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碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

週刊女性で、「平成のドラマ」について解説

2019年03月21日 | メディアでのコメント・論評


花形だったフジの月9が失墜した本当の理由
「男女関係の絶望」とは

「平成の前半に当たる'90年代、ドラマといえばフジテレビ、もしくは月9と言われてきました」

かつての主人公は「お金をかけながら恋愛していた」

そう話すのは、元テレビプロデューサーで上智大学の碓井広義教授。当時は『101回目のプロポーズ』『東京ラブストーリー』(ともに'91年)など、タイトルどおりの恋愛ドラマが花盛り。


同志社女子大学メディア創造学科の影山貴彦教授は、

「まだバブルの時代。ヒロインは20歳そこそこのOLなのに、都心部の高級マンションに住み、華やかな生活を送っていた。今の時代なら違和感、嫌悪感を持たれるはずですが、当時はみんなが憧れの眼差しで見ていました」

と指摘。人々がシンプルなものをストレートに享受していたと話す。

「あのころのドラマの主人公は“いつ仕事してるの?”というくらい、恋愛に時間とエネルギーを注いでいました。ドラマ内外の誰もが心や懐に余裕があって、見栄を張ったり、背伸びをしたり。お金をかけながら恋愛をしていました。それができた時代でしたね」(碓井教授、以下同)

しかし、'91年にバブルがはじけ景気は急降下、日本経済は暗転する。

「ただ、一般の人の生活に影響が出るまでにはタイムラグがあった。不況がドラマにわかりやすく表れるようになった作品といえば『家なき子』('94年、日テレ土9)でしょう」

小学生だった安達祐実が叫ぶ“同情するなら金をくれ”は、流行語に。

「『ひとつ屋根の下』('93年、フジ月9)にしろ『人間・失格~たとえばぼくが死んだら』('94年、TBS金10)にしろ、苦みがあって、ゲラゲラ笑って見られるような作品ではない。恋愛ドラマも『愛していると言ってくれ』('95年、TBS金10)『星の金貨』('95年、日テレ水10)など、明るく元気な恋愛ではありません」

常識や概念が変わっていった

ヒット作には、フジテレビの月9だけでなく、TBSや日本テレビが違う角度からアプローチした作品も混ざるように。主要ドラマはほぼ視聴しているというライターの吉田潮さんは、こう分析する。

「平成前期のテーマは“男女関係の絶望”じゃないですか? 恋人や夫婦間のもろさ、結婚したからといって必ずしも幸せにならないというメッセージ性のある作品が目立ちます。不倫ブームの火つけ役は『失楽園』('97年、日テレ月10)。意欲作、問題作も多く'93年なんて『悪魔のKISS』(フジ水9)『高校教師』(TBS金10)『誰にも言えない』(TBS金10)『同窓会』(日テレ水10)。もう、カオスですよ(笑)」

'95年には阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件という歴史的な出来事が相次いで発生。

「科学技術では抑えられない自然の脅威。人間がやるはずがないことを、実際にやったという恐ろしさ。常識や概念がひっくり返り、日本人の意識下をじわじわと変えていったんです」(碓井教授、以下同)

だが、フジの月9は変わらず『ラブジェネレーション』('97)のような恋愛ドラマを量産し続ける。

「視聴者は明るい月9の恋愛ドラマを、もう『東京ラブストーリー』のころと同じ気持ちでは見られなくなっていたはず。実際、習慣や惰性で見ていたのでは? しかしフジは“まだ行ける”と突き進み、時代の空気とズレてしまった。そこが成功体験の怖さであり、フジのドラマが最盛期から下っていった背景だと思います」


《PROFILE》
影山貴彦教授 ◎同志社女子大学メディア創造学科教授。毎日放送のプロデューサーを経て、現職。専門はメディアエンターテインメント論

碓井広義教授 ◎上智大学文学部新聞学科教授。専門はメディア文化論。テレビマンユニオンに20年以上在籍。近著に倉本聰との共著『ドラマへの遺言』(新潮新書)

吉田潮さん ◎ライター、イラストレーター、テレビ批評家。主要番組はほぼ網羅している。『週刊女性PRIME』で『オンナアラート』を連載中


(週刊女性PRIME  2019年3月21日)



坂口健太郎「イノセンス」は、暗いキャラと能力のギャップが魅力

2019年03月21日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評


坂口健太郎「イノセンス」は
暗いキャラと能力ギャップが最大の魅力

今期は3本の弁護士ドラマが並んだ。すでに終了した「スキャンダル専門弁護士 QUEEN」(フジテレビ系)と「グッドワイフ」(TBS系)。そして今週が最終回の坂口健太郎主演「イノセンス 冤罪弁護士」(日本テレビ系)だ。

坂口が演じている黒川拓は、同じ弁護士でも「QUEEN」の氷見江(竹内結子)のように勝つためには嘘も辞さないタイプではない。また「グッドワイフ」の蓮見杏子(常盤貴子)みたいな完璧主義者でもない。

静かで人見知り。事務所でも「一人で考えたいので」と自室に閉じこもることが多い。確かに徹底的に考え抜かなければ、裁判官が下した有罪判決をくつがえす「冤罪弁護」など出来ないかもしれないが、相当暗い。そんなキャラクターと弁護士としての能力とのギャップが黒川の魅力だ。

これまで黒川は、会社の同僚を殺害した容疑で逮捕された女性や、練習中の事故が業務上過失傷害だとして起訴されたフェンシング部の顧問などを救ってきた。細部を見逃さない目と論理的思考、さらに科学的な検証にも労を惜しまない仕事ぶりの成果だ。

一方、黒川は11年前の事件を重いわだかまりとして抱えている。殺人者とされた幼なじみが、冤罪を主張しながら獄中で自殺したのだ。最終回には、ドラマの当初から底流にあったこの事件の真相も明らかになる。

(日刊ゲンダイ 2019.03.20)

読売新聞に、「ドラマへの遺言」書評が掲載されました

2019年03月20日 | 本・新聞・雑誌・活字


『ドラマへの遺言』倉本聰、碓井広義著

「北の国から」「やすらぎの郷」など脚本家として多くの名作を送り出した倉本聰が自身を振り返り、ドラマ作りへの思いや人生観を15の「遺言」としてまとめた。脚本の一言一句に対するこだわりの理由など貴重なエピソードも。妥協を許さずドラマと向き合い続けた姿が浮かび上がる。(新潮新書、820円)

(読売新聞「本よみうり堂」 2019/03/17)




ドラマへの遺言 (新潮新書)
倉本聰、碓井広義
新潮社




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トークイベント

碓井広義「倉本聰のドラマ世界」を語る。

2019年4月13日 土曜日
18時開演(17時半開場)
表参道「本の場所」


完全予約制です。
申込みは、以下の「本の場所」へ。


本の場所







書評した本: 『木下サーカス四代記』ほか

2019年03月19日 | 書評した本たち


週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。


山岡淳一郎 
『木下サーカス四代記』

東洋経済新報社 2160円

「木下サーカス」と聞いて懐かしく感じる大人は多い。実は現在も年間120万人の動員を誇るエンタメ企業なのだ。中国・大連での旗揚げから約100年。本書はこのユニークな共同体の歴史と、実業としてのサーカスを模索し続けてきた木下家四代の秘密に迫る。


藤原智美 
『この先をどう生きるか
  ~暴走老人から幸福老人へ』

文藝春秋 1296円

話題を呼んだ『暴走老人!』から12年。自身も還暦を過ぎた著者が、「定年前後世代」の生きる道をより深く掘り下げる。必要なのは過去と正面から向き合うこと。それも文章化が大事で、著者はこれを「リボーン・ノート」と名づけている。まずはそこからだ。

(週刊新潮 2019年3月7日号)


小路幸也 
『テレビ探偵』

角川書店 1620円

舞台は昭和40年代。主人公は音楽バンド&コントグループのボーヤだ。土曜夜8時に生放送される公開バラエティで、まさかの殺人未遂事件が起きる。誰が、何のために? 当時の超人気番組をモデルに、テレビが熱かった時代の芸能界を活写する連作ミステリー。


松岡正剛
『雑品屋セイゴオ』

春秋社 1944円

フェティッシュは「もの」に託した観念力だそうだ。この雑品屋には月球儀、文庫本、万年筆など、いかにも著者好みの品々が並ぶだけではない。水枕、ドライバー、おかき、宇宙服といった意外なものたちこそ、当店の真骨頂。当代一流の薀蓄と愛着の集大成だ。

(週刊新潮 2019年2月28日号)




木下サーカス四代記: 年間120万人を魅了する百年企業の光芒
山岡淳一郎
東洋経済新報社


この先をどう生きるか 暴走老人から幸福老人へ
藤原智美
文藝春秋


テレビ探偵
小路幸也
KADOKAWA


雑品屋セイゴオ
松岡正剛
春秋社

北海道発の熱いドラマ、HTB『チャンネルはそのまま!』

2019年03月18日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム



「バカ枠」がテレビと社会を面白くする!? 
北海道発の熱いドラマ『チャンネルはそのまま!』

北海道テレビ(以下、HTB)は、札幌にあるテレビ朝日系列の放送局です。そのHTBが郊外の南平岸の高台から、都心の「さっぽろ創生スクエア」へと移転したのは昨年9月のことでした。

“旧社屋”をロケセットとして使ってHTBが制作していた、開局50周年記念ドラマ『チャンネルはそのまま!』が完成。いよいよ3月18日(月)から22日(金)まで、5夜にわたってオンエアされると聞き、楽しみにしていました。

いや、していたのですが、このドラマ、いわゆる「上りネット」の全国放送じゃなかった。当然、テレビ朝日でも流れませんから、関東にいる私は見ることができない。

と思っていたら、そこは今どきの有難さ。Netflix(ネットフリックス)で先行配信が行われていました。


ドラマを動かす「バカのチカラ」

ドラマ『チャンネルはそのまま!』全5話の内容を、ひとことで言うなら、北海道のローカルテレビ局「HHTV北海道★(ホシ)テレビ」に入った、破天荒な新人女性記者・雪丸花子(芳根京子)の奮闘記ってことになります。

そういう意味では、テレビ局が舞台の「お仕事ドラマ」と呼べるかもしれません。しかし、イメージしやすく、これまでにドラマにもなったアナウンサーだけでなく、花子が所属する報道部、編成部、営業部、技術部といった、外部からは見えづらい部署の人たちも丁寧に描かれていくのが特徴です。

花子は、いわば強烈な狂言回しというか、効き目のある触媒というか、彼女によって、それまでなんとなく「ローカルって、こんなもんだよね~」という気分で沈滞していたホシテレビが、じわじわと活性化していくのです。

じゃあ、「花子はとてつもなく優秀なスーパーテレビウーマンなのか?」「一体どんな力があるんだ?」と思いますよね。

ところが、逆なんです。優秀の逆で、ドジな劣等生。どう考えても、テレビ局の採用試験という難関を突破できるはずのない就活生でした。

では、なぜ入社できたのか。採用に際して、ホシテレビが設けているという「バカ枠」のおかげです。いいですねえ、バカ枠。優秀な連中だけでは、全体が小さくまとまってしまう。そこに異種としてのバカ(「おバカ」ではない)を混入させることで、予測できない化学反応が起きるかもしれない。

このドラマは、ローカルテレビ局という組織と人が、「バカのチカラ」によって思わぬ変貌を遂げていく物語なのです。

ちなみに、ホシテレビでは「バカ枠」と同時に、バカをサポートする「バカ係」も採用しています。ドラマの中では、花子と同じ報道部に配属された出来のいい新人、山根(飯島寛騎・男劇団 青山表参道X)が、それに当たります。


事件は「放送の現場」で起きている!

第1話は、ドジと失敗ばかりなのに応援したくなる花子のキャラクターと、テレビの仕事を知っていく時間です。続く第2話で、カリスマ農業技術者にして農業NPOの代表でもある蒲原(大泉洋、快演!)が登場したあたりから、物語はぐんぐん加速していきます。

また、局内の2人の人物を通じて、テレビとローカル局の現状を垣間見ることができるのも、このドラマの醍醐味でしょう。

キー局から送り込まれた編成局長、城ケ崎(斎藤護)が部下たちに言い放ちます。「いいか!キー局では視聴率がすべての基準。数字がすべてだ!」

一方、いかにも生え抜きの情報部長、ヒゲ面にアロハシャツの小倉(藤村忠寿・HTB「水曜どうでしょう」ディレクターにして、本作の監督)は、こんなことを言う男です。「報道部で必要なのは5W1H。情報部に必要なのは5W1H+L。ラブだよ」

演者としての藤村さん、すごくいい役。しかも存在感ありすぎ(笑)。

さらに、ホシテレビよりも強大で、視聴率でも断然リードしている「ひぐまテレビ」(さあ、モデルは札幌のどの局でしょう? 笑)には、ホシテレビを目の敵にしている剛腕情報部長の鹿取(安田顕)もいます。ローカルにはローカルの熾烈な戦いがあることを、安田さんが『下町ロケット』などで鍛えた凄味のある演技で伝えてくれます。


果敢な挑戦、壮大な実験を目撃する

今回、ヒロインを演じている芳根京子さん。昨年の『高嶺の花』で、石原さとみさんの妹役でひと皮むけた進化を遂げましたが、このドラマではコメディエンヌとしての才能をフル稼働させています。

ドジかもしれないけど、一所懸命。周囲が見えなくなってしまうほど、他者の気持ちに寄り添う。迷惑ばかりかけるけど、何かの「きっかけ」を生み出す。「バカのチカラ」炸裂の花子です。テレビ局だけでなく、社会の中に、こういうバカが増えてくれたらいいなあ、と思わせてくれる。

ローカルドラマなどと侮ってはいけません。主演の芳根さん、脇を固めた大泉さんをはじめとするTEAM NACS(チーム・ナックス)の面々、オクラホマなど北海道のタレントさんや役者さんたち、そして作り手であると同時にキャストでもあるHTBの皆さんの総合力によって出来上がったこのドラマ、笑いながら最終話まで見ていくと、いつの間にか、とんでもない領域まで連れていかれたような快感があるのです。

放送という電波だけが視聴者とつながる回路ではない時代。アウトプットの方法が多様化した時代。東京の局だろうが、地方の局だろうが、面白いコンテンツを創造できるかどうかが生命線となります。

またこのドラマは、ときにはオールドメディアとか言われたりもするテレビが持つ、「どっこい、ナメんなよ!」というポテンシャル(可能性としてのチカラ)も示してくれていると思うのです。別の言い方をすれば、物語の中に「テレビだからこそ」「テレビならでは」の魅力の再発見があります。

今回のHTBの果敢な挑戦、もしくは壮大な実験には、これからの生き残りを模索している、全国のローカル局も注目しているはずです。視聴者として、この取り組みを“目撃”しておくのも悪くありません。

原作は佐々木倫子さんの同名漫画で、脚本は森ハヤシさん。監督はキャストでもある藤村忠寿さんを筆頭に4名。総監督を『踊る大捜査線』シリーズの本広克行さんが務めています。


書評した本: 橋本 治 『思いつきで世界は進む』

2019年03月18日 | 書評した本たち


週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。


混乱の時代にこそ貴重だった
橋本治の思考の道筋

橋本 治 
『思いつきで世界は進む
 ―「遠い地平、低い視点」で考えた50のこと』

ちくま新書 842円

作家の橋本治が亡くなった。1月29日のことだ。気がつけば、新刊は必ず手に取っていた。そして、「いつもの橋本節だ」とか、「今回は読みやすいなあ」とか、勝手なことを言いながらページをめくってきた。

遺著『思いつきで世界は進む――「遠い地平、低い視点」で考えた50のこと』は、PR誌「ちくま」の巻頭随筆、2014年7月号から18年8月号までの分だ。

振り返れば、14年に集団的自衛権行使容認の閣議決定。同年には特定秘密保護法も施行され、15年に安全保障関連法が成立する。16年にトランプ氏が米大統領選で勝利。17年は森友学園問題が発覚し、「共謀罪」法が成立した。国内も世界も、いい時代とは言えない。

橋本はこれらの事象に目を向けるが、そこにはジャーナリスト的な分析や、論客的な主張はない。ああでもなくこうでもなくと、自分の頭で考えたことのみを言語化していく。その思考の道筋に、はっとするような言葉が刻まれるのだ。

たとえば、「政治上のリーダーが、気に入らない他人の言うことをまったく聞かなかったら、それは強権政治だろう」。また「疚(やま)しいことを抱えた人間は、明確に曖昧なことを言う」。

さらに、「重要なことは、悪い支配者を倒すことではなく、悪い支配者を反省させること」。

そこにあるのは、決して分かりやすくはないけれど、橋本治以外、展開する人がいない論旨だ。もう新しい文章が読めないと思うと、やはり寂しい。合掌。

(週刊新潮 2019年3月7日号)




思いつきで世界は進む (ちくま新書)
橋本 治
筑摩書房

言葉の備忘録 78  いつかの空へ

2019年03月17日 | 言葉の備忘録




現在の地面から、
髙く遠い、
いつかの空へ。
そこにいる誰かへ。



瀬尾夏美
『あわいゆくころ~陸前高田、震災後を生きる』






あわいゆくころ──陸前高田、震災後を生きる
瀬尾夏美
晶文社

「デザイナー渋井直人の休日」で輝く、光石研の真骨頂

2019年03月17日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評


テレ東「デザイナー渋井直人の休日」で輝く
光石研の真骨頂

今期もテレビ東京の深夜ドラマが絶好調だ。「フルーツ宅配便」「日本ボロ宿紀行」、そしてこの「デザイナー渋井直人の休日」である。

主人公の渋井(光石研)は52歳の独身。音楽を聴くのはレコードで、外出時にはダッフルコートがお決まり。仕事はできるし、おしゃれだし、心優しい中年おじさんだ。

美術系を含むサブカルにもくわしくて、自分が好きなものには強いこだわりを持っている。女性に対しては意欲も野心もあるけれど、あまりモテない。そんな渋井の楽しくも、ちょっとほろ苦い日常が描かれていく。

インスタで知り合った女性(内田理央)とのデートは店がどこも満員で、ホテルのレストランに誘ったつもりが誤解されて決裂。昔なじみのスタイリスト(臼田あさ美)に呼び出されていい気分になっていたら、実は不倫相手と別れた直後で癒やしを求めていただけだった。

現在は偶然入った居酒屋で出会ったOL、カモメ(黒木華)と急接近中。やや天然でかなりマイペースだけど、翻弄されている渋井はうれしそうだ。

毎回、ドキドキしながら“ステキなおじさん”であろうとする渋井は確かに痛い。でも、その痛さがかわいく見えてくるのが光石研という役者の真骨頂だ。脇役が主役となった快作「バイプレイヤーズ」を思い出させるこのドラマ、光石にとって俳優生活40年で初の連ドラ単独主演である。

(日刊ゲンダイ 2019年3月13日)






書評した本: 山下洋輔 『猛老猫の逆襲』ほか

2019年03月16日 | 書評した本たち


週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。


山下洋輔 『猛老猫の逆襲』
新潮社 1728円

ミャンマーで国立交響楽団と共演したかと思うと、ウイーンの管弦楽団と「ラプソディ・イン・ブルー」。徳島では阿波踊りとのセッションが待っていた。現地で見たもの、聞いたもの、そして思い出したものが同時進行で語られていく。旅日記というライブ演奏だ。


末井 昭 『自殺会議』
朝日出版社 1814円

自殺をテーマにした本の第2弾。何らかの形で自殺に関わる10人と語り合っている。自殺した息子の霊とインドで出逢った映画監督の原一男。自殺の名所、東尋坊で自殺企図者を保護する茂幸雄。淡々とした言葉の中に、「生きづらさを解消するヒント」がある。


藤原新也 『メメント・モリ』
朝日新聞出版 1620円

最初の刊行から36年。「死を想え」と題された伝説の写真文集が、甦りのごとく復刊された。「本当の死が見えないと本当の生も生きられない」と著者は書く。たとえば岸辺に置かれた人骨。荒野にひとり立つ僧侶。鳥や犬に食われる遺体は私たちに何を語るのか。

(週刊新潮 2019年2月21日号)


神永 暁 『辞書編集、三十七年』
草思社 1944円

発刊と同時に改訂作業が始まる辞書。そんな辞書作りの裏側を、『日本国語大辞典』の元編集長が回想する。語彙の収集と分類。大量のゲラ(校正刷り)との格闘。作家・井上ひさしが、畏敬の念を込めて「刑罰」と呼んだ編集作業の奥深さと愉悦がじわりと伝わってくる。


相澤冬樹 『安倍官邸vs.NHK』
文藝春秋 1620円

著者はNHK大阪放送局の記者時代、森友事件をスクープした人物だ。しかし、核心に触れる内容を放送しようとした時、官邸に近い報道局長が立ちふさがる。取材先とのやりとりも公開しながら事の顛末を明かしたのが本書だ。内部から見た忖度報道の実態とは?

(週刊新潮 2019年2月14日号)




猛老猫の逆襲
山下洋輔
新潮社


自殺会議
末井 昭
朝日出版社


メメント・モリ
藤原新也
朝日新聞出版


辞書編集、三十七年
神永 暁
草思社


安倍官邸vs.NHK 森友事件をスクープした私が辞めた理由
相澤冬樹
文藝春秋

デイリー新潮で、「ドラマへの遺言」関連記事

2019年03月16日 | テレビ・ラジオ・メディア


「ニノは生意気だけど失礼にならない」 
倉本聰が語った「二宮和也」の魅力

このところ視聴率の好調ぶりが話題になっているテレビ朝日が4月から1年間のロングラン放送を開始するのが「やすらぎの刻 道」(月~金:昼12時30分~)。脚本家はテレビドラマに数々の金字塔を打ち立ててきた倉本聰氏だ。

前作に当たる「やすらぎの郷」のほか、「前略おふくろ様」「北の国から」等々で知られる倉本氏は、自身の書いたセリフへのこだわりの強さでも知られる。業界内では、「倉本脚本は一言一句変えてはならない」という不文律がある、と伝えられているほどだ。

新著『ドラマへの遺言』(碓井広義氏との共著)では、そのあたりの事情についてこう語っている(以下、引用は同書より)

「語尾を勝手に変えられると人格が変わってしまうんですよ。たとえば、高倉健さんに関するインタビューを僕が受けた際、“健さんはすてきな人ですよ。シャイなんだけれども、なんとかなんじゃないでしょうか”っていう答え方をしたとするでしょう。それを新聞記者が“高倉健はすてきな人だ。シャイだがなんとかだ”と断定的な言い切りで記事にしてしまうと、読者にはあたかも僕が上から目線で傲慢な言い方をしたように見えるわけです。会話ってのはそういうもの。シナリオは必要最低限の情報を伝える新聞記事とは違います」


そういう考えから、ある時、若い俳優に「一言一句変えないでくれ」とつい言ったところ、「倉本脚本は一言一句変えてはならない」という伝説が広まったというのが真相なんだという。

「何の脈絡もなく語尾を変えるのはいい加減にして欲しいとその若い役者さんに言ったつもりだったんですが。

誤解していただきたくないのは、若いからダメ、ではない。ニノ(二宮和也)なんかには自由に変えてくれって言ってますしね。ただし、俺のホン以上に変えてくれとは付け加えます。俺が正しいのか、おまえが正しいのか、勝負しているわけですから」

「優しい時間」(2005年)、「拝啓、父上様」(2007年)と自作に出演している二宮への倉本氏の評価はきわめて高い。もっとも、最初に仕事をした時には、倉本氏は彼のことを知らなかったという。

「僕はニノっていう役者をそれまで全然知らなくて。(『優しい時間』の際に)フジテレビが連れてきたんですけど、これはいいと思いましたね。

繊細さですね。たとえば父親の働いている姿を木の陰からそうっと見てるシーンがあったでしょう?

あそこは、映画『エデンの東』のジェームズ・ディーンが、実の母親をこっそり見に行ったところがヒントです。そんな雰囲気、気持ちの複雑さみたいなものをニノはとてもよく出していたと思う」

当時すでに二宮はトップアイドルになっていたものの、役者としての評価は定まっていなかった。そのあたりはどう見ていたのか。

「あの頃になるとテレビ局が押さえてくるのはタレントだったり歌手だったり、極端に言ったらスポーツ選手まで連れて来ちゃったでしょう? 有名ならいいっていう感じで。

だからそれに関しては一種の諦めがあったんです。ただ、ニノに会ってみて、この子はちゃんとしてるなって思いました。あいつは物おじしないんですよ。僕のことを“聰ちゃん!”って呼ぶしね。クリント・イーストウッドにも使われてた。

あいつ、イーストウッドのことを“クリントは……”って言うんですよ。生意気なんだけど、失礼な感じにならない。ナイーブさも持ってるし、あの子の才能ですね」

倉本氏は現在84歳だが、「神さまが書かせてくれている間は書き続けたいですね」と語っており、創作意欲は旺盛だ。ちなみにイーストウッドも88歳にして新作を発表している。そのうちいずれかの巨匠がまた二宮に声をかけて……なんてこともあるのかもしれない。

(デイリー新潮 2019.03.15)





ドラマへの遺言 (新潮新書)
倉本聰、碓井広義
新潮社




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トークイベント

碓井広義「倉本聰のドラマ世界」を語る。

2019年4月13日 土曜日
18時開演(17時半開場)
表参道「本の場所」


完全予約制です。
申込みは、以下の「本の場所」へ。


本の場所




深川麻衣『日本ボロ宿紀行』は、奇跡の脱力系深夜ドラマ

2019年03月15日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム


見ないで終わるのは惜しい、
深川麻衣『日本ボロ宿紀行』は
奇跡の脱力系深夜ドラマ

深川麻衣さんが、乃木坂46を卒業したのは2016年のことでした。その後、女優として活動を続け、現在放送中の朝ドラ『まんぷく』では、ヒロイン・立花福子(安藤サクラ)の姪、岡吉乃を演じています。

深川麻衣が挑んだ、テレ東「深夜ドラマ」

そして今期、晴れの「地上波連続ドラマ初主演」となったのが、意表をついたテレビ東京の深夜枠でした。ドラマ25『日本ボロ宿紀行』(金曜深夜0時52分)です。

ヒロインの篠宮春子(深川)は、零細芸能事務所の社長です。また、かつての人気歌手・桜庭龍二(高橋和也、好演)のマネジャーでもあります。

経営者だった父親(平田満)が急逝し、春子は突然社長になってしまったのです。同時に所属タレントは皆退社してしまい、残留したのは桜庭だけでした。

桜庭も辞めると言ったのですが、「売れ残りのCDを全部売ってからにしてください!」と春子が突っぱね、このたった1人の所属歌手と共に地方営業の旅に出ます。

とは言うものの、このドラマは「忘れられた一発屋歌手」の復活物語ではありません。2人が地方の旅先で泊まり歩く、古くて、安くて、独特の雰囲気を持った「宿」こそが、もう1人(1軒?)の主人公でしょう。

愛情を込めて「ボロ宿」と呼ぶ

春子は幼い頃、父親の地方営業について行った体験のおかげで、無類のボロ宿好きになってしまったのです。

毎回、ドラマの冒頭で、春子が言います。「歴史的価値のある古い宿から、驚くような安い宿までをひっくるめ、愛情を込めて“ボロ宿”と呼ぶのである」と。

この言葉は、原作となっている、上明戸聡さんの同名書籍にも書かれています。ただし、原作本はあくまでもノンフィクション。このドラマに登場するのも、毎回、実在の宿です。

新潟県燕市の「公楽園」は元ラブホで、お泊まりが2880円也。春子と桜庭の夕食は、節約のために自販機ディナーでした。また山小屋にしか見えない、群馬県嬬恋村にある「湯の花旅館」も、玄関に置かれた熊の剥製や巨大なサルノコシカケが、ボロ宿ムードを醸し出していました。

ふと思い浮かぶのは、架空の主人公が実在の店で食事をする、松重豊さん主演の『孤独のグルメ』(テレビ東京系)です。『日本ボロ宿紀行』は、いわばその宿屋版といった構造なのですが、マニアック度やニッチ度が半端じゃありません。まあ、それがこのドラマのキモだと言っていい。

行く先々で桜庭がマイクを握るのは、誰も歌なんか聴いていない温泉の広間だったり、何でもない公園の片隅だったり、まさかの「お猿さんショー」の前座だったりと、泣けてくるような場所ばかり。唯一のヒット曲「旅人」を熱唱した後、がっくりと落ち込む桜庭を引っ張るようにして、春子はその日の宿へと向かいます。

そのボロ宿で、壁のしみだの、痛んだ浴槽だの、古い消火器だのに感激する春子が、なんともおかしい。何より、「女優・深川麻衣」が平常心のまま頑張っている。もう、それだけで一見の価値ありと感じてしまう、奇跡的な脱力系深夜ドラマです。

それにしても深夜とはいえ、「よくぞこの企画が通ったものだ」と思いますね(笑)。マイウエイというより、アナザーウエイを行く、テレビ東京ならではの強みです。

故郷の情報紙で、「ドラマへの遺言」の紹介記事

2019年03月14日 | 本・新聞・雑誌・活字
地元在住の同級生が送ってくれた記事の写真


塩尻出身 上智大教授の碓井広義さん
倉本聰さんと共著
ドラマ論や製作の舞台裏つづる

塩尻市出身で、上智大文学部新聞学科教授の碓井広義さん(64、神奈川県)は、テレビドラマ「北の国から」などで知られる脚本家、倉本聰さん(84)と共著で「ドラマへの遺言」を出版した。

テレビ制作会社で働いているころに倉本さんと知り合った碓井さん。昨年1~6月に夕刊紙に連載した倉本さんへのインタビューを基に、ドラマ論や製作の舞台裏などをつづっている。(浜秋彦)

延べ30時間のインタビュー
「仕事と人生を活字に」


15章構成で「人間・倉本聰のラストメッセージ」と碓井さん。

1章の「常に怒りのパッションを持っていないと」は、17年4月から約半年間放送されたドラマ「やすらぎの郷(さと)」がテーマ。作品にはテレビ局批判のせりふも織り込んでおり、視聴率至上主義に対する問題提起とも読み取れるが、倉本さんにこの点を尋ねると、「やっぱりね、常に怒りのパッションを持っていないと、僕の場合は書けないんですよ」との答えが返ってきた。

5章の「利害関係のあるやつばっかりと付き合うな」では倉本さんが脚本を手掛けたNHK大河ドラマ「勝海舟」を途中降板することになった詳しい経緯などを明かしている。

6章の「頭の上がらない存在はいた方がいい」では、ドラマ「前略おふくろ様」に板前役で主演した萩原健一さんに
触れている。作品の神髄とも言われる萩原さんの心の中のナレーションがどう生まれたかを記しているほか、故高倉健さんとの秘話も披露している。

15章の「神さまが書かせてくれている間は書き続ける」では「やすらぎの郷」の続編となる「やすらぎの刻(とき)~道」の詳細を話しながら、作品に込めた思いなどを語っている。

碓井さんは、1981(昭和56)年から約20年間、テレビ制作会社「テレビマンユニオン」に在籍。「若造に惜しげなく理想のドラマ像を伝授しようとする熱意と人柄にほれ込んだ」と倉本さんを師匠と仰ぐ。インタビューは北海道富良野市や都内で計9回、延べ30時間に及んだという。

碓井さんは「倉本さんが80代に差しかかったころから、師匠が突然目の前からいなくなることへのおびえを感じ、仕事と人生のすべてを活字にして公開することを提案した。自分にとっても一区切りとなる本」と話す。

(信濃毎日新聞「MGプレス」 2019.03.12)




ドラマへの遺言 (新潮新書)
倉本聰、碓井広義
新潮社


文化庁「芸術選奨」の贈呈式で・・・

2019年03月13日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム



『アンナチュラル』脚本の野木亜紀子さん、
芸術選奨「放送部門」文部科学大臣新人賞受賞

3月12日の午後、東京千代田区の都市センターホテルで、文化庁「芸術選奨」の贈呈式が行われました。

「放送部門」の選考審査員を務めさせていただいていることから、この式に出席してきました。

選考審査員は私のほかに、岡室美奈子さん(早大教授)、上滝徹也さん(日大名誉教授)、鈴木嘉一さん(放送評論家)、竹山洋さん(脚本家)、藤田真文さん(法大教授)、八木康夫さん(プロデューサー)の各氏。

ということで、「放送部門」の報告です。


芸術選奨「放送部門」文部科学大臣新人賞は、
脚本家の野木亜紀子さん


芸術選奨「放送部門」の文部科学大臣新人賞を受賞したのは、ドラマ『アンナチュラル』(TBS系)の脚本家、野木亜紀子さんです。

選考審査会での議論をまとめた「選考理由」は、以下の通りでした。

「野木亜紀子氏は、ドラマ「アンナチュラル」において、架空の「不自然死究明研究所(UDI)」を舞台に、不条理な死に立ち向かう法医解剖医を主人公としながら、単なる謎解きのサスペンスドラマとは一線を画し、遺された者たちがいかに生き続けるかを問い掛けた。自殺系サイトや長時間労働、いじめ等の今日的な問題を織り交ぜつつ、解剖医たち自身が「生きるとは何か」という根源的な問いに向き合うプロセスを、卓抜な構成力により描き切った氏の手腕が高く評価された」(文化庁発表資料より)

『アンナチュラル』の出現は、2018年のドラマ界の大きな“事件”だったと言っていいと思います。

「ドラマというのは、ここまで出来るんだ」という、いわばドラマの可能性を広げた1本でした。


芸術選奨「放送部門」文部科学大臣賞は、
プロデューサーの伊藤純さん


そして、芸術選奨「放送部門」の文部科学大臣賞は、NHK『新日本風土記』プロデューサーの伊藤純さんに贈られました。

伊藤さんの「選考理由」は、以下のようになります。

「伊藤純氏は、長年、歴史、文化、自然科学など、多岐にわたるテーマで数多くの秀作ドキュメンタリーを制作。氏のライフワークとも言える「新日本風土記」は、平成30年で250回の放送に及ぶ。美しい映像でつづる日本各地の原風景、そこに暮らす人々の姿、今も伝わる風習は、改めて日本人としての誇りを実感させられる。平成30年は、明治維新から150年に当たり、「明治維新への旅」や「古事記への旅」など、従来の地域ものにとどまらず、企画の幅も広がった。番組の新しい可能性を期待させた」(文化庁発表資料より)

「近頃のテレビ、見たいものが少なくて」といった感想を述べる、“大人の視聴者”の方々が、「でも、これは見ている」とおっしゃる頻度が極めて高いのが、『新日本風土記』です。

知っている土地、知らない土地にかかわらず、見ていて、日本や日本人についての発見や再発見が、これほどたくさんある番組も珍しい。

そして、「人間って、いいなあ」と思わせてくれることも、たびたびです。

もしもこの賞が、『新日本風土記』を、これからも長く見せてもらえることにつながるのであれば、選ばせていただいた者として、それ以上に嬉しいことはありません。

野木さん、伊藤さん、本当に、おめでとうございます!



J-CASTニュースに、『ドラマへの遺言』の書評が・・・

2019年03月12日 | 本・新聞・雑誌・活字


J-CASTニュースが提供している、書籍紹介サイト「BOOKウォッチ」に、『ドラマへの遺言』の書評が掲載されました。


『ドラマへの遺言』 倉本聰、碓井広義 著

冒頭、ドラマ『やすらぎの郷』が放送にこぎつけるまでの裏話が明かされる。

このドラマはNHKの朝ドラに対抗してテレビ朝日系で毎日放送されたが、石坂浩二に八千草薫、浅丘ルリ子、加賀まりこらを配して、老人ホームの住人たちの過去への執着やくすぶる恋心、死への恐怖などを描いて、朝ドラに飽き足らないシニア層を中心に関心をさらった。

久しぶりの大御所の脚本だけに、評価も高かった。

この春続編『やすらぎの刻~道』も予定されている。

本書は、そんなホットな話題から始まり、代表作『北の国から』など、数々のドラマの裏話が満載で興味深い内容となっている。

聞き手の碓井氏は元テレビマンユニオンのプロデューサーで上智大学新聞学科教授。「話の通じる人が少なくなってくる」という倉本氏から味わい深い話を引き出している。

読後、テレビ・ドラマも捨てたものではないと思わせてくれる。

(J-CASTニュース「BOOKウォッチ」2019/3/11)




ドラマへの遺言 (新潮新書)
倉本聰、碓井広義
新潮社


2019年3月11日午後2時46分 合掌

2019年03月11日 | 日々雑感

2019.03.11