キルト作家であり染色家である、
秦泉寺 由子(じんぜんじよしこ)さんが
バリ島に染色のためのスタジオを作りはじめたのは、
1980年代前半のことである。
長い年月をかけて、地元の自然素材を使って
家や作業場を作り上げてこられた。
植物が生い茂るスタジオは、精気に満ちている。
ここで、島に自生する植物たちから色彩を取り出し、
布や糸に移し込んでいくという作業をおこなう。
秦泉寺さんは、ここで染色をし、のちに京都の家に運び、
美しいキルトの作品を作り上げるのだ。
そのキルトには、大自然との濃密な交感から生まれる
普遍的な美と、力強さが存在する。
抽象的なデザインに、自然界の光の彩のリズムが
そのまま表されているように感じられる。
残念ながら、その素晴らしい作品のほぼすべてが
すでに欧米の美術館、博物館に永久保存され、
日本では今、見ることができなくなってしまったが、
いくつもの写真集に記録されている。
ハマゴウの葉を火にくべる、秦泉寺さん。
虫よけに効果があるという昔ながらの知恵を
現地の人たちから聞き出し、その習慣にのっとる生活。
ヤシの葉を燃料に、染色のための湯をわかしているところ。
この大鍋に、色の原料を入れ、煮出す。
染色した布を水にさらすための桶(バスタブ)
染料を濾すための布。
秦泉寺さんは、バリの地を踏んで以来、
染色の材料となる植物を探し出すために、
並外れた情熱と行動力を持って、
ジャングルの奥地や、周囲に点在する未知の島々へ
果敢に足を運んだ。
蘇芳(すおう)から出る鮮烈な赤
ソガの木から出る眩しい黄
島の藍から出る海のような青
現地の人々が大事に守ってきたものだから
わずかな無駄も出さず、随まで使い切る。
その厳かな精神が、作品に反映されている。
自然にお返しをするような、美しいキルト。
秦泉寺さんの色への探求は、
ついに未開の色、「白」へと向かっていく。
白の話につづく