『靖国』のときも、「すごい書名だなあ」と思ったが、今度の『東京』っていうのもすごい。読めば、ずばりのタイトルだが、次は『日本』だったりしないかとバカなことを考えたりして。
坪内祐三さんの新刊『東京』(太田出版)は、東京の街を歩きながらの青春回想記だ。本の帯には「自伝青春譜」とある。ただし、歩いたのは2004年から07年にかけて(雑誌「クイック・ジャパン」での連載)だから、その時点での「現在」と「青春時代」が語られている。
目次を開いて、ランダムに読む。自分が好きな街。知っている街。気になる街。訳ありの街。一度も行ってない街。坪内さんが書くその街との関係と回想に、自分自身の街との関係と回想が微妙に絡み合う。読みながら、やけに内省的になっていることに気づく。
たとえば、赤坂。坪内さんにとっての赤坂を読みながら、自分のいた会社が長くあったあの街を思い出している。私の80年代は赤坂がベースになっていた。
まだ焼けていない「ホテル・ニュージャパン」の和室で行われた構成会議。一ツ木通りに面していた頃のTBSの地下にあった「ざくろ」で、先輩からごちそうになった「しゃぶしゃぶ」の味と値段に驚いた、駆け出しAD時代の自分。ここのカレーが大好きで、週に一度は食べていた「トップス&サクソン」。殿山泰司さんが座っている隣のテーブルで、文庫本を読みながらコーヒーを飲んだ喫茶店「一新」・・・こうしてすぐに挙げられる場所や店が、この本には全部出てくる。
他にも、神保町や早稲田や下北沢など、はやり読みながら勝手な回想に没入してしまう街がある。
街は変わる。変わってきた。そして、坪内さんも、これを読んでいる私も。その一方で、街にも、自分たちの中にも、どうしようもなく変わらないものがある。その両者を感じさせてくれる一冊だ。
文章との相乗効果を見せる北島敬三さんの写真もいい。まるで自分の記憶のワンシーンのようだ。
そうそう、巻末に坪内さんと北島さんの「エピローグ対談」が載っている。では、「プロローグ対談」はどこかと思ったら、何と、カバーの裏側に印刷されていた。ぺろりと脱がして、読む。でも、これって、図書館に収められた場合、どうなるんだろう。図書館では、本を必ず加工する。カバーを表紙に貼り付けたりするのだ。借りた人は、この大切な対談が読めるんだろうか。心配。
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