いせ九条の会

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田中孝彦氏の述べる世界秩序の変化/山崎孝

2008-03-12 | ご投稿
2008年3月10日付朝日新聞「月曜日コラム」抜粋、筆者早稲田大教授(国際政治史)田中孝彦氏

(抜粋)

冷戦が終わって20年近くたつが、新しい世界政治の秩序の姿は、はっきりしない。さまざまな亀裂や衝突に彩られた現在の状況を「無秩序」とか、「混沌」と呼ぶ者もいる。なぜこんなことになっているのか。

冷戦までの近代の歴史を振り返ると、世界秩序は大戦争の後に大きく変化したことがわかる。第1次世界大戦や第2次世界大戦のような大戦争は、戦争前の秩序を破壊してしまう。戦争前に優勢だった勢力は、戦争によって力を失う。その一方で、戦争後、新たに優位に立った勢力がその軍事力や経済力を背景に、自分の理念や利益を反映した秩序を作り上げる。世界秩序は大戦争後の力関係の変化を反映して転換する、という歴史のパターンがここにある。

 冷戦の秩序は大戦争を経ずに終わった。しかし、力関係は劇的に変化した。ソ連は消滅し、米国は唯一無比の超大国になった。これまでの秩序転換の歴史パターンに従えば、米国による米国のための世界秩序ができあがってもおかしくない。だが、それとは逆の事実が、5年前のイラク戦争を境に明らかになってきた。

 イラク戦争の前、米国よりもはるかに力の弱い多くの国々が、戦争反対の立場を貫いた。戦後も米国は世界秩序どころかイラク国内の秩序すら築けず、国際社会の信頼を失ってしまう。力が大きいだけでは、新しい秩序を形成できないことが明らかになったといえる。従来の歴史のパターンをこわすような重要な変化が、現在、起こっているのだ。

その変化の一つは、冷戦期の中ごろから西側先進国の間で顕著になった「相互依存」が、冷戦終焉とともに地球大に広がったことだ。経済・社会面での国家間の交流が進んだことで、自国の存続は交流の相手の存在に大きく依存するようになった。

相互依存は軍事力や経済力の意味を変えた。この関係の中では、各国は自分に足りないものを他者に依存して補っている。もし関係を断絶したり攻撃をしかけたりすれば、その結果は自らにはね返り、相当な損失を強いられることになる。それゆえ、軍事的脅しや禁輸のような経済的脅しによって相手を思うように動かすことも難しくなる。

 つまり、冷戦後の世界政治では、軍事力や経済力の大小が、そのままそれぞれの国の影響力(=相手を実際に動かす力)の大小には反映しない。逆にいえば、軍事力や経済力が相対的に小さな国家でも、大国に対して異議申し立てをしたり不服従の立場をとったりしやすくなったことになる。先にのべたイラク戦争前の動向は、この頗著な事例だ。

 いま一つの重要な変化は、ヒト・カネ・モノ・情報の、国境を超えた交流が、歴史上前例がないほどに深まっていることだ。この変化によって、市民や私的な組織は、大国に対する抵抗や異議申し立ての国境を超えた連帯を作りやすくなった。

イラク戦争の直前1万人もの市民を動員した反戦運動は、インターネットを通じて形成された。最近ではサミットなどの先進主要国による国際会議が開催されるたびに、多くの人々が国境を超えて開催地に集まり、反グローバリズムなどの立場から異議申し立てを行っている。「国際テロ」は、より暴力的な事例であろう。テロ集団は国境を超えて自在に移動し、インターネットを利用して連絡をとりあうことで「9・11テロ」が実行されたことは、よく知られている。(以下略)

★ 田中孝彦氏は《戦後も米国は世界秩序どころかイラク国内の秩序すら築けず、国際社会の信頼を失ってしまう。力が大きいだけでは、新しい秩序を形成できないことが明らかになったといえる。従来の歴史のパターンをこわすような重要な変化が、現在、起こっているのだ。》と述べています。

このような国際状況の中で、国の最高法規の憲法を変えてまでも、日米軍事同盟を一層強化するための集団的自衛権行使を可能にすることはないのです。