「週刊新潮」に寄稿した書評です。
椎名 誠『続 失踪願望。~さらば友よ編』
集英社 1760円
日録エッセイの最新刊だ。執筆、講演、飲み会など、2022年7月から23年6月までの「作家の日常」を垣間見ることが出来る。しかし、本書の中心はそこではない。書き下ろしの「さらば友よ!」だ。亡くなった親友・目黒考二について、自身の思いを綴っている。また目黒に背中を押されて書いた「わが爛れた異様な時期の出来事」と、若き日の「失踪」の話が読める。79歳にして開く新境地だ。
河原梓水『SMの思想史~戦後日本における支配と暴力をめぐる夢と欲望』
青弓社 3300円
多様性の時代、「他者の好きなもの」を否定しないことは常識となった。それはセクシュアリティについても同様だ。しかし、そうでなかった時代にサディストやマゾヒストを自認した人たちは何を思い、どう語っていたのか。著者は性文化・思想の研究家だ。1950年代の雑誌『奇譚クラブ』や小説『家畜人ヤプー』の沼正三などを検証することで、戦後民主主義に対する新たな視座を提示する。
(週刊新潮 2024.06.27号)