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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

エムズワース卿の受難録

2020-09-13 17:10:55 | 読んだ本

P・G・ウッドハウス/岩永正勝・小山太一編訳 2012年 文春文庫版
知らずにいたことが情けないので、いまさら読んでるP・G・ウッドハウスの小説なんだが、私にとっては4冊目、8月に買った古本の文庫。
本書の主役は、当代一の執事ジーヴズではなくて、タイトルのとおり、ロード・エムズワース=第九代伯爵の名はクラレンス・スリープウッド。
由緒正しき家柄で、ブランディングズ城という立派なところに住んでるけど、残念なことにその人物は、「綿菓子のような頭脳の持ち主で、新しい玩具に目のない、気立ての優しい老紳士」(p.10)という感じにすぎず、年齢はだいたい六十歳。
館の当主のはずなんだが、自ら「妹恐怖症」と認めるように、妹コンスタンスのいうことには逆らえない。
それだけぢゃなくて、雇い主のはずなのに、庭師とか執事とかの使用人のメンバーにも実質支配されている、彼らがいないと生活が成り立たないんだろう。
それから、次男のフレデイことフレデリック・スリープウッドには、いつも厄介ごとで頭を悩まされていたんだけど、どこをどうしたのかフレディはアメリカの金持ちの娘と結婚し、その実家の商売であるドッグ・ビスケットの会社で頭角をあらわし、次第に立場が逆転して父親としての威厳もあやしくなってくる。
そんなエムズワース卿は、名誉職みたいなのも務める一方、実際には庭の花を愛でたりすることだけが人生の楽しみなんだが、なんだかんだとトラブルが巻き起こる。
庭師をクビにしたら農業祭の優勝をねらうカボチャの具合がよくなくなるし、飼育係が酔って暴れて逮捕されると品評会は間近なのに豚はエサを食べなくなってしまうし、とか悩みは尽きない。
そういうことだけぢゃなくて、伯爵自身の愚行もあって、たびたびピンチに陥る、使用人に対しつよく出られないのは、基本的に「やつをクビにしたら、次の日から地域に悪評を振りまかれて、名誉が失墜する」という恐れからってことぢゃないかと。
読んでると、上流階級はバカばっかり、まともなのは使用人たちだけ、っていう意地悪を作者は言いたいんぢゃないかって気がしないでもない。
一読したなかで、気に入ったのは、居合わせた人たちの思惑が交錯し、トラブルがトラブルを呼ぶけど、一方の不幸なアクシデントを利用すればもう一方は助かる、みたいな連鎖が起きていく、『ブランディングズ城を襲う無法の嵐』と、『フレディの航海日記』かな。
特に後者は、イギリスからアメリカへの船のなかで、恋愛事情もからんだコメディで、映画脚本みたいな雰囲気で読んでておもしろい。
コンテンツは以下のとおり。
『南瓜が人質』 (The Custody of the Pumpkin,1924)
『伯爵と父親の責務』 (Lord Emsworth Acts for the Best,1926)
『豚、よォほほほほーいー!』 (Pig-hoo-o-o-o-ey!,1927)
『ガートルードのお相手』 (Company for Gertrude,1928)
『あくなき挑戦者』 (The Go-Getter,1931)
『伯爵とガールフレンド』 (Lord Emsworth and the Girl Friend,1928)
『ブランディングズ城を襲う無法の嵐』 (The Crime Wave at Blandings,1937)
『セールスマンの誕生』 (Birth of a Salesman,1950)
『伯爵救出作戦』 (Sticky Wicket at Blandings,1966)
『フレディの航海日記』 (Life with Freddie,1966)
特別収録作品『天翔けるフレッド叔父さん』 (Uncle Fred Flits By,1935)


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