付け焼き刃の覚え書き

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「ウェブ小説30年史」 飯田一史

2022-08-04 | エッセー・人文・科学
  ウェブ小説というと世間的には「なろうで連載された異世界転生ものがラノベとして刊行されている」くらいに思われがちだけれど、ラノベとくくられているだけで一般文芸の4割、くくりを外せば5割はウェブ発だという前提で、タイトル通り「日本の文芸の半分」になったウェブ小説の歴史について語ったもの。
 一般的な新書が250ページで1000円前後の値段なのに、厚さも値段もほぼ倍という大作。個人サイトからLINEノベルまで作品の傾向の変遷から媒体の興亡までびっしり。ウェブ小説を語る上で必読の基礎資料です。ウェブで公開されている目次だけでも、「2000年代前半のウェブ小説書籍化―自費出版・掲示板文化・ガラケーサイト」「2000年代後半―第二次ケータイ小説ブーム」「2010年―初の異世界転生書籍化と「ウェブから書籍へ」の流行の波及」と、ウェブ小説の略史になってます。
 ウェブ小説は1990年代に個人のサイトで創作を発表したところから始まり、ネットの特色を活かしたハイパーリンク小説や一般読者からの投稿を活かした合作的なものなども生まれていきます。賞への応募を前提にオンライン小説として書きためられていた〈古典部〉シリーズなど、よく知られたものから意外なものまでウェブが初出という作品は多いのですね。
 ただ、インターネットの特性上、データが元からすっぱり消えてしまうのがざらなので、どうしても書籍化されたものが基準となります。本は残るけれどネット上のデータはサービス終了とかシステム更新とかで簡単に消えちゃいます。そういう意味で、今だから書けた本、今書かなくてはいけない本なのです。
 著者が書いているように、これが完璧というわけではないけれど、ウェブから始まった小説について語るときに前提とすべき本でした。

【ウェブ小説30年史~日本の文芸の「半分」~】【飯田一史】【星海社新書】【ウェブ小説の歴史】【ネットビジネス史】【出版産業史】
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