日米開戦への背中を押したドラゴン・レディ
譚 璐美
『宋美齢秘録~「ドラゴン・レディ」蒋介石夫人の栄光と挫折』
小学館新書 1210円
現代史における「奇跡の三姉妹」かもしれない。宗家の三姉妹だ。
長女の宋靄齢(そうあいれい)は財閥の孔祥熙(こうしょうき)と、次女の宋慶齢(そうけいれい)は革命家の孫文と結婚。そして三女の宋美齢(そうびれい)は蒋介石の妻となった。
譚璐美(たん ろみ)『宋美齢秘録~「ドラゴン・レディ」蒋介石夫人の栄光と挫折』は宋美齢の本格評伝だ。副題のドラゴン・レディとは、パワフルで狡猾、短気で傲慢、加えて神秘的なアジア人の女傑を指す。20世紀前半の米国でそう呼ばれていた中国人女性が、清朝の女帝・西太后と宋美齢だ。
著者は宋美齢を新たな角度から捉え直していく。米国から見た存在の大きさ。日本に与えた影響。さらに今日の日中関係や日米関係との繋がりなどだ。中でも日中開戦直後に彼女が果たした役割に驚かされる。
1937年9月、宋美齢は南京から英語で対米ラジオ放送を行った。日本の国際条約違反に対して、世界はなぜ沈黙しているのかという問いかけであり、悲痛な訴えだった。メッセージは全世界へと発信され、新聞各紙が全文を掲載した。
その後、宋美齢は米国議会での演説と全米講演旅行を敢行。米国国民は彼女の言葉を介して中国のイメージを作り上げ、侵略国・日本の印象は悪化する。中国が米国から多額の軍事支援を引き出すことに貢献し、日米開戦へと向かうようにその背中を押したのが宋美齢だと著者はいう。
彼女はいかにしてドラゴン・レディとなったのか。華麗にして激烈な105年の生涯が明らかになる。
(週刊新潮 2024.07.04号)