイルドに発信している。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2022.12.13)


今週、見たい番組

2022年12月13日 | テレビ・ラジオ・メディア

 

「クローズアップ現代」

やめたくてもやめられない

知られざるオンラインカジノの闇

 

12月14日(水)午後7:30

 

スマホひとつで24時間いつでもどこでもギャンブルができてしまう“オンラインカジノ”。

日本では賭博罪にあたる違法行為だが、「オンラインカジノの事業者は海外にあるため違法ではない」といった誤った認識のもと、有名人を起用した無料版の広告なども呼び水となって利用者が急増中。

数百万円もの借金を抱えたりギャンブル依存症に陥ったりする人が後を絶たない。広がる闇を徹底取材で明らかにし、対策を考える。(番組サイトより)

 

 

 


12月12日は、小津安二郎監督の「誕生日」&「命日」

2022年12月12日 | 映画・ビデオ・映像

2022.12.12

 

 

小津安二郎監督。

1903年〈明治36年〉12月12日生まれ、

1963年〈昭和38年〉12月12日没。

享年60。

 

合掌。

 

 

 


週刊新潮で、ドラマ「silent」について解説

2022年12月12日 | メディアでのコメント・論評

 

駅の改札が聖地

「川口春奈」ドラマ

「silent」が社会現象の理由

 

その物語の舞台になれば、何の変哲もない街角のカフェが、いや、駅の改札さえ「聖地」と化す。若い女性たちをとりこにするドラマ「silent」はすでに社会現象の様相だ。一体、何が彼女たちを引きつけるのか。

世田谷代田は小田急線の各駅停車の駅である。今、その小さな駅の西口改札前に、週末ともなると若い女性たちが続々と集う。  

横浜市に住む21歳の女子大生は、静岡の友人と一緒にやって来たという。 「好きなドラマの世界観に浸りたいから」  

というのが遠征の理由。

「まるで私自身の昔の恋愛を観ているかのよう。この辛い気持ちは“私も味わったことがある”と感情移入できる」  

この彼女もすっかりハマっている「silent」(フジテレビ系)のあらすじは以下のとおりだ。

カフェも「聖地」認定

川口春奈(27)演じる紬(つむぎ)とSnow Manの目黒蓮(25)扮する想(そう)は高校時代に交際していた。

しかし、想が重度の難聴になり、紬に一方的に別れを切り出す。時を経て、二人は再会するのだが、紬にはすでに別の彼氏がいて――。  

駅はその二人が再会を果たした場所であり、まさに「聖地」というわけだ。  

同じく「聖地」認定されているのが、目黒区駒場にあるカフェ。11時半のオープン前には優に80名を超えるファンの女性たちが並んでいた。

先頭は39歳の女性で、青森市在住。朝8時半には、その場に到着していたというから恐れ入る。彼女は、

「ドラマの中で二人が向き合った窓際の“silent席”に座りたくて。早く来たおかげで、憧れの席に座れそうです」  

と、頬を緩ませた。

世界トレンド1位

フジ関係者は久しぶりのヒットに声を弾ませる。

「視聴率こそ7%台ですが、若い女性からの反響がすごい。Twitterでも世界トレンド1位になりましたし、ネットの見逃し配信でも記録を更新するなど、現代的なはやり方をしています」  

メディア文化評論家の碓井広義氏は好評の理由を次のように読み解く。

「『silent』の秀逸さは、言葉に頼り過ぎていない物語の構築の仕方にあります。何でもせりふとして語らせるドラマではありません。登場人物は時に手話を使い、スマホの音声認識アプリを用いて文字で会話をする。音声がないために、視聴者はテレビ画面から目を離すことができず、役者の表情から気持ちを想像する。だからこそ、物語にのめり込んでしまうのです」  

テレビドラマ評論家の吉田潮氏はこう分析する。

「これまでの恋愛ドラマは、高級レストランのような非日常的な空間が舞台でした。ですが、今作ではカフェやファミレスなどで登場人物がやり取りする。背伸びをしていない舞台設定であることも、現代の若者の多くに共感される理由では」

(週刊新潮 2022年12月8日号 )