さながら片岡義男ワールド
ホンダ
バイク「動き続ける世界」篇
バイク好きの青年が登場する小説『スローなブギにしてくれ』で知られる作家・片岡義男氏。エッセイ集『コーヒーもう一杯』が出版されたのは1980年だ。
その中の一編「ロードライダー」は極上のバイク・エッセイである。目を引くのはこんな文章だ。
「ライダーの体は、オートバイと一体だ。ライダーの肉体はオートバイを離れることはできない。状況に応じた適切な操縦を、ライダーとオートバイは、おたがいに要求しあう」。
全身で風を受けながらハンドルを握る幸福感と緊張感がこれだけで伝わってくる。
そんな片岡ワールドを視覚化したようなCMが登場した。本田技研工業のバイク「動き続ける世界」篇だ。
疾走する各種バイクの短いカットが連打される。
キックスターターを蹴り込んで発進。古い街並みを駆け抜け、平原を馬と併走し、土煙を上げてモトクロス・レースに挑み、小舟で川を渡り、2人乗りでツーリングを楽しむ。
そういえば『スローなブギにしてくれ』の主人公の愛機も4気筒のホンダCB500だった。
(日経MJ「CM裏表」2025.07.28)