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ジャン・アレチボルトの冒険

ジャンルを問わず、思いついたことを、書いてみます。

天国なき世界で煩悩が止まらない、舞台『すべての犬は天国へ行く』は「愛」が招く破滅の物語か [13Oct15]

2015-10-13 17:00:00 | 芸能
乃木坂46が参加する、近々開催予定の注目イベント

10月15日(木)『乃木坂46 アンダーライブ 4thシーズン』in AiiA 2.5 Theater Tokyo [初日] 第1公演(18:00)

10月17日(土) 映画『心が叫びたがってるんだ。』の主題歌CD発売を記念する、メンバー登壇の舞台挨拶
お台場シネマメディアージュ 14:20の回(上映後)/17:30の回(上映前)
ユナイテッド・シネマ豊洲 17:05の回(上映後)/20:15の回(上映前)
秋元真夏、衛藤美彩、齋藤飛鳥、高山一実、深川麻衣、星野みなみ、松村沙友理が参加

10月24日(土)『GirlsAward 2015 AUTUMN/WINTER』in 東京・国立代々木競技場第一体育館 にゲストアーティストとして乃木坂46が出演。

10月25日(日)『乃木坂46 アンダーライブ 4thシーズン』[9日目千秋楽] 第11公演(12:00)&第12公演(17:00)


乃木坂46が参加する、近々放送予定のテレビラジオ注目番組

[CS] 10月18日(日) 21 : 00 ~ 23 : 00 MUSIC ON! TV (エムオン!) HD『M-ON! SPECIAL 「乃木坂46」 ~太陽ノック!!!~ Vol.2』
10月23日(金) 19 : 00 ~ 21 : 00 MUSIC ON! TV (エムオン!) HD リピート放送
9月に放送された個人PV特集の続編。
伊藤万理華の2015/09/06_22:54ブログ

[地デ] 10月24日(土) 4 : 30 ~ TBS『開運音楽堂』
星野みなみと北野日奈子が出演。

[地デ] 10月31日(土) 4 : 30 ~ TBS『開運音楽堂』
先週に引き続き、星野みなみと北野日奈子が出演。



舞台『すべての犬は天国へ行く』に出演した皆さん、全公演の無事終了、おめでとうございます。

半数以上が舞台初心者のメンバー8人で12日間18公演と聞いたときは、目眩がしましたが(笑)、怪我や病気がなく、本当にお疲れさまです。

いや~、楽しく見応えのある舞台でした。


公演が始まって間もない頃は、初日と千秋楽以外の全公演で、当日券が発売されるなど、ファンの反応が鈍いのかなと心配したけど、日程が進むにつれ、徐々に反響が大きくなり、終盤は、連日、感想コメントが次々とアップされ、大きな話題を呼ぶ舞台になりました。

緻密で面白い脚本、客演女優陣のハイレベルな演技、絶妙な配役、そして乃木坂メンバーの努力。

さまざまな要素が上手く噛み合ったことが、舞台の成功につながったのだと思います。


さて、公演終了ということで、今日は、ネタバレを気にせず、あれこれ感想を書いてみます。

まあ、公演期間中に書いた以下の記事でも、ハザードランプさえ点ければ、どこに止めてもいいかの如く、「ネタバレ注意」の一言で、あれこれ、かなり詳しくストーリーに触れていて、今さら「いよいよネタ解禁」って感じではないですが(笑)。

若月万理華が秀逸な演技を披露、舞台『すべての犬』は「乃木坂らしさ」が詰まった大人の演劇作品 [06Oct15]

ただ、今回は、物語の背後にあるテーマのようなものを考えてみるつもりで、芝居の醍醐味となるシーンに触れる必要があり、ネタバレ中のネタバレになる可能性があります。

これから観劇しようかというときに、個々の台詞ならともかく、他人のサマリーが頭に入るのは、不幸以外のなにものでもないので(笑)、この手の記事は千秋楽の後にと思っていました。


まず、最初に、各メンバーの演技への感想から。

千秋楽の日は、誰の演技が一番良かった云々というコメントがネットに多数投稿され、盛り上がっていたので、私もちょっと、お相伴にあずかろうかなと(笑)。

公演中は、万が一にも、メンバーが読んでテンションが下がっては申し訳ないので、問題点の指摘など、ネガティブなことは書きませんでした。

そんなにシビアではないけど、やや辛口な評も入っているので、ご了承下さい。


マリネ役の若月佑美は、舞台に慣れてきたなあ、という印象を受けました。

自分が観客の目にどう映っているかを頭に置いて、落ち着いて演技をしている感じでした。

とくに圧巻だったのは、婚約して村を出ようとした娼婦を撃って、虫の息の彼女に、酒場でとどめを刺そうとするシーン。

相手はゾンビ化していて、しぶとく逃げ回り、それをマリネがビビりながら追いかけ回すんですが、ゾンビは一切言葉をしゃべらないので(笑)、若様が1人で台詞を発して、場面を作っている。

1人で芝居を成立させるのは、大変な力量が必要だと思うけど、「お前だけ幸せになんてさせないからな」と、鬼気迫る形相で、ゾンビ娼婦を殺そうとするシーンは、迫力満点だった。


しかも、ひたすら演技にのめり込んでいるというより、観客の反応をどこかで意識しながら、より効果的な間合いを見極めようとしている節がある。

これほど芝居全体を「見渡している」演技を観たのは、『虹のプレリュード』の生田絵梨花以来で、乃木坂でもっとも舞台経験の豊富な若月佑美が、今回、さらにステップを一段上がったんじゃないかと思いました。

斉藤優里のガスが仲間に刺し殺されるシーン、公の場で起こる最初の殺人ですが、その前に、若月佑美が一人突出した狂気を見せることで、観客に異常な世界なんじゃないのかここは?という、不安と覚悟を引き起こす。

誰にも頼れない1人芝居、しかも普段は愛想の良い店の看板娘が、突如、執拗に娼婦の命を狙う殺人鬼に豹変する。

これだけ難しい役を上手くこなせるのは、さすが若月と言いたくなりました。


しかし、演技面で物足りなさも感じました。

若月佑美だけではなく、出演したほとんどのメンバーに言えることなんだけど、発声ですね。

舞台『生きてるものはいないのか』で、女子大生役の若様が、他の女の子たちとぺちゃくちゃしゃべるシーンがあって、このトークが聴き取りづらかった。

声が小さいというのではなく、滑舌が甘くて、言葉に明瞭さがない。


同じ舞台上、もう一方の端では、「妊娠したんだけど、私生むから、絶対生むから」と、男1人と女2人が喫茶店で訳ありな話をしている(笑)。

3人の声は決して大きくなく、ひそひそ話に近いくらいなんだけど、はっきりと客席に届いて、内容がよく分かりました。

調べてみると、この方たちは劇団の役者さんのようで、なるほど、これがプロの発声スキルなんだと納得しました。

青山円形劇場は小さいので、おそらくマイクなしで芝居を行なっていて、ダイレクトに役者の発声力が反映されるのだと思います。


当時に比べると、ずっと発声が向上した印象はあるけど、一番奥の客席まで響き渡る声が出せれば、マリネの行動はさらに鬼気迫るものになるでしょう。

発声は、コツコツ練習を積み重ねるしかないと思うので、若月佑美には、今後も、あまり間を置かず、舞台に立ち続けて欲しい。

この辺のスキルが身に付けば、若様は、幅広い役をこなせる女優として、十分に、やっていけるんじゃないでしょうか。


声に関しては、桜井玲香が素晴らしかったですね。

よく通る高い声を存分に生かして、酒場でみんなを振り回すキキを好演していました。

さらに、目鼻立ちのはっきりした派手な美人なので、舞台栄えがして、ブルーのリボンが鮮やかな、ピンクの優雅な衣装に身を包み、初めて酒場に登場するシーンは、息をのむほど美しく、ステージにパッと花が咲いたかのような、華やかさがあった。

何と言っても、姿勢が良いです、すらっと背筋が伸びて。

桜井玲香のキキは、上品で超絶美人のお嬢様という、乃木坂ならではのテイストを舞台に与える存在で、大成功だったんじゃないでしょうか。

ちょとウザイ、キキの天然っぷりも、キャプテンのキャラと絶妙にマッチしてて、良かったです(笑)。


ただ、個人的には、第2幕のボレーロ先生が、演技力を問われる役かなと思います。

キキが死んだ夫に成り済まして、酒場に現れ、女を買うシーンで、本当の桜井玲香とは程遠い役です。

とくに、男性役なので、低い声を出さねばならず、持ち前の高音が使えない。

こういった束縛の中で、どう足掻いて、どう表現するのか、その辺が見どころだったんじゃないかと。

私の印象では、桜井ボレーロは、まとまっていたけど、逆に、小さくまとめすぎて、インパクトに乏しかった気がします。

松村沙友理とのラブシーンでも、もっと踏み込んで、16歳の少女をおっさんが買うという状況のエゲツナさを、見せて欲しかった。


若い女性が中年男を演じるのは、非常に難しい筈で、上手く行かないのが当たり前だと思います。

従って、どこまで自分を投げ出して、どう役に立ち向かうかがポイントになってくる。

エロオヤジなら、エロさをどう見せるか。

そうではなく、ボレーロの中味は、キキであるという点を強調するなら、どうするのか。

少なくとも私が観た公演では、桜井玲香がボレーロをどう理解しているのか、伝わってこなかった。

この辺が、明快な演技を見せたキキに比べ、物足りなさを感じるところでした。


斉藤優里のガスは、暴力性と繊細さの二面性を持ち、男性ではないものの、男性的と女性的の両方を要求される役です。

演劇初心者のゆったんにとって、あまりに難しい役で、台詞も多い。

芝居を観ながら、とんでもない無茶ぶり配役だと思ったけど(笑)、何とかガスを表現しようと、懸命に足掻いていました。

どうしても、攻撃性と優しさのメリハリが付けられず、両者が混在して、どういうわけか、志村けんみたいなテイストになっていて、逆に、なかなか味があった(笑)。


斉藤優里の演技に対しては、批判的なコメントもあるけど、私は、自分の引き出しを全部開けて、何とか、それなりにゆったんのガスを編み出していて、むしろ感心しました。

私が観劇したのは、4日目第6公演ですが、まだ3分の1を過ぎた段階で、ここまで役への理解が進んでいるなら、後半は格段に洗練されたガスになるんじゃないかと思いました。

実際、ネットに、ゆったんが色々工夫して、ガスが良くなっていたというコメントが出てきて、やはり、連続公演は、役者、とくに演劇初心者を大きく成長させるようです。


メリハリと言えば、井上小百合のエルザも、あと一歩、メリハリが欲しかった。

酒場の扉を壊して、「そんなに強く押してないんですけど」と弱気になったあと、急に声音を低くして「ウイスキー(バーボン?)を貰おうか」というシーン。

低音の発声にパンチがあれば、ギャップが際立って、より面白いと思います。

エルザは表裏のない役なので、自分で工夫しないと、一本調子になってしまう危険があります。

ドスの利いた低音というのは、女性にとって、難しい発声スキルですが、それが可能になれば、段違いに演技の幅が広がる筈で、練習を重ねて、テクニックを磨いて欲しいですね。


井上さんは、間合いが素晴らしく、芝居がよく見えている印象を受けました。

エルザは、唯一、外からやってきた流れ者で、村で起こる狂気のドタバタ劇を冷静に眺め、常識的なツッコミを入れる、説明役のような存在でもある。

さゆにゃんの落ち着いた演技が、エルザ役によくマッチして、舞台全体がスムーズに回っていたと思います。

若月、桜井、井上の3人は、これまでの実績から考えても、抜群の演技センスを持っているのは間違いなく、今後の活躍を大いに期待させる舞台でした。


伊藤万理華のクレメンタインには、正直、面食らいました(笑)。

非常に攻撃的で、台詞回しが食い気味で、芝居がせわしなく、とっ散らかっている印象がある。

そのため、観劇直後は、彼女の演技を評価する気になりませんでした。


ところが、時間が経つにつれ、この舞台を思い出すと、まりっかのシーンや台詞ばかりが、頭に浮かんでくる。

後味の悪い話ばかりなんだけど(笑)、どうにも忘れられない。

そこで気づいたのは、伊藤万理華の演技は、観る者の心に、強烈に入ってくるということです。


その理由は、度を越した役への没入だと思います。

まりっかは、台本を渡されてから、千秋楽まで、稽古場でも、家でも、24時間、クレメンタインなんじゃないかと思いたくなるくらい、役に入り込んでいる。

そして、クレメンタインが抱える心の闇を、これでもかというくらい激しく、観客に向かって、叩き付けてくる。

舞台にいるのは、伊藤万理華ではなく、完全にクレメンタインで、その鬼気迫る姿を思い返すと、発声がどう、間合いがどう、演技のまとまりがどうなど、細かいスキルの話をする気持ちが吹き飛んでしまう。

もはや伊藤万理華の役というより、クレメンタインの実物がそこにいるかのようで、演技ということを忘れるほどのリアル感がある。

そのため、生々しい本物の感情として、観客の心に強烈な印象を残して、時間が経っても、長く覚えているのだと思います。


役に対する透徹した理解と、怖くなるくらい深い、そこへの没入。

伊藤万理華は、台詞回しや発声云々を越えた、桁違いの表現力を持っていて、とんでもないスケールの素質だと思います。

正直、かなり疲れたんじゃないでしょうか、万理華さん(笑)。

出来るだけゆっくり休んで、脱クレメンタインをして下さい。


表現力という点で、今回、もっとも驚いたのは、生駒里奈です。

メリィという可愛さと間抜けさと残酷さを併せ持つ、非常に難しい役を、見事に捉えて、生駒メリィを作り上げていました。

揃えた前髪と外はねの横髪は、カツラではなく、地毛だそうで、その方が役に近づけるのだと、初日に投稿したブログで述べています。

生駒里奈の2015/10/01_22:54ブログ


このブログに、ちょっと悪い顔をした(笑)、生駒メリィの写真が載っていて、観劇後、再度目にして、感心しました。

まさに、舞台に現れたメリィそのものが、そこに映っている。

生駒里奈は、メリィを演じるに際して、その役を理解し、表現すべき基本イメージを作った。

それが、まさにこの写真で、その表情に、可愛さ、無邪気さ、攻撃性など、メリィを構成する要素がすべて入っている。

素晴らしい役作りで、生駒って、只者ではないですね。


乃木坂のセンターを一番多く務めたように、もともと傑出したスター性を持っているのだけど、その背景には、桁違いの表現力があるようで、提示された役の本質を見抜く理解力が抜群です。

メリィが、たまたま生駒のイメージに合っただけという声もあるけど、私は、この人は、相当に幅広い役をこなせるんじゃないかと思います。

もちろん、滑舌など向上させるべき点は少なくないけど、これだけの感受性と表現力を持っている人は、そんなにいない筈で、個性的で、スケールの大きな素質を感じさせます。

生駒里奈の女優としての可能性は、今回の舞台がもたらした、最大のサプライズで、乃木坂にとって、非常に良い知らせじゃないでしょうか。


若月佑美、桜井玲香、井上小百合が経験を重ねて、一歩一歩成長していく努力型の演技だとすれば、伊藤万理華と生駒里奈は、役の本質を一気に掴んで内部に取り込んでしまう、天才肌の演技だと感じました。

また、斉藤優里は、いきなり難しい役と格闘して、厳しかったと思うけど、何とか乗り切ったことで、自信になったんじゃないでしょうか。

さらに、松村沙友理と新内眞衣は、ビューティ&セクシー担当で(笑)、出番は少なかったけど、魅力を存分に発揮していました。

演劇経験者となったことで、次の機会には、さらに突っ込んだ役が回ってくる可能性があるでしょう。


一つのアイドルグループに、これほどの素質を持ったメンバーが何人も揃っているなんて、凄いことです。

今後、乃木坂は、こういった演劇活動を、ぜひ続けていくべきだと思います。

これだけの才能がひしめいているんだから、勿体ないですよ、芝居をやらないと。

もちろん、今度こそ、稽古時間を十分に確保するスケジュールで(笑)。



さて、演技の話が長くなりましたが、ここからは、物語そのものに関しての感想です。

舞台『すべての犬は天国へ行く』を観て、私が、心に引っ掛かったのは、なぜクレメンタインはメリィまで殺したのか、という点です。

母親のエバは自分を殺そうとした相手なので、分かるのだけど、まだ子どもであるメリィまで殺した理由は何でしょう?


「狂気」を描いた物語なので、理由なんてないという見方はあるけど、考えてみると、エバは姉のマリネを撃ち、メリィはシャベルでとどめを刺している。

もし、クレメンタインがその事実を知っているならば、これは殺された姉の復讐になる。

気の強いクレメンタインだけど、姉と違って、人間を殺すようなタイプではなく、実際、メリィを撃ったあと、「おわ~」と後味の悪さに悶絶している。

自ら手を下して、無抵抗の子どもを撃つほど強い殺意となると、やはり、姉の復讐だったのかなと思いたくなります。


こんなことを考えていると、一見理不尽で狂気に満ちた殺人が、その背後に、子ども、姉妹、夫に対する愛情が隠れているようにも見える。

早撃ちエルザは、アイアンビリーの格好に扮したカミーラと、決闘ごっこの最中、撃たれます。

しかし、カミーラが引き金を引いたのは、エルザが自分はビリーの娘で、父さんに本当に会いたかったと、熱く語った直後です。


カミーラは、夫ビリーが、二人で星を観に行くくらい、自分に優しかったと、酒場で、しみじみ思い出を述べていて、ビリーへの愛情が未だに続いていることが分かります。

美しい思い出の中で生きている筈の夫が、外で隠し子を作り、その子が「父親」に会うため、はるばるやって来て、目の前にいる。

単なる決闘ごっこでの、偶発的な撃ち合いというより、妻として、女としての感情が、激しい怒りを引き起こし、エルザを殺そうとしたのかもしれません。

そうなると、エルザの目的は復讐ではなく、実の父への愛情であって、亡きビリーを未だに愛する妻カミーラと出会うことで、愛憎の中、二人とも命を落としたことになる。


エバが容赦なく村人を殺すのは、使用人として低く扱われ、安い賃金で働かされてきた社会への怨嗟と同時に、娘であるメリィを育てあげたいという、強い母親としての感情があると思います。

ボレーロに扮したキキを撃つことは、自分や子どもの立場を危うくする行為だけど、娘への性的ないたずらを許せず、逆上してしまい、前後見境なく、皆殺しに走ってしまう。

そもそも、本物のボレーロは、すでに他界してるんですが(笑)、娘への攻撃に対する怒りを、母として、どうしても抑えきれなかった。


マリネは、1階が居酒屋、2階が売春宿という、パンチの効いた環境で育ってきた。

年頃になったとき、娼婦に対して、反発や嫌悪だけでなく、羨望や嫉妬の入り混ざった、複雑な感情を持つのは無理からぬことです。

何と言っても、店の収入の大半は、娼婦が稼いでいる筈で、思春期になって仕事の内容を蔑んでも、彼女たちに頭が上がらない(笑)。

こういった鬱屈した感情が、娼婦が村を出ようとするとき、自分だけ都合良く幸せになるなんて絶対許さないぞと爆発、マリネを稀代の殺人鬼にしてしまった可能性がある。


メリィを殺したクレメンタインは、エバに撃たれて死んだボレーロ先生の手を握りしめながら、自ら命を絶ったようです。

ボレーロ氏を好きだったのは分かるけど、もう彼はこの世にいないわけで、その遺体も、妻であるキキのもので、壮絶な愛の執着としか言いようがない。

こうやって考えると、これは「狂気」の物語ではなく、「愛」の物語と解釈することも出来る。

誰かを愛するが故に、その執着から離れることが出来ず、それを失ったとき、行き場をなくした感情が激しい憎悪に変わり、殺人が起こってしまう。

愛が引き起こす破滅の物語なのかもしれません。


面白いのは、アメリカ開拓時代に設定されながら、「神」という存在が、一切出て来ないことです。

これほど魂の救済を必要とする状況が発生したら、キリスト教社会では、神に助けを求める人が現れないわけがない。

しかし、教会や牧師が登場しないだけでなく、お祈りを捧げる場面もない。

アメリカなので、プロテスタントであり、バプテストやメソジストということになるようですが、西部開拓時代といえども、無神論者の荒くれ者が支配する世界の筈はありません。

もちろん、日本の演劇ということで、そういった宗教的設定を入れなかったのだと思いますが、一方で、「神」なしで、どうやって心を支えていくかという、興味深いテーマが必然的に出てくることになる。


この舞台では、愛する人を失った悲しみを癒すために、彼はまだ死んでなんかいない、という驚くべき幻想を維持して、しかも、それを村全体の共同幻想にしてしまっている。

魂は天国に召されたのだという発想すら受け入れず、まだ生きていることにして、その人物の生前の格好に扮装してまで、誤摩化しを続けていく。

これこそ一番の「狂気」ですね。


愛する対象を奪われたとき、まだ残る感情を、どうやって忘れていくのか。

多くの宗教は、その辛い作業で心が折れないように、救いのプロトコールを備えている。

仏教は、「煩悩」を克服することが重要だと説き、キリスト教では、魂は天国に召されたのだと説く。

しかし、現実の死を直視せず、穏やかに忘れていくべき愛情に、いつまでもしがみついていると、この物語のように、嘘と復讐と憎悪に満ちた、破滅が待っている。


舞台『すべての犬は天国へ行く』では、人が狂気に駆られて殺し合うのだけど、結局、愛することの恐ろしさを描いた物語なのかもしれません。

誰かを深く愛しても、その人が亡くなってしまったら、それを受け入れ、次のステップへ進むことこそ大事というテーマです。

登場人物の中で、カトリーヌやデボアのような娼婦が一番まともに見えるのは、愛の儚さを身にしみて知っているからでしょうか(笑)。


最後に、一つ疑問が残ります。

エリセンダは、なぜリトルチビを殺したんでしょう?

リトルチビは確か7歳だと分かっているだけで、誰の子どもかなのか、全然、情報がない。

すべての狂気が愛に裏打ちされているのなら、エリセンダの殺意にも、それなりの理由がある筈なんだけど、私が、伏線を聞き逃したのか、二人の関係を示す台詞が思い当たりません。

旦那と同じく、リトルチビも蛇に見えたのか、あるいは、大人の女に成長して背負わなければならない苦しみを哀れんだのか。

何れにしても、少なくとも表面的には「愛」と言い難い感情で、これだけは純粋な狂気による殺人なんでしょうか。

それとも、他のケースも、一見、愛が原因に見えるけど、ほとんどが理不尽な殺人という作者のメッセージなんでしょうか(笑)。

どちらにも解釈可能な点こそが、この舞台の醍醐味なのかもしれません。


ケラリーノ・サンドロヴィッチさん、堤泰之さん、

楽しい舞台、ありがとうございました。


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[映画] 『心が叫びたがっているんだ。』が9月19日(土)から全国ロードショー
乃木坂46が主題歌「今、話したい誰かがいる」を担当。9月24日(木)深夜に、フジテレビ関東ローカルが、西野七瀬と深川麻衣が出演する記念番組を放送。
映画『心が叫びたがっているんだ。』の公式サイト


// 星野みなみの溢れる魅力

7月18日14:18 星野みなみ

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アレチの素敵な乃木坂業務連絡 09Oct15 ~ シングル&アルバム収録全曲ハンドブック (11th-)

アレチの素敵な乃木坂業務連絡 09Oct15 ~ シングル&アルバム収録全曲ハンドブック (1st-10th, 1stAb)


# 記事中の青字部分は、テレビ番組、公式サイト、書籍、歌の歌詞などに、掲載されたものを、そのまま抜粋引用したことを表しています

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