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碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

日刊ゲンダイで、俳優・佐藤浩市の「反骨直言」について解説

2016年04月06日 | メディアでのコメント・論評



テレビ界に一石も二石も投じた
佐藤浩市の“反骨直言”

いまのテレビドラマのあり方に一石を投じた俳優・佐藤浩市(55)のインタビューの波紋が日に日に広がっている。

先月30日付の朝日新聞朝刊に掲載されたもので、〈ナショナリズムに訴えかけるようなドラマしか、もう残された道はないんだろうか。冗談ですが、そんなことを口にしたくなるほど、テレビドラマの現状は方向性を見失っていると思う〉と厳しい意見を言い放っているのだ。

これまで佐藤は踏み込んだ社会的、政治的な発言はほぼ皆無だっただけに、驚きとともに、業界の惨状を目の当たりにして言わずにいられない俳優としての覚悟が伝わる内容。

ドラマの制作現場は自主規制でがんじがらめで、事なかれ主義に陥っており、自身が数年前に出演したあるドラマではこんなエピソードがあったそうだ。〈昭和30年代の雰囲気を描こうと会議中に皆が喫煙したら、相当数のクレームが来たことがあって。その後、同様の場面は姿を消しましたね〉。

時代考証すらも曲げてしまう、そんな表現の自由を放棄した風潮は〈自らの首を絞めていくだけ〉という佐藤の言葉に、「身につまされた」と嘆くのは、某民放キー局プロデューサーだ。

「シートベルト着用が義務化されてからは、刑事ドラマの十八番であるクルマで逃走するシーンは激減しました。私有地で撮影すれば未着用でもぎりぎりセーフなんですが、放送後の反響を考えたらリスキーなことは最初から避けますね。こうした問題は情報系番組の現場でも言えること。ある地方ロケでは、町中で首輪をつけてヤギの散歩をしていた住民に偶然遭遇して話を聞けたものの、結局、地方自治法の動物愛護に違反する可能性があるからと自主規制をかけてお蔵入りになりました。テレビ全体がクリエーティビティーは二の次で、リスクヘッジが最優先となっています」

今回の佐藤のインタビュー記事を読んだ上智大の碓井広義教授(メディア論)は、「勇気ある発言」とこう続ける。

「いまどきのテレビ界は何か意見すると敬遠されたり、偏見の目で見られる雰囲気があるが、50代半ばという年齢に差しかかり、彼の中で言うべきことは言わなければならないと腹をくくったのでは。もっとも、文化は社会とリンクして生まれるもの。今回の発言は放送界に限った話ではなく、日本社会が抱えている問題の指標にもなり得る。反権力や反戦争の姿勢を貫いた三国連太郎さんの反骨精神のDNAを受け継いだように感じます」


〈この島国では残念ながら、個人が自由に発言できる状況にはないのが現実だと思います〉とインタビューを結んだ佐藤の直言。テレビの現場に関わる人間全ての矜持が問われている。

(日刊ゲンダイ 2016.04.05)

「あしたのコンパス」で話した“政治家の暴言”のこと

2016年04月06日 | メディアでのコメント・論評



フジテレビのニュース専門チャンネル「ホウドウキョク」。

4日の夜、「あしたのコンパス」に、電話出演しました。

MCは速水健朗さんと、阿部知代アナウンサーです。

テーマは、「待機児童問題、 まだ続く政治家の暴言」。

以下は、生放送で話したことの概要です。




<論点>

そもそもブログの書き込みは便所の落書きか?


確かに、ネット上の言説の多くが「匿名」です。

匿名であるために、虚偽ともいえる内容や、無責任な発言や、読むに堪えない誹謗中傷の言葉が溢れていたりします。

しかし、「便所の落書き」は暴言でしょう。

なぜなら、匿名だからこそ伝えられる「本音」や「本心」もあるからです。

ましてや今回の内容は、明らかに現実の問題を反映しており、背後にいる多くの人たちの気持ちを「代弁」しているものでした。

「便所の落書き」と断じて無視する、また切り捨てることの意味をまったく理解していない発言でした。




政治家に失言は付きものか?

「失言」の多くは、「思ってもいないこと」を誤って言ったのではなく、「思っていること」がつい口をついて出た場合が多い。

そこに、その政治家の本質部分が露呈していたりします。

政治家は、手に職を持っているわけではありません。

政治家の武器は「言葉」です。

自身の「思想」や「信条」、それに基づく「政策」も言葉で表現されます。

にもかかわらず、自分の言葉に「責任」を持とうとする意思がないため、「失言」「暴言」が多発するのだと思います。


野党は「日本死ね」問題を批判できるのか?

暴言ということでは、野党も負けてはいませんね。

つい最近も、共産党の民主党に対する共闘の呼びかけに関して、これに反対する民主党・金子洋一参議院議員が、「左右の全体主義に反対するのが、われわれの役目」とツイートしていました。

この時期に、共産党を「全体主義」と言い切ってしまう知性とセンスはびっくりぽんです(笑)。

やはり乱暴としか言いようがありません。


3人の「キャスター」が報道番組を去った

2016年04月06日 | 「北海道新聞」連載の放送時評



北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。

今回は、「報道番組」について書きました。


3人のキャスター去った報道番組
もの言う意気 今後は・・・

3月17日、NHK「クローズアップ現代」が最終回を迎えた。1993年から23年間、キャスターを務めてきた国谷裕子さんもこの日が最後だった。「振り返ってみますと、国内、海外の変化の底に流れるものや、静かに吹き始めている風をとらえようと日々もがき、複雑化し見えにくくなっている現代に、少しでも迫ることができればとの思いで番組に携わってきました」と挨拶した国谷さん。

私たちは日々の生活の中で、「変化の底に流れるものや、静かに吹き始めている風」をなかなか感知することができない。見えないところで何が起きているのか。それが何を意味しているのか。もしかしたら自分たちの将来に大きく影響するかもしれない出来事の深層を伝えることは、ジャーナリズムとしてのメディアの大事な役割だ。国谷さんは、そのために奮闘を続けてきた。

また25日には、「NEWS23」(TBS-HBC)の岸井成格アンカーが退任した。特定秘密保護法、安全保障関連法、さらに憲法改正など、この国のかたちを変えていこうとする政治の流れの中で、テレビを通じてその危うさを伝え続けたのが岸井さんだ。

「今、世界も日本も、歴史的な激動期に入りました。そんな中で、新しい秩序や枠組み作りの模索が続いています。それだけに報道は、変化に敏感であると同時に、極端な見方に偏らないで、世の中の人間の良識や常識を基本とする。そして何よりも真実を伝える。権力を監視する。そういうジャーナリズムの姿勢を貫くことが、ますます重要になっていると感じます」。岸井さんの最後の言葉は、メディアに対する切実なメッセージだった。

そして31日、「報道ステーション」(テレビ朝日―HTB)の古舘伊知郎キャスターが番組を卒業した。自身の降板について、「圧力があって辞めさせられるわけではない」としながらも、次のように語った。

「無難な言葉で固めた番組なんか、ちっとも面白くありません。人間がやっているんです。人間は少なからず偏っています。だから情熱をもって番組を作れば、多少は偏るんです。しかし、全体的にほどよいバランスに仕上げ直せば、そこに腐心をしていけばいいのではないかと、私は信念をもっております」

その意気や良しであり、こうした“もの言うキャスター”がまた一人、画面から消えたことを残念に思う。三人のキャスターを失った報道番組が今後、何をどう伝え、また何を伝えないのか、注視していきたい。

(北海道新聞 2016.04.04)