休日の木曜日朝、
起きたら街はすっかり雪に覆われていた。
一晩で30センチの積雪。
降るだけ降って、雲は去り、
澄んだ青空が美しかった。
ふわふわの新雪が光を反射して眩しいくらい。
こんな美しい雪景色は、そういつも見られるわけではないので、
浅野川沿いの茶屋街まで散歩に出ることにした。
ところが家を出て5分もしないうちに、
また雲が流れてきて空を覆いはじめた。
再び白い空。
枯れ木にかかる綿菓子のような雪をたのしみながら、
主計町(かずえまち)茶屋街を歩く。
雪の白、空の白
明るいところの白
暗いところの白
白色もいろいろ。
他に色彩の乏しい季節だから、
白の微妙なニュアンスが感じ取れる。
雪が、ちらちらと舞いはじめた。
茶屋街から少しずつ色と音が消えていく。
間もなく雪は激しく降りてきた。
鳥たちが一斉に飛び立ち、
屋根の向こうへ消えていった。
主計街茶屋街の雪景色。
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橋を渡り、東の茶屋街へ。
雪の中に映える紅。
格子戸からもれる明かりがあたたかい。
あの紅殻格子(べんがらごうし)の中から見る雪は
さぞかし美しいのだろうなぁ。
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普段は観光客でにぎわうこの街も、
この日は人もまばらで、落ち着きをとりもどしていた。
住む人たちの雪かきの音が響き、
垣間見える生活感に なんとなくほっとする。
雪囲いされた植木鉢の趣き深いこと。
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裏路地の喫茶店でひと休み。
他に客はなく、お茶で暖まりながら、
ゆっくり外の雪を愉しむ。
格子戸越しの雪は、スローモーションのように降りてくる。
昔の無声映画を見ているような、不思議な感じ。
時が経つのも忘れ、眺めていると、
いつの間にか、最後の一口がすっかり冷めていた。
急いで飲み干し、お店を出た。
迷路のような路地をさまよううちに、
狭い隙間から、光がさしてきた。
見上げると、雲間からまた青空。
金沢の天気は「回り舞台」と例えられるが、
まさにそんな一日。
光と影の織りなす摩訶不思議な世界、
泉鏡花の物語の中に、妄想 入り込む。
陽が沈みかけてきた。
帰路は浅野川沿いの雪の小道にした。
東の空には、華奢な三日月。
西の空は、この妖しさ。
相変わらず雲は、めまぐるしく変幻していく。
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