加賀美幸子調「朗読」の真髄
先週土曜日の『古典講読:平家物語』……いかがでしたか? 今回も「一の谷の戦い」でしたね。笛に長けた紅顔の美少年・平敦盛(たいらのあつもり)が、源氏方の熊谷次郎直実(くまがいじろうなおざね)に討たれるという、これもまた有名な場面でした。
それを加賀美幸子さんの朗読で……。充分、堪能されたことでしょう。加賀美調独特の “自然流自然体” であり、声の強弱・高低・速度が、繊細な心配りで使い分けられていましたね。上手いとか、凄いとか……そういうけ形容を遥かに凌駕しています。
それにしても、生命力溢れる堂々とした朗読。……あれが72歳の方の声でしょうか。驚きとしか言いようがありません。辺りを圧する朗々とした声と響き……。全身に伝わって来ました。まさに圧巻の朗読といえるでしょう。
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その日、筆者は番組が始まる夕刻5時が待ち遠しく、いそいそと部屋の中を片付け、あとはひたすら待っていました。ラジオが告げる午後5時――。感動の瞬間が訪れ、まさしく、“そのとき歴史が動いた” のです。
自室において、これほど真剣にラジオを聴くなど、何十年ぶりでしょうか。……そうです。ラジオに対する筆者の歴史が、革命的と言えるほど大きく変化し始めたのです。
お聴きになった方は気付かれたでしょう。
朗読中はもとより、その前後においても、いっさい「音楽」いや「音」が入らなかったということを。さすがはNHK。あるべき「朗読のスタイル」を、そして何よりも「朗読者・加賀美幸のすべて」を、とてもよく弁(わきま)えた企画・演出そして編集でした。
何と言っても加賀美さんご出身の局ですからね。朗読者の特性をよく心得ていたというべきでしょうか。
思うに、このような場合の「音響」や「効果音」は、「奏でたり、付ければいい」というものではありません。その点、NHKの専門技術スタッフや企画デザイナーの方々は、実にレベルが高いと思います。
こういうところにも、民放・民間との圧倒的な絶対差を痛感します。
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山根基世さんのドキュメンタリー
「朗読の名手」が加賀美幸子さんとすれば、「ナレーションの名手」は、山根基世さんでしょうか。とはいえ、これはあくまでも「朗読」と「ナレーション」のいずれか一方をという「比較」によって導かれたものです。
無論、加賀美さんも山根さんも、「朗読」であれ「ナレーション」であれ、“名手中の名手”ということに変わりはありません。しかし、“世間一般” は、何かとお二人を “対照的に描きたい” ようです。無論、筆者もその世間一般を構成する一市民です。
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山根基世さん(1948年生)も加賀美さん同様、際立った声の質と伸びを持っています。それに加えて女性らしい独特の、“高音をブレンドした柔らかさや色っぽさ” とでも言うのでしょうか。
低い声のような、そうでないようなトーンと言えるかもしれません。元NHKアナウンサーの草野満代さんも、同じような “しっとりとした、上品で柔らかいお色気” を滲ませたトーンのような気がします。
ともあれ、高い教養と品位に支えられ、年齢相応の落ち着きを伴った山根さんの響き……。『新日曜美術館』でのナレーションも素晴らしいのですが、「ドキュメンタリー」物にいっそう適しているような気がします。
ことに「現代史」の一面をとらえた『映像の世紀』のナレーションに、そのことを痛感しました。筆者のような団塊世代からすれば、「山根基世ナレーター」に、同じ時代を生きて来たという、仲間意識のようなものが働くのでしょう。
一語一語噛みしめるような語り……。自らの時間を投影させるかのような、それでいて、決してその “映像の世界” に入り込まない傍観者の視点……。
無論、それは番組の狙いであり、演出ではあるのでしょうが……。伝える側の客観的なスタンスを維持するためにも、不可欠なのでしょう。
しかし、ナレーターの山根さん個人の感情や意識、躊躇や困惑といったものが、“隠し味” として効いているような……そういう雰囲気が感じられます。アーカイブとして永く残る優れた番組です。
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加賀美さんと山根さんを比べると、前者は「和」、後者は「洋」という雰囲気でしょうか。本シリーズの(1)で述べたように、加賀美さんは “日本のお母さん” であり、“日本のこころの郷愁” です。
そうなれば山根さんの方は……。強いて言うなら、“現代史のメッセンジャー” と言えるのかもしれません。それも決して「日本史」や「東洋史」ではなく、「西洋史」というイメージが色濃く感じられます。
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筆者の勝手なイマジネーションによれば、1919年、ドイツのヴァイマールに設立された『バウハウス(Bauhaus)』の「歴史」を紐解く「案内人」など、いかがでしょうか。
建築家と建築・美術・デザイン、さらには同校で研究・指導された幅広い芸術全般に関するナレーションなど……。もちろん、この『バウハウス』が、ナチスの圧力を受けながらも、その存立のために格闘し……しかし、ついには1933年に「閉校」に追い込まれた真実などについて……。
たった14年間の活動期間にもかかわらず、『バウハウス』がどれだけ、この世紀に、そして世界に……建築に、美術に、芸術に……“確たる美と永遠” なる可能性をもたらしてきたか……。
こうして綴りながらも、鳥肌が立ってきました。
超至急! 求む! 某局文化関係の「プロデューサー」及び「ディレクター」各位! 〝山根基世とたどるバウハウス〟の制作を!(続く)
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演劇のごあんない
2012年度九州大学演劇部 後期定期公演
「ボクサァ」> 作:高橋いさを 演出:石松紘宇
<日時> 2013年2月23日(土) 開演 14:00 (開場 13:30)
開演 18:00 (開場 17:30)
24日(日) 開演 13:00 (開場 12:30)
<場所> h732シアター 〒811-2202 福岡県糟屋郡志免町志免2-27-16 ヒミツ基地732.
TEL. 092-936-7732. 座席数. 70. アクセス. 1)西鉄バス 志免バス停より徒歩7分.
<交通> 西鉄バス 福岡空港バス停よりバス15~17分(運賃300円)
志免バス停下車から徒歩7分(当日は案内を用意させていただきます)
<料金> 前売り・予約300円 当日500円
「Ichibell」で検索すれば見つかります。
<Twitter公式アカウント>@kyu_en
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部員一同、ご来場お待ちしております。
九州大学演劇部 制作 酒井絵莉子
公式サイト:http://kyu-en.readymade.jp/
メールアドレス:abysskyuen@yahoo.co.jp
今宵のサービスとして、女性ジャズ歌手・ジュリー・ロンドンの歌(曲目「ミスティ」)を。
◆Julie London―「Misty」http://www.youtube.com/watch?v=oPnh2sa4Fek