現代女性のハッピーエンドは
廣野由美子
『シンデレラはどこへ行ったのか
~少女小説と「ジェイン・エア」』
岩波新書 1034円
今年の夏に放送された『真夏のシンデレラ』(フジテレビ系)。家庭や学歴に恵まれない女性とセレブな御曹司の格差恋愛ドラマだった。しかし、今どきの若い女性たちがシンデレラに憧れるだろうか。時代を読み違えた作り手による、やや残念な内容だった。
英文学者・廣野由美子は『シンデレラはどこへ行ったのか』で、シャーロット・ブロンテの『ジェイン・エア』を起点に少女小説に隠された「脱シンデレラ物語」を探っている。
重要な指摘は、『ジェイン・エア』で描かれた女性像が、それ以前とは大きく異なることだ。この作品は、孤児で貧しい女性が自分の力で幸せを勝ち取る物語である。
そこには、シンデレラのように王子様に助けられるのではなく、自分自身で運命を切り開いて欲しいという強いメッセージが込められていたのだ。
また本書では『ジェイン・エア』の影響を受けた、『赤毛のアン』『若草物語』『あしながおじさん』などの少女小説にも注目し、主人公たちの成長と自立を分析する。
さらに現代の少女小説やディズニー映画における「シンデレラ物語」の変化も考察していく。
読み進めていくと、おとぎ話的なハッピーエンドが多いイメージの少女小説が、娯楽作品という枠を超えて、時代や社会に対する批判や問題提起を含んでいることが分かる。
本書は女性の生き方の変遷に新たな視点を与える意欲作であり、ドラマ制作者も必読の一冊だ。
(週刊新潮 2023.11.02号)