▲『ホロコーストを学びたい人のために』 ヴォルフガング・ベンツ 中村浩平・中村仁訳 2004年 柏書房
『ホロコーストを学びたい人のために』 ヴォルフガング・ベンツ 中村浩平・中村仁訳 2004年 柏書房
『ホロコーストを学びたい人のために』 ヴォルフガング・ベンツ 中村浩平・中村仁訳 2004年 柏書房
▲『ホロコーストを学びたい人のために』 ヴォルフガング・ベンツ 中村浩平・中村仁訳 2004年 柏書房
定価2200円+税 ISBN4-7601-2479-9
『資料を見て考える ホロコーストの歴史 ヴァンゼー会議とナチス・ドイツのユダヤ人絶滅政策』 2015年 春風社 を読んでいたら、上の『ホロコーストを学びたい人のために』 と、芝健介の『ホロコースト』 2008年 中央公論社 が最近のホロコースト研究概況を知るための読書案内の最初の2冊として掲げられていた。
私は、1995年の『マルコ・ポーロ』 廃刊事件の後から、ホロコースト論争の長い歴史があったことを知ったのだが、最初のアウシュビッツ捕虜収容所長ルドルフ・ヘスの告白遺録を読んでから、どうしても、この告白に依存して、アウシュビッツ捕虜収容所のホロコーストに言及していくことが多く、今ひとつすっきりと理解できなかったのである。
そのため、日本人研究者、邦訳のあるホロコースト関係文献をいくつか読んできたのだけれども、やはり、肝心なところは、証言者の記憶に基づいた報告に依拠し、ルドルフ・ヘスの告白遺録と整合性を持たせたものが多いのではないだろうか。
また、アウシュビッツ捕虜収容所のホロコーストについて、本格稼働する前に、農家を改造して、ガス殺を図っていた件も、まだまだ科学的立証性に乏しい記述であると感じた。
それでも、21世紀初頭までのホロコーストに関する研究概要について、コンパクトにまとめているのは評価しなければならない。また、特定のイデオロギーの立場を全面に押し出しているものではないので、とりつきやすい。
本によっては、過激なシオニズムが背景に感じさせるようなものもあるから、警戒が必要だろう。
▲『ホロコーストを学びたい人のために』 目次
11章に下記のような資料が掲載されている。
1942年秋 ドイツ法務大臣ティーアラクがナチ党官房長官マルチーン・ボルマンに宛てた書簡
「ドイツ民族組織体をポーランド人、ロシア人、ユダヤ人、ジプシーの刑事訴追をSS全国指導者に一任するつもりである。我々はこの場合に、刑事訴追が限定的にしかこの民族集団の絶滅にしか寄与し得ないという前提から出発している。司法がこれらの者たちに対し極めて厳しい判断を下すことは疑いの余地はないが、しかし原則的に上述の基本的な考えを実現化するには、じょれでは不十分である。これらの人々を何年にもわたってドイツの刑務所やその他の懲罰施設に拘留しておくことはほとんど意味がないが、今日よくあるように、彼らを戦争目的のための労働力として利用すれば、そのようなことはない。」
『ホロコーストを学びたい人のために』 (138頁)
これを読むと、収容所・捕虜収容所の収容者 ポーランド人、ロシア人、ユダヤ人、ジプシー
は、ドイツの法務大臣にとって
「何年も刑務所やその他の懲罰施設に拘留しておくことはほとんど意味がない」 といっていることである。
「意味のない人間の対象」が、ユダヤ人だけではないことに注目する必要がある。
これが、戦争の究極の姿なのである。
1939年10月17日、国家保安本部は、
ドイツ国境地帯での「ジプシーおよびジプシーのようにさすらう者の放浪」を 禁止する。
『ホロコーストを学びたい人のために』 (142頁)
第二次世界大戦における、死者は虐殺・病死・餓死者の数だけでも凄まじい数に上る。
第二次世界大戦についての猛省とは、ある特定の民族(ここではユダヤ人犠牲者)に特化して、猛省することではなく、他国への侵略は、究極にはすべてを破壊する悪魔的熱狂に堕ちていくことと理解すべきなのだから。
法の番人である、
ドイツ法務大臣ティーアラクが1942年秋に、ナチ党官房長官マルチーン・ボルマンに宛てた書簡こそは、ドイツ国家の悪魔的腐敗がすすんでいたことの証左ではないだろうか。
先勝国が敗戦国・占領地域で示す戦争の形態を示している。
つづく