「週刊新潮」に寄稿した書評です。
山下裕二『日本美術・この一点への旅』
集英社 2420円
美術史家の著者による「美術と出会う旅」の案内だ。たとえば北海道・東北なら三岸好太郎『飛ぶ蝶』や棟方志功『花矢の柵』。関東には青木繁『海の幸』、鏑木清方『一葉女史の墓』がある。また近畿では曽我蕭白『林和靖図屏風』、狩野内膳『南蛮屏風』などを見ることができる。わざわざ旅をして鑑賞することで、感動は何倍にも大きくなると著者。60を超える「現地・現物」が待っている。(2023.09.10発行)
後藤秀典
『東京電力の変節~最高裁・司法エリートとの癒着と原発被災者攻撃』
旬報社 1650円
2011年3月に発生した東京電力福島第一原発の事故は、多くの人に取り返しのつかない被害をもたらした。しかし近年、東電が裁判所に提出した書面には、避難者への攻撃的な文言が並んでいる。なぜ、そんなことが起きたのか。また攻撃を仕掛ける東電側の弁護士とはどんな人たちなのか。その背景と人脈を探り、東電、政府、裁判所、そして法律事務所による「癒着の構造」にメスを入れていく。(2023.09.20発行)
林哲夫:編『喫茶店文学傑作選』
中公文庫 990円
喫茶店は常に時代の最先端であり、好奇心旺盛な文学者たちが足を運んできた。夏目漱石「野分」には明治のミルクホールが描かれている。昭和初期の喫茶店と若者たちの生態を活写した、植草甚一「東京に喫茶店が二百軒しかなかったころ」。平岡正明「都はるみが露出してきた」の舞台は京都のジャズ喫茶である。喫茶店という場の磁力を痛感させる、文庫オリジナルだ。(2023.09.25発行)
伊集院静『ナポレオン街道~可愛い皇帝との旅』
小学館 2200円
著者によれば、ナポレオンは「いつもどこかにユーモアを持った小さな巨人」だ。流刑地の島を脱出した元皇帝が、パリを目指して進軍したのが「ナポレオン街道」である。本書は約1年にわたる旅のエッセイだ。コルシカ島のカジノで「人生そのものがギャンブル」だった男の生涯を思い、パリのルーヴル美術館で「戦利品」だった数々の美術品と出会う。「英雄」がいた時代の幸と不幸も見えてくる。(2023.09.18発行)
【週刊新潮 2023.11.09号】