碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

書評した本: 坪内祐三 『右であれ左であれ、思想はネットでは伝わらない。』ほか

2018年04月07日 | 書評した本たち


週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。


坪内祐三 
『右であれ左であれ、
思想はネットでは伝わらない。』

幻戯書房 3024円

フランス文学に「ポルトレ」というジャンルがある。短い文章で人物の肖像をスケッチしたものだ。この評論集の白眉は「戦後論壇の巨人たち」の章だろう。福田恆存、林達夫、花田清輝、竹内好、羽仁五郎、丸山眞男など24人の相貌が鮮やかに浮かび上がってくる。


堀江敏幸 『坂を見あげて』
中央公論新社 2376円

仏文学が専門の早大教授にして芥川賞作家である著者。『正弦曲線』『戸惑う窓』に続く最新散文集だ。正岡子規が愛した地球儀。露店で手にした家族写真のアルバム。いずれも短い文章だが、入口に立った時と出口を後にする時とでは風景が違って見えてくる。


湯川 豊 
『一度は読んでおきたい現代の名短篇』

小学館新書 929円

丸谷才一によれば、かつて短篇小説は日本近代文学の支配的形式だった。松本清張「張込み」から三浦しをん「柱の実り」まで44篇。元「文學界」編集長の著者が短篇の魅力を再発見させてくれる。かつて読んだ作品は別物に思え、未読の作品はすぐ読みたくなる。

(週刊新潮 2018年3月29日号)


カズオ・イシグロ:著、土屋政雄:訳
『特急二十世紀の夜と、
いくつかの小さなブレークスルー
~ノーベル文学賞受賞記念講演』

早川書房 1404円

昨年、著者がノーベル文学賞を受賞した際の記念講演。「長崎県出身の日系イギリス人小説家」という説明だけでは分からない人となりやこれまでの歩みを知ることができる。表題の『特急二十世紀』はハワード・ホークス監督作品。英文と日本語訳が並ぶ対訳版だ。


岡田秀則・浦辻宏昌:編著
『そっちやない、こっちや
~映画監督・柳澤壽男の世界』

新宿書房 4104円

柳澤壽男は『夜明け前の子どもたち』などの作品を生み出した記録映画作家だ。障害者や難病患者、その背後にある社会問題にレンズを向け続けた。軌跡をたどる評伝、本人のエッセイ、さらに作品の解読などで構成されている本書は、発見と再発見に満ちた労作だ。

(週刊新潮 2018年3月22日号)