<碓井広義の放送時評>
今年のドラマ界を振り返る
作り手の挑戦に拍手
12月に入った。今年のドラマ界を振り返り、強く印象に残った作品を挙げてみたい。
1本目は「妻、小学生になる。」(TBS-HBC、1~3月放送)。10年前、新島圭介(堤真一)は妻の貴恵(石田ゆり子)を事故で失った。以来、圭介も娘の麻衣(蒔田彩珠)も無気力なままだ。ある日、父娘の前に見知らぬ小学生・万理華(毎田暖乃)が現れ、自分は「新島貴恵」だと主張する。実は貴恵が万理華の体を借りて一時的に現世に戻ったのだった。
この奇抜な設定は、「生きるとは何か」というテーマのためだ。人は結末の見えない有限の時間を生きている。その時間の使い方の中に生きることの意味を見いだせるのだと、このドラマは伝えていた。
次が「17才の帝国」(NHK、5~6月)である。舞台は近未来の日本。ある地域の政治を、人工知能(AI)が選んだ若者たちに託す実験が行われる。「総理」は17才の高校生、真木亜蘭(神尾楓珠)だ。彼が実現しようとする純粋な政治と、それを苦々しく思う旧来の政治家たちの対比にリアリティーがあった。物語として納得のいく決着に至らなかった感はあるが、独自の世界観を提示する意欲作だった。
3本目は以前この欄でも取り上げた「あなたのブツが、ここに」(NHK、8~9月)。主人公は小学生の娘(毎田暖乃)を育てるシングルマザーの亜子(仁村紗和)だ。キャバクラ店で働いていたが、宅配ドライバーに転身するという物語。生きることに投げやりだったヒロインが、仕事や私生活の困難を乗り越える中で、徐々に自分の人生を肯定できるようになっていく。
これまでもコロナ禍を背景として取り込んだドラマはあった。しかし、この作品はコロナ禍に揺れる社会の現実を踏まえながら、登場人物たちの「日常」を粘り強く描き、嘆かず諦めないという「思い」を丁寧にすくい上げて秀逸だった。
最後は現在放送中の「エルピス-希望、あるいは災い-」(カンテレ・フジテレビ系-UHB)だ。制作陣は1990年に起きた「足利事件」など現実の冤罪(えんざい)事件に関する文献を参考にしたと表明している。冤罪事件は警察や裁判所など公権力の大失態だが、マスコミが発表報道に終始したのであれば、結果として冤罪に加担したことになる。
自分たちにも批判の矛先が向きかねないリスクを抱えながら、テレビ局を舞台にこうしたドラマを作るのは実に挑戦的だ。このドラマは「17才の帝国」と同じ、佐野亜裕美プロデューサーが手掛けている。来年も、作り手の強い意志が感じられる作品が登場することを期待したい。
(北海道新聞 2022.12.03)