いせ九条の会

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大阪地裁が大江健三郎さんを無罪とした理由/山崎孝

2008-03-30 | ご投稿
周知のように、原告側は大江健三郎さんと岩波書店に対して名誉毀損と書籍の「沖縄ノート」の出版差し止めを求めて大阪地裁に提訴していました。

大阪地裁判決は「沖縄ノート」は戦後民主主義を問い直した書籍であるとして、著書の公共性と公益性を認定しました。自決を命令した記述も、学説の状況や文献などから「真実と信じる」理由があったと認定しました。

従って、その記述に公共性、公益性、真実性があれば名誉棄損に当たらないとして、原告が請求していた出版差し止めも棄却しました。

既にブログで紹介したように判決を受けて大江健三郎さんは、「私は今後も、沖縄戦の悲劇を忘れず、戦争ができる国にするという考えに対して、精神、道徳、倫理的にそれを拒むことが戦後の民主主義で生み出された新しい日本人の精神だと信じて訴えていきたい」と述べました。

大江健三郎さんの言葉、戦後の民主主義で生み出された新しい日本人の精神を守るということは、言うまでもなく、憲法を守り生かすことに象徴される取り組みだと思います。「九条の会」に結集している人たちの共通の認識だと思います。

大江健三郎さんの言葉を、社説の結びで触れた東京新聞の3月29日付社説を抜粋して紹介します。

【沖縄ノート訴訟 過去と向き合いたい】(前略)判決を何よりも評価すべきは「集団自決に軍が深くかかわった」とあらためて認定したことだろう。多角的な証拠検討が行われ「軍が自決用の手榴弾を配った」という住民の話の信用性を評価し、軍が駐屯した島で集団自決が起きたことも理由に挙げている。沖縄戦を知るうえでこれらは欠かせない事実であり、適切な歴史認識といえよう。

原告は、遺族年金を受けるために住民らが隊長命令説をねつ造したと主張したが、判決は住民の証言は年金適用以前から存在したとして退けた。住民の集団自決に軍の強制があったことは沖縄では常識となっている。沖縄戦の本質を見つめていくべきだ。

文部科学省は昨春の高校教科書の検定で「軍の強制」表現に削除を求めた際、この訴訟を理由にしていた。検定関係者の罪は大きかったと言わざるを得ない。

大江さんは判決後に「(戦争を拒む)戦後の新しい精神を信じて訴え続けたい」と述べた。その精神をつちかうには、過去と真摯に向き合わなければならない。(以上)

追伸 大阪地裁の判決のとても詳しい報道が、2008年3月29日付の沖縄タイムスに報道されています。沖縄タイムス社のホームページで見られます。