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碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

書評した本: 山下洋輔 『猛老猫の逆襲』ほか

2019年03月16日 | 書評した本たち


週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。


山下洋輔 『猛老猫の逆襲』
新潮社 1728円

ミャンマーで国立交響楽団と共演したかと思うと、ウイーンの管弦楽団と「ラプソディ・イン・ブルー」。徳島では阿波踊りとのセッションが待っていた。現地で見たもの、聞いたもの、そして思い出したものが同時進行で語られていく。旅日記というライブ演奏だ。


末井 昭 『自殺会議』
朝日出版社 1814円

自殺をテーマにした本の第2弾。何らかの形で自殺に関わる10人と語り合っている。自殺した息子の霊とインドで出逢った映画監督の原一男。自殺の名所、東尋坊で自殺企図者を保護する茂幸雄。淡々とした言葉の中に、「生きづらさを解消するヒント」がある。


藤原新也 『メメント・モリ』
朝日新聞出版 1620円

最初の刊行から36年。「死を想え」と題された伝説の写真文集が、甦りのごとく復刊された。「本当の死が見えないと本当の生も生きられない」と著者は書く。たとえば岸辺に置かれた人骨。荒野にひとり立つ僧侶。鳥や犬に食われる遺体は私たちに何を語るのか。

(週刊新潮 2019年2月21日号)


神永 暁 『辞書編集、三十七年』
草思社 1944円

発刊と同時に改訂作業が始まる辞書。そんな辞書作りの裏側を、『日本国語大辞典』の元編集長が回想する。語彙の収集と分類。大量のゲラ(校正刷り)との格闘。作家・井上ひさしが、畏敬の念を込めて「刑罰」と呼んだ編集作業の奥深さと愉悦がじわりと伝わってくる。


相澤冬樹 『安倍官邸vs.NHK』
文藝春秋 1620円

著者はNHK大阪放送局の記者時代、森友事件をスクープした人物だ。しかし、核心に触れる内容を放送しようとした時、官邸に近い報道局長が立ちふさがる。取材先とのやりとりも公開しながら事の顛末を明かしたのが本書だ。内部から見た忖度報道の実態とは?

(週刊新潮 2019年2月14日号)




猛老猫の逆襲
山下洋輔
新潮社


自殺会議
末井 昭
朝日出版社


メメント・モリ
藤原新也
朝日新聞出版


辞書編集、三十七年
神永 暁
草思社


安倍官邸vs.NHK 森友事件をスクープした私が辞めた理由
相澤冬樹
文藝春秋

デイリー新潮で、「ドラマへの遺言」関連記事

2019年03月16日 | テレビ・ラジオ・メディア


「ニノは生意気だけど失礼にならない」 
倉本聰が語った「二宮和也」の魅力

このところ視聴率の好調ぶりが話題になっているテレビ朝日が4月から1年間のロングラン放送を開始するのが「やすらぎの刻 道」(月~金:昼12時30分~)。脚本家はテレビドラマに数々の金字塔を打ち立ててきた倉本聰氏だ。

前作に当たる「やすらぎの郷」のほか、「前略おふくろ様」「北の国から」等々で知られる倉本氏は、自身の書いたセリフへのこだわりの強さでも知られる。業界内では、「倉本脚本は一言一句変えてはならない」という不文律がある、と伝えられているほどだ。

新著『ドラマへの遺言』(碓井広義氏との共著)では、そのあたりの事情についてこう語っている(以下、引用は同書より)

「語尾を勝手に変えられると人格が変わってしまうんですよ。たとえば、高倉健さんに関するインタビューを僕が受けた際、“健さんはすてきな人ですよ。シャイなんだけれども、なんとかなんじゃないでしょうか”っていう答え方をしたとするでしょう。それを新聞記者が“高倉健はすてきな人だ。シャイだがなんとかだ”と断定的な言い切りで記事にしてしまうと、読者にはあたかも僕が上から目線で傲慢な言い方をしたように見えるわけです。会話ってのはそういうもの。シナリオは必要最低限の情報を伝える新聞記事とは違います」


そういう考えから、ある時、若い俳優に「一言一句変えないでくれ」とつい言ったところ、「倉本脚本は一言一句変えてはならない」という伝説が広まったというのが真相なんだという。

「何の脈絡もなく語尾を変えるのはいい加減にして欲しいとその若い役者さんに言ったつもりだったんですが。

誤解していただきたくないのは、若いからダメ、ではない。ニノ(二宮和也)なんかには自由に変えてくれって言ってますしね。ただし、俺のホン以上に変えてくれとは付け加えます。俺が正しいのか、おまえが正しいのか、勝負しているわけですから」

「優しい時間」(2005年)、「拝啓、父上様」(2007年)と自作に出演している二宮への倉本氏の評価はきわめて高い。もっとも、最初に仕事をした時には、倉本氏は彼のことを知らなかったという。

「僕はニノっていう役者をそれまで全然知らなくて。(『優しい時間』の際に)フジテレビが連れてきたんですけど、これはいいと思いましたね。

繊細さですね。たとえば父親の働いている姿を木の陰からそうっと見てるシーンがあったでしょう?

あそこは、映画『エデンの東』のジェームズ・ディーンが、実の母親をこっそり見に行ったところがヒントです。そんな雰囲気、気持ちの複雑さみたいなものをニノはとてもよく出していたと思う」

当時すでに二宮はトップアイドルになっていたものの、役者としての評価は定まっていなかった。そのあたりはどう見ていたのか。

「あの頃になるとテレビ局が押さえてくるのはタレントだったり歌手だったり、極端に言ったらスポーツ選手まで連れて来ちゃったでしょう? 有名ならいいっていう感じで。

だからそれに関しては一種の諦めがあったんです。ただ、ニノに会ってみて、この子はちゃんとしてるなって思いました。あいつは物おじしないんですよ。僕のことを“聰ちゃん!”って呼ぶしね。クリント・イーストウッドにも使われてた。

あいつ、イーストウッドのことを“クリントは……”って言うんですよ。生意気なんだけど、失礼な感じにならない。ナイーブさも持ってるし、あの子の才能ですね」

倉本氏は現在84歳だが、「神さまが書かせてくれている間は書き続けたいですね」と語っており、創作意欲は旺盛だ。ちなみにイーストウッドも88歳にして新作を発表している。そのうちいずれかの巨匠がまた二宮に声をかけて……なんてこともあるのかもしれない。

(デイリー新潮 2019.03.15)





ドラマへの遺言 (新潮新書)
倉本聰、碓井広義
新潮社




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