あらゆる色彩が雪の下に眠る頃、
その白と黒の世界では、
見慣れたはずのものの 造形のすばらしさが
浮き彫りになってくる。
子供の頃、寂しさしか感じなかった雪景色が、
究極にソフィスティケイトされた光景として、
目に映るようになってきた。
先日、日本一の豪雪地帯を旅した。
新潟県の松代町、十日町、六日町 . . .
鈍行列車に乗って、
気の向くままに途中下車してみる。
金沢の雪は積もっては解け、を繰り返すが、
この豪雪の地は、冬の間、解ける暇もなく
積もり続けるようだ。
この日も激しい降雪で、
2m50㎝を越えていた。
積もった雪の なだらかな曲線は、
有機的でありながら、
完璧なるバランスを保ち続ける。
建造物や、工業製品など
人間の作り出すカタチに、
ひとひら、ひとひら、雪が降り積もる。
無機質で、冷静なラインに、
有機的な息を吹きかけていくように。
色彩が乏しいからこそ、
有機的なものと無機的なものの
カタチがくっきりと浮かび上がり、
それぞれの美しさを、
またはその対照的なものの組み合せの妙を、
味わえるのも、この季節の醍醐味だ。
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金沢、尾山神社の庭で
昨冬、撮影した雪の光景もそうだった。
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シャープな人工のラインに、
映し出される有機的なものの美。
それをねらって作られたと思われる
美しい場所を見つけた。
松代の駅のそば、
「農舞台」と呼ばれる不思議なかたちの建物で、
三年に一度、大地の芸術祭が行われるアートの拠点。
冬に訪れるのは初めてだったが、
夏の、緑の棚田や木々の光景は
真っ白な雪にすっぽり包まれて、
室内の鮮やかな色彩が、より際立って感じられる。
一方、色彩と組み合わせても、
白と黒、モノクロームの世界は
たじろぐことなく、力強い。
水色のカフェの、鏡のテーブルには、
外の雪景色がそのまま映る。
暖かい室内の小さなテーブルの中に、
静かに雪が降り続けている。
シンプルなものの美しさは、
まっすぐ心の琴線に触れてくる。
その質感や触感とともに、
しっかりと、心に残る風景。