碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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書評した本: 『チキンラーメンの女房~実録 安藤仁子』

2018年10月21日 | 書評した本たち



安藤百福発明記念館:編 
『チキンラーメンの女房~実録 安藤仁子』

中央公論新社 1296円

NHK連続テレビ小説(以下、朝ドラ)には王道ともいうべき三大要素がある。女性の一代記、職業ドラマ、そして成長物語であることだ。さらに近年は、実在の人物をモデルにする成功パターンが加わった。

10月にスタートした朝ドラ『まんぷく』のヒロイン、福子(安藤サクラ)のモデルが日清食品創業者・安藤百福(もも ふく)の妻、仁子(まさ こ)である。ただし、仁子自身は翻訳家(『花子とアン』)でも実業家(『あさが来た』)でもない。普通の主婦だったはずだが、ドラマのモデルになるからには知られざる何かがあるのではないか。そこで手にしたのが本書だ。

仁子は1917(大正6)年、大阪の商家に三女として生まれた。やがて父の経営していた会社が倒産し貧乏生活が始まったが、家の中には常に三姉妹の笑い声が響いていたそうだ。家計を助けるため14歳で電話交換手の見習い職員となる。働きながら女学校に通い、卒業したのは18歳のときだ。京都の都ホテルに就職したことが、後の百福との出会いにつながっていく。

結婚した百福は根っからの企業家だった。しかも事業は順調なときばかりではない。戦後はえん罪の脱税容疑で裁判にかけられ、財産も差し押さえられた。信用組合の理事長になってほしいと頼まれ、結局は倒産の責任を負った。再び財産を失うのだが、仁子は決して揺るがない。

また「インスタントラーメン」の開発も一人の天才によるものではなく、仁子をはじめ家族総出の取り組みだった。何があっても「クジラのように物事をすべて呑み込んでしまいなさい」という母の教えを守りながら夫を支え続けたのだ。本書を読むと、仁子を”スーパー主婦”とでも呼びたくなってくる。

モデルがいるとはいえ、ドラマはフィクションであり、事実をふくらませた新たなエピソードが盛り込まれるはずだ。本書で描かれた仁子とドラマの福子を比べながら視聴するのも一興かもしれない。

(週刊新潮 2018.10.18号)


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2018年10月21日 | 気まぐれ写真館

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