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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

それをお金で買いますか

2015-04-22 07:52:49 | 読んだ本
マイケル・サンデル/鬼澤忍訳 2014年 ハヤカワ・ノンフィクション文庫版
最近読んだ本、年明けぐらいに買ったんだっけか、サブタイトルは「市場主義の限界」。
なんとなく気にかかって手に取ってみただけなんだけど、読んだらけっこうおもしろかった。
タイトルから私が勝手に受けた印象は、「それをわざわざお金だして買いますか→今の時代ならタダで手に入れることができるでしょう、カネ出すなんてムダムダ」って感じだったんだけど、内容は逆も逆。
なんでも値段つけていいってもんぢゃない、それカネで買えたりしちゃダメでしょ、っていう話。原題は「WHAT MONEY CAN'T BUY」。
刑務所で清潔で静かな独房に入ることができる料金が一晩82ドル。
一人で車に乗っていても相乗り用の車線を走っていい権利がたとえば8ドル。
絶滅の危機に瀕したクロサイをハンターが撃っていい権利が15万ドル。
頭髪を剃って額に消せる入れ墨で広告を入れると777ドル。
製薬会社のクスリのテストの臨床試験で人間モルモットになると7500ドル。
というように、なんでもカネ払えば買えるし、売ればカネもらえる世の中になってるんだけど、ちょっと待てという話だ。
>ときとして、大切にすべき非市場的価値が、市場価値に締め出されてしまうこともあるのだ。(略)お金で買うことが許されるものと許されないものを決めるには、社会・市民生活のさまざまな領域を律すべき価値は何かを決めなけれなならない。(略)(p.22~23)
ということで、極端なこといえば、人身売買とかしちゃダメでしょ、それぢゃ大昔の奴隷制の世界と一緒じゃん、気づけよってことだ。
政治や行政に関わることでカネ出した人だけ有利になったら、それは腐敗だという。
腐敗ってのはワイロのやりとりが悪いってだけぢゃなく、
>(略)ある善や社会的慣行を腐敗させるとは、それを侮辱すること、それを評価するのにふさわしい方法よりも低級な方法で扱うことなのだ。(略)(p.56)
という思想の問題なんだという、そりゃそうだ。票を金で売り買いするのがダメなのは、法律で禁じてるからぢゃなくて、議会や選挙に対する侮辱なんだ、けっこう現代人はそのこと忘れてるような気がする。
ほかにも、地球温暖化について「排出量取引」って、他国にカネを払って自国の分にあたる温室効果ガス削減をやってもらうって手法があるらしいんだけど、それって総量の規制としては有効かもしれないが、規範としては問題でしょ、
>つまり、自然は経済的余裕のある人のためのゴミ捨て場だという姿勢だ。(p.114)
とダメ出ししてる。二酸化炭素ガンガン出してる立場にいると、意外と気づかないよね。
でも、世の中がカネさえ出せば何でも解決してるかっていうと、そうぢゃない例もあるそうで。
イスラエルの保育所で、子どもを迎えに来るのに所定の時刻に遅れたら罰金という制度をつくったら、かえって遅れてくる親が増えたとか。
スイスの小さな村が核廃棄物処理場の候補地になったとき、住民の約過半数が受け入れもやむなしという意見だったのに、処理場を建設したあかつきには補償金を出すと言ったら、かえって反対が増えたとか。
高校生に寄付金集めの活動をさせるとき、寄付の重要性を熱心に説明されただけのグループよりも、加えて寄付金集めてきたら歩合で報酬出すと言われたグループのほうが成果が低かったとか。(p.174)
人間の行動は、ぜんぶカネで左右されるほど、単純ぢゃないということらしい。
どうでもいいけど、なんかしたらカネとかを余計に与えたりする「インセンティブ」ってものについて、
>インセンティブの話題は現代の経済学に深く浸透しており、この学問を定義するまでになっている。(略)(p.127)
と認めてはいるものの、
>(略)経済学的思考においてインセンティブの言語が発展したのは、最近のことだ。「インセンティブ」という言葉は、アダム・スミスをはじめとする古典派経済学者の著作には登場しない。(略)(同)
という指摘もしている。1990年代まではさほど目立つこともなかったのに、2000年代に入って急増したらしい。
それはまったく気づいてなかった、もっとも最初っからアダム・スミスなんかは読んだことないけど。
序章 市場と道徳
第1章 行列に割り込む
第2章 インセンティブ
第3章 いかにして市場は道徳を締め出すか
第4章 生と死を扱う市場
第5章 命名権
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