いせ九条の会

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改憲争点は後景に退けても参院選での憲法問題の重要性は変わらない/山崎孝

2007-07-25 | ご投稿
安倍首相は戦後レジームからの脱却を唱え、そのレジームの一つの柱である教育については、国家の不当な支配を排除した教育基本法を変え、また、教育関連の3法を国会で成立させ、教育に対する国家の介入ができるようにしてしまった。しかし、国民投票法を成立させ、戦後レジームからの脱却の最大の柱とした改憲、参院選の争点したかった改憲問題は身近と感じられる年金などの問題で後景に退いた形となっています。

政府の政策作りの根本的な考え方は、憲法の基本理念を認識度により左右されます。現行憲法の基本理念の一つは「個人の尊重」です。それに踏まえて政府の政策が、国民が健康で文化的な生活を維持できることに適っているかどうかだと思います。

この考えがよく検証できる法律は「障害者自立支援法」でした。「個人の尊重」という理念ではなく、国家の財政負担を軽くすることを考えたことで、障害者と障害者の生活を支える施設に大きなダメージを受けるに至っています。「障害者自立支援法」は、自民党新憲法草案の前文「日本国民は、帰属する国や社会を愛情と責任感をもって、自ら支え守る責務を共有」に類似した考え方の法律です。

朝日新聞の7月25日の社説は参院選との関わりで改憲問題を論じています。社説を紹介します。

【憲法問題 白紙委任しないために】

今年初め、憲法改正を参院選の争点に掲げたのは安倍首相だった。ところが、選挙戦に入ってからの首相の街頭演説を聞くと「国民投票法が成立した。新しい憲法を書こうじゃありませんか」などと、極めておざなりだ。

 自民党のマニフエストは、3年後に改憲案を国会で発議することを目指すとし、そのための国民運動を展開するとあるだけだ。憲法9条を改正し、自衛軍を持つのが自民党の改憲草案の根幹だが、そんな中身は一切触れられていない。

 首相の意気込みはいったいどこへ消えたのだろうか。憲法改正は、首相が掲げてきた「戦後レジームからの脱却」の中核の主張だったはずだ。代わりに、社会保険庁の改組や国家公務員の天下り規制が「戦後レジームからの脱却」と位置づけられているのは驚くばかりだ。年金問題などで応戦に追われる事情はあるにせよ、当惑する有権者は多いだろう。

 民主党はこの選挙で憲法にはあまり触れない戦術だが、共産、社民などは護憲を前面に立てて、支持を訴えている。奇妙なことに、仕掛けた側の自民党が論争を避け、後ずさりしている印象なのだ。

だが、論争が低調だからと言って、今度の選挙の結果が憲法問題の行方に大きく影響することは変わりない。

 参院議員の任期は6年だ。自民党の言う通り3年後の改憲発議があるとすれば、今度選ばれる議員はその賛否にかかわることになる。自民党の候補者は、改憲の中身や態度を語る責任がある。白紙委任するわけにはいかない。

 もう一つ、憲法9条の根幹にかかわる集団的自衛権の解釈の問題が、首相の私的な有識者懇談会で議論されているのを忘れてはならない。

同盟国への攻撃を自国への攻撃と見なして阻止する集団的自衛権は、憲法9条で認める必要最小限の自衛の範囲を超える。だから行使できない。それがこれまでの政府の態法解釈だ。

 そこを米軍と自衝隊がより緊密に協力できるように、解釈を改めたいというのが、首相の意を受けた懇談会の方向だ。政府がその線で踏み出せば、憲法9条の歯止めが失われることに等しい。

 それほど重要な争点なのに、自民党マニフェストは「集団的自衛権の問題を含め、憲法との関係を整理し、安全保障の法的基盤の再構築を行う」とするだけで、結論をぼやかしている。

首相も「懇談会で議論を深めている最中だから」と最終的な方向づけは避けているが、それでも解釈変更の必要性は唱えている。

 自民党が勝てば、首相は懇談会の報告に沿って、集団的自衛権の行使容認に踏み込むに違いない。改意への動きにも拍車がかかるだろう。逆に自民敗北ならば、ブレーキをかけざるを得まい。

現在の論戦では目立たないが、こうした論点を見落としてはならない。