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碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

週刊女性で、「平成のドラマ」について解説

2019年03月21日 | メディアでのコメント・論評


花形だったフジの月9が失墜した本当の理由
「男女関係の絶望」とは

「平成の前半に当たる'90年代、ドラマといえばフジテレビ、もしくは月9と言われてきました」

かつての主人公は「お金をかけながら恋愛していた」

そう話すのは、元テレビプロデューサーで上智大学の碓井広義教授。当時は『101回目のプロポーズ』『東京ラブストーリー』(ともに'91年)など、タイトルどおりの恋愛ドラマが花盛り。


同志社女子大学メディア創造学科の影山貴彦教授は、

「まだバブルの時代。ヒロインは20歳そこそこのOLなのに、都心部の高級マンションに住み、華やかな生活を送っていた。今の時代なら違和感、嫌悪感を持たれるはずですが、当時はみんなが憧れの眼差しで見ていました」

と指摘。人々がシンプルなものをストレートに享受していたと話す。

「あのころのドラマの主人公は“いつ仕事してるの?”というくらい、恋愛に時間とエネルギーを注いでいました。ドラマ内外の誰もが心や懐に余裕があって、見栄を張ったり、背伸びをしたり。お金をかけながら恋愛をしていました。それができた時代でしたね」(碓井教授、以下同)

しかし、'91年にバブルがはじけ景気は急降下、日本経済は暗転する。

「ただ、一般の人の生活に影響が出るまでにはタイムラグがあった。不況がドラマにわかりやすく表れるようになった作品といえば『家なき子』('94年、日テレ土9)でしょう」

小学生だった安達祐実が叫ぶ“同情するなら金をくれ”は、流行語に。

「『ひとつ屋根の下』('93年、フジ月9)にしろ『人間・失格~たとえばぼくが死んだら』('94年、TBS金10)にしろ、苦みがあって、ゲラゲラ笑って見られるような作品ではない。恋愛ドラマも『愛していると言ってくれ』('95年、TBS金10)『星の金貨』('95年、日テレ水10)など、明るく元気な恋愛ではありません」

常識や概念が変わっていった

ヒット作には、フジテレビの月9だけでなく、TBSや日本テレビが違う角度からアプローチした作品も混ざるように。主要ドラマはほぼ視聴しているというライターの吉田潮さんは、こう分析する。

「平成前期のテーマは“男女関係の絶望”じゃないですか? 恋人や夫婦間のもろさ、結婚したからといって必ずしも幸せにならないというメッセージ性のある作品が目立ちます。不倫ブームの火つけ役は『失楽園』('97年、日テレ月10)。意欲作、問題作も多く'93年なんて『悪魔のKISS』(フジ水9)『高校教師』(TBS金10)『誰にも言えない』(TBS金10)『同窓会』(日テレ水10)。もう、カオスですよ(笑)」

'95年には阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件という歴史的な出来事が相次いで発生。

「科学技術では抑えられない自然の脅威。人間がやるはずがないことを、実際にやったという恐ろしさ。常識や概念がひっくり返り、日本人の意識下をじわじわと変えていったんです」(碓井教授、以下同)

だが、フジの月9は変わらず『ラブジェネレーション』('97)のような恋愛ドラマを量産し続ける。

「視聴者は明るい月9の恋愛ドラマを、もう『東京ラブストーリー』のころと同じ気持ちでは見られなくなっていたはず。実際、習慣や惰性で見ていたのでは? しかしフジは“まだ行ける”と突き進み、時代の空気とズレてしまった。そこが成功体験の怖さであり、フジのドラマが最盛期から下っていった背景だと思います」


《PROFILE》
影山貴彦教授 ◎同志社女子大学メディア創造学科教授。毎日放送のプロデューサーを経て、現職。専門はメディアエンターテインメント論

碓井広義教授 ◎上智大学文学部新聞学科教授。専門はメディア文化論。テレビマンユニオンに20年以上在籍。近著に倉本聰との共著『ドラマへの遺言』(新潮新書)

吉田潮さん ◎ライター、イラストレーター、テレビ批評家。主要番組はほぼ網羅している。『週刊女性PRIME』で『オンナアラート』を連載中


(週刊女性PRIME  2019年3月21日)



坂口健太郎「イノセンス」は、暗いキャラと能力のギャップが魅力

2019年03月21日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評


坂口健太郎「イノセンス」は
暗いキャラと能力ギャップが最大の魅力

今期は3本の弁護士ドラマが並んだ。すでに終了した「スキャンダル専門弁護士 QUEEN」(フジテレビ系)と「グッドワイフ」(TBS系)。そして今週が最終回の坂口健太郎主演「イノセンス 冤罪弁護士」(日本テレビ系)だ。

坂口が演じている黒川拓は、同じ弁護士でも「QUEEN」の氷見江(竹内結子)のように勝つためには嘘も辞さないタイプではない。また「グッドワイフ」の蓮見杏子(常盤貴子)みたいな完璧主義者でもない。

静かで人見知り。事務所でも「一人で考えたいので」と自室に閉じこもることが多い。確かに徹底的に考え抜かなければ、裁判官が下した有罪判決をくつがえす「冤罪弁護」など出来ないかもしれないが、相当暗い。そんなキャラクターと弁護士としての能力とのギャップが黒川の魅力だ。

これまで黒川は、会社の同僚を殺害した容疑で逮捕された女性や、練習中の事故が業務上過失傷害だとして起訴されたフェンシング部の顧問などを救ってきた。細部を見逃さない目と論理的思考、さらに科学的な検証にも労を惜しまない仕事ぶりの成果だ。

一方、黒川は11年前の事件を重いわだかまりとして抱えている。殺人者とされた幼なじみが、冤罪を主張しながら獄中で自殺したのだ。最終回には、ドラマの当初から底流にあったこの事件の真相も明らかになる。

(日刊ゲンダイ 2019.03.20)