碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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【新刊書評2024】 『絶景本棚3』ほか

2024年05月26日 | 書評した本たち

 

 

「週刊新潮」に寄稿した書評です。

 

本の雑誌編集部:編『絶景本棚3』

本の雑誌社 2530円

本好きにとって他者の本棚は「見たいもの」の一つだ。本書は「絶景!」と呼びたい本棚を写真で紹介するシリーズの最新刊。書庫兼仕事場の壁二面に隙間なく本棚を造り付けたのは角田光代だ。漫画家・吉田戦車は驚くほど多くの料理本を集めている。津野海太郎の本棚には花田清輝や長谷川四郎の全集、花森安治、植草甚一などの関連本が並ぶ。ルーペ片手にゆっくりと書名を眺めるのが快感だ。

 

千木良悠子『はじめての橋本治論』

河出書房新社 3850円

没後5年となる橋本治。本書は「一人の人間によるまとまった評論集」として初の著作物だ。橋本は明治の文一致体を新たな視点で再定義し、自身の文体も巧みに変化させてきた。作家で劇作家の著者は、出世作『桃尻娘』シリーズにおける「語り」の意味を探り、後期の代表作『草薙の剣』に潜む複数の「謎」を解明していく。浮上してくるのは「日本の現代を切り拓いた作家」橋本治の実像だ。

 

木寺一孝『正義の行方』

講談社 1870円

1992年に福岡県飯塚市で2人の女児が拉致され、山中で遺体となって見つかった。「飯塚事件」である。犯人とされた男性は2008年に死刑執行。しかし、えん罪を主張する再審請求は現在も続けられている。著者が警察官、法医学者、新聞記者などを丹念に取材したドキュメンタリーは、文化庁芸術祭「大賞」を受賞した。その番組と、この4月に公開の映画版を併せて書籍化したのが本書だ。

 

近内悠太

『利他・ケア・傷の倫理学~「私」を生き直すための哲学』

晶文社 1980円

他者への善意が空転しがちな「多様性の時代」。周囲との関係をどう考えていけばいいのか。教育者で哲学研究者の著者が探っていく。ケアとは「その他者の大切にしているものを共に大切にする営為全体のこと」。そして、利他とは「自分の大切にしているものよりも、その他者の大切にしているものの方を優先すること」。相手を変えるのではなく、自分が変わることによって見えてくる風景がある。

(週刊新潮 2024.05.23号)

 


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