碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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【新刊書評2024】 松本清張『閉じた海』ほか

2024年06月16日 | 書評した本たち

 

 

「週刊新潮」に寄稿した書評です。

 

松本清張『閉じた海~社会派推理レアコレクション』

中央公論新社 2420円

没後30年余りとなる松本清張。本書は、初めて書籍化された小説、単著・全集未収録のエッセイなどを収めた新刊である。表題作の舞台は急成長を遂げた新興の損保会社だ。社長秘書が海外出張中に変死。それをきっかけに組織の闇が明らかになっていく。背後には戦後の混乱期にのし上がった男の野望が潜む。また平野謙や権田萬治との対談では、清張の文学観や人生観をより深く知ることができる。

 

和田泰明

『ルポ年金官僚~政治、メディア、積立金に翻弄されたエリートたちの全記録』

東洋経済新報社 2420円

来年、団塊の世代すべてが75歳以上の後期高齢者となる。年金制度に注目が集まる所以だ。この制度を作ってきたのは政治家ではない。彼らは「年金額」や「支給開始年齢」など、国民の目を引く数字を示しただけだ。中身を練り上げてきたのは歴代の年金官僚たちである。「100年安心」と「自力で2000万円貯蓄」の落差はなぜ生じたのか。誰がこの事態を招いたのかを追究するノンフィクションだ。

 

下川裕治『シニアになって、ひとり旅』

朝日文庫 858円

旅行作家である著者のデビュー作『12万円で世界を歩く』から約35年。シニアだからこそ味わえる「ひとり旅」の報告が、文庫書き下ろしの本書だ。千葉県の五井から上総中野まで、39キロを走る小湊鐡道の旅。また、かつて吉田拓郎が『落陽』で歌っていた、「苫小牧発・仙台行きフェリー」に乗船してみる。さらに、近所にある、かつて川だった「暗渠道」を散歩するのも小さな発見の旅だ。

 

中山 元

『〈他者〉からはじまる社会哲学~国家・暴力・宗教・共生をめぐって』

平凡社 3300円

著者は『アレント入門』などの著作をもつ哲学者。本書は現代社会を新たな視点で捉え直す試みだ。人間は「自己」として生きる存在であり、同時に「他者」とともに生きている。この両者の関係に始まり、国家と社会、戦争と平和、宗教と民族などをめぐる深い考察が続く。国家の枠組みを超えたコロナ禍を経て、自己も他者も犠牲にしない共同体のあり方が求められる時代。多くの示唆に富む。

(週刊新潮 2024.06.13号)


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