
旧室蘭市立絵鞆小学校は、絵鞆半島の同市祝津地区に明治25(1892)年開校。
平成27(2015)年に閉校するまでの122年間で計11,000人超の卒業生を送り出してきた歴史ある小学校です。
現在も残る旧校舎は、鉄の町・室蘭での高度経済成長期の人口増加に対応するため、昭和33(1958)年と同35(1960)年に1棟ずつ建てられた鉄筋コンクリート造3階建ての円形の建物。
円形校舎は昭和30~40年代に全国で100棟ほど建設されましたが、2棟が仲良く並ぶ姿で現存するのは全国でも室蘭絵鞆小と小樽市の旧石山小の2か所のみ。大変貴重なものとなっています。
閉校後、室蘭市は東側の「教室棟」を保存、3階に体育館のある西側の「体育館棟」は耐震性に問題があるとのことで解体の方針を出しました(2014~19年)。
しかし貴重な2棟の存続を望む声は多く、市民団体が実施した保存活動のクラウドファンディングには1,000万円を超える支援が集まりました(19年)。
市は解体を撤回し、現在「教室棟」は市、「体育館棟」は一般社団法人の所有となっています。

体育館棟の耐震補強工事が行われたのち、22年4月から2棟の一般公開がされており、現在は3~10月の土日祝日に見学することが出来ます(教室棟は入館無料で自由に回れますが、体育館棟のみ入館料500円でツアー形式)。
今回の写真は2棟の保存か、それとも体育館棟の解体かで揺れる2019年に特別開放された時に撮影したものです。


重厚感ある外観はこれまで何度か撮影していたので、校内に入れるのがどれほど嬉しいことか。
円形校舎2棟に挟まれた中央玄関から校内へ。さすが築60年とあって、ドアなどの設備から歴史の重みを感じます。

ずっと見てみたかった円形校舎の中心部。
平面図を見ていただければ分かるかと思いますが、美しいらせん階段と円形の廊下を中心に、教室が放射状に配置された大変ユニークな構造です。じっくりと撮影するカメラマンたちでにぎわっております。


教室の中へ入ってみました。
窓に向かって広がっていく扇形で、よく「バウムクーヘンを切ったような形」と例えられます。
それにしても黒板が小さいですねー!教師の方々、使うの中々大変だったのでは?

美術室だったかな?別教室には机も残っており、どのように配置されていたかが分かります。
教師と黒板を囲むようにこちらも扇状になっており、真四角の教室で育った私にとっては随分と新鮮です。


この円形校舎を設計したのは、日本全国で学校や病院などの円形建築を手掛けた建築家の坂本鹿名(かなお)氏。
円形校舎は狭い敷地を最大限に生かし部屋数を増やせること、建築面積が小さく資材や総工費を抑えられること、扇形の教室は日当たりがよく教師の目がよく行き届く等のメリットがあります。
鉄鋼、製造業などの産業発展で、昭和27年には児童数が1000人超のマンモス校となっていた絵鞆小。木造校舎からの建て替えにあたり、限られた敷地面積の中で円形校舎という選択に至ったのでしょう。
室蘭の繁栄を物語る貴重な建築物といえましょう。

とある教室の黒板には、閉校時に生徒が書き残したと思われるメッセージがそのまま残されていました。
「こわさないでー!」「えとも小最高」などのかわいらしい書体が泣かせます。
この他、校内のあちこちに当時の生徒たちの作品や掲示物が残っていました。



らせん階段を上り、教室棟の屋上部分に来ました。
展望回廊のようになっており、窓からは祝津地区の住宅街や港、白鳥大橋などが見えます。
壁には「絵鞆っ子広場」の文字とともに、生徒による宇宙や大自然の壁面イラストが。


天井には小さな穴がいくつも開けられていて洒落た印象です。
美唄の旧・沼東小学校で見た採光窓でしょうか?塞がれてしまったのか、日光は入っていません。
賑わうらせん階段には「ここで鬼ごっこしたよ!」などと楽しげに語る卒業生らしき大人の姿もありました。貴重な証言です。
後編に続く。