巨大な立坑の内部には、上層階へと続く細い階段が伸びていた。最上階には立派な巻き上げ機や機械類がほぼそのままの状態で放置されているらしいが、錆びた階段はあまりにも頼りなく、その支柱もボロボロで不安定だ。さすがにココを昇る勇気は出なかった…。
立坑内部の探索もそこそこにし、車で炭鉱のさらに奥へと移動する。いままで探索していたのは羽幌本鉱エリアだったが、これから向かうのは築別炭鉱。こちらにも炭鉱関連の各施設がそのまま取り残されているというのだ。
こちらの黒ずんだ建物は旧・北辰中学校の廃墟。屋根の下には年代物のトラクターや農機具が置かれてあったが、倉庫として使用されているのであろうか?
相変わらずひと気のない山道をしばらく進んでいくと、遠くに見えてきたのは巨大な円形のドーム。近くへ行ってみるとピンク色の校舎の廃墟と隣接しており、その正体は立派な体育館だという事が分かった。
これが羽幌炭鉱の繁栄を物語る巨大廃墟、「旧・太陽小学校」だ。
築別炭鉱の発展に伴い昭和15年に開校、最盛期の生徒数はなんと1000人超。昭和46年の築別炭鉱閉山に合わせて閉校したあとは宿泊施設として再利用された事もあったが、結局は閉鎖。現在は道内の廃墟好き、探検好きがたまに訪れるだけの静かな空間だ。
到る所に内部への入り口が開いているので、侵入は容易である…が、暗闇の中からいきなりヒグマの剥製がお出迎え。これは心臓に悪い。
宿泊施設の残骸だろうが…。こんな場所に置かれているのは探索者によるイタズラだろうか?
ガランとした内部には、その他にも到る所に動物たちの剥製が。空間の真ん中に堂々と居座っている様が不気味だ。有名な廃墟だからか、こちらは山奥にあるにもかかわらず荒らされた箇所が多い。
宿泊施設として活躍していた時期もあったため、学校廃墟にもかかわらず「浴場」と書かれた案内板があったりと、その雰囲気は独特である。
そして、この廃墟の醍醐味とも言われる円形の体育館へ。
巨大な空間が、全盛期の生徒数を物語っていた。
円形の骨組みは芸術的ですらあり、しばらく圧倒される。
相変わらず内部はガランとしていたが、なぜか学校用の回転ボウキがポツンと転がっていた。
「この体育館、思い出したわ…。」
巨大な天井を仰いでいた父が、突然そう言った。
「遠足で山の上まで行って、みんなで丸い体育館が『あっ、見えた!』ってね」
残念ながら中へ入った事は無かったようである。
築別炭鉱にも立派なホッパー(貯炭場)が残っていた。
国鉄羽幌線から分岐した炭鉱鉄道がここまで延びており、このホッパーから貨車に石炭を積んでいたのだ。
今では炭鉱鉄道はおろか、日本海側の動脈であった長大な羽幌線まで消えてしまった。炭鉱があった時代があまりにも遠い昔のように感じられる。
そして車は築別炭鉱の最深部へ。相当な山奥であり、道はこの先で通行止め。
分岐して初山別村のほうへ抜ける道はあるらしいが、こちらも冬期間の通行止めがまだ行われており、この時期は完全なる袋小路である。人家は無く、まわりにも誰も居ない。
そんな場所に映画館や消防署、発電所の煙突などの廃墟が残る光景はなかなか不気味であり、それと同時に物悲しい。
道の行き止まりにあったこの建物は「羽幌炭鉱鉄道病院」。炭鉱には何といっても病院が不可欠であった。
木造のためか年々崩壊が著しい。
残雪の向こうに見えるのは、黒ずんだ炭鉱アパート群。深い山奥にたたずむその光景は蜃気楼のようでもある。内部を探索すると新たな発見がありそうだ。
冬には深い雪の中に埋もれてしまうのだろう。どの建物も冬眠からようやく目覚めたといった感じだ。
山道を戻る途中、道路沿いから一匹のキツネが。
久々の訪問者に興味津々だったのだろうか、車で通り過ぎた後も名残惜しそうにこちらを眺めたままだった。
羽幌という町の繁栄と衰退。
父が住んでいた頃、町は最も勢いのあった時期であった。羽幌にはまだ鉄道が通っており、山の向こうには5000人以上が暮らす一大炭鉱町が存在し、1000人以上の生徒を持つ巨大な小学校があった。
その頃の羽幌町には確かに未来があった。
羽幌炭鉱―追想―
完。
何度見てもいいですね羽幌炭鉱…
軍艦島よりライト(?)な廃墟といった感じでしょうか、うまく表現できないんですがとにかくたまらないです。
体育館の素晴らしさは圧巻ですね!
そしてわたしはお父様ファンなので(笑)、前回の熊除けの微笑ましい?エピソードすごく好きです…(*´-`)
羽幌町といえば「君に届け」(映画化もした少女漫画なんですがご存知ですか?)の舞台のモデルとしても有名なんですよ~。
行ってみたいなぁ…。
やはり軍艦島のスケールには敵いませんが、それでも全国的に見てもかなり大規模な廃墟だと思います!(^-^)
かれこれ3年以上前のエピソードですが、今では旅行のいい思い出です(笑)
「君に届け」、もちろん知ってますよ~♪劇場版は確か三浦春馬でしたね。
羽幌がモデルだったとは知りませんでした…。
ちなみに羽幌炭鉱の廃墟群は「幸福の黄色いハンカチ」(リメイク版)のロケ地に使われたらしく、堀北真希、濱田岳、阿部寛が来たそうですよ!
小学校やアパートの廃墟を探索するシーンがあるそうなので、いつかレンタルしようと思っています…(笑)