いせ九条の会

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6カ国協議首席代表会合で抵抗したのは…/山崎孝

2007-07-21 | ご投稿
【6カ国協議:作業部会の8月開催合意 第2措置盛り込まず】(2007年7月20日付毎日新聞より)

【北京・中澤雄大】北朝鮮の核問題を解決するための6カ国協議首席代表会合は20日、議長国・中国の武大偉外務次官が3日間の議論を総括した報道コミュニケを読み上げて閉幕した。コミュニケには「既存核施設の無能力化」「核計画の完全な申告」など第2段階措置の手順、履行期限は盛り込まれなかった。

北朝鮮が寧辺核施設の稼働を停止した直後に開かれた今会合は、北朝鮮がすべての核廃棄に向け「約束を真剣に履行する」ことを確認。だが日米などと北朝鮮の間に主張の相違があり、具体的論議は今後の作業部会に先送りされた。米国などは第2段階の年内完了を目指すが、困難になった。

6カ国は朝鮮半島非核化、日朝国交正常化など既存の五つの作業部会を8月末までに開催することで合意。また、9月上旬に北京で全体会合を開き、作業部会の議論を踏まえ、核の廃棄に向けたロードマップ(行程表)を作成する。6カ国外相会合を全体会合後、可能な限り早く北京で開く。

外相会合の具体的日程が決まらなかったことについて、日本外務省幹部は「日本が抵抗した」と語った。拉致問題の進展がないまま協議が進み、エネルギー支援参加を約束させられる事態を懸念したためとみられる。

◇報道コミュニケの要旨 20日に終了した6カ国協議首席代表会合の報道コミュニケの要旨は、次の通り。

一、6カ国は05年9月の共同声明と今年2月の合意文書にある約束を真剣に実施すると確認した。

一、北朝鮮は核廃棄のための「第2段階」措置である「すべての核計画の完全な申告」と「既存の核施設の無能力化」に対する約束を真剣に履行すると確認した。

一、他の5カ国は北朝鮮に95万トンの重油相当を限度とする経済、エネルギーや人道支援を提供する。

一、6カ国は共同声明と合意文書にある義務を「行動対行動」原則に従い、実施すると約束した。

一、6カ国は8月末までに(1)朝鮮半島非核化(2)米朝国交正常化(3)日朝国交正常化(4)経済・エネルギー協力(5)北東アジアの平和・安全保障メカニズム--に関する五つの作業部会を開く。

一、6カ国は9月初めに第6回6カ国協議第2回本会合を北京で開き、全般的なコンセンサスを実施するロードマップ(行程表)を作成する。

一、6カ国は第2回本会合後、できるだけ早く外相会合を北京で開き、共同声明履行を確認、合意文書と全般的な合意の実施を促し、北東アジア地域の安全保障協力を強化する方策を探求する。(以上)

私はヒル国務次官補が意欲を示していた、第2段階措置の手順、履行期限が盛り込まれなかったのは、北朝鮮がなんかの理由で抵抗したのかと思いましたが、《外相会合の具体的日程が決まらなかったことについて、日本外務省幹部は「日本が抵抗した」と語った》と報道していますからそうではなかったようです。

朝日新聞の20日付は、《韓国の千英宇朝鮮半島平和交渉本部長は議長声明に履行期限が盛り込まれなかったことについて「北に時間を引き延ばすという考えはなく、義務を履行したいという意欲を明確にした」と北朝鮮を擁護した》と報道しています。

中日新聞20日付は、ヒル代表の見解として、《六カ国協議米首席代表のヒル国務次官補は19日夜、「次の段階の措置」の履行期限設定を断念した理由について「決めないといけないとは思うが、『初期段階の措置』の履行もすでに遅れている。作業部会で見返り支援や技術的な問題を詰めてから、次の段階の期限を設定することになった」と説明。北朝鮮が期限設定を拒んだわけではないと述べた。米国は、核施設の無能力化など「次の段階」の年内履行を目指していた。ヒル次官補は、個人の見解として「まだ年内履行は可能だと思う」と意欲をにじませた》と報道しています。

6者協議の経過を振り返ると、北朝鮮の核問題をボルトン氏の「現実的には、北朝鮮の現体制が崩壊することでしか解決できない」という考えが2005年初めくらいの頃のブッシュ政権の考え方で、北朝鮮が要求する米朝二国間会談もかたくなに拒否をしてきました。しかし、中国が主導して2005年9月に、北朝鮮は6者協議で、北朝鮮の安全を保障すれば軍事用の核兵器を廃棄すると約束し、米国は北朝鮮の核兵器の廃棄を実現すれば安全を保障すると約束します。後はどのような行程で実現させるかで、意見の対立が残りました。

2006年に米国の金融制裁が始り、それに北朝鮮が反発して冒険主義に走り核実験まで行う。国連はこれに対して北朝鮮に経済制裁は加えたが、軍事的制裁は排除して6者協議への復帰を北朝鮮に呼びかけた。その後6者協議は12月に再開し、2006年9月の基本合意は確認されたが、それ以上の進展はなく休会となっていました。

6者協議が進展したのは、2007年1月に米朝二国間会談がベルリンで行われ、ヒル国務次官補は「有用な話し合い」と評価します。この米朝の話し合いの報告に基づいて中国が2月に6者協議合意のたたき台を作り、6者協議が開かれて合意が成立しました。

元を正せば、北朝鮮と5カ国の関係は、北朝鮮は韓国、中国、ロシアとは基本的には対立関係ではなく、経済的な支援を韓国と中国に受けていて、軍事的な圧力をかける米国に対しては、北朝鮮は自らの安全の保障を求めていた問題でした。

北朝鮮は支援を受けていた旧ソ連の崩壊で打撃を受けたり、国民の自由な意思を抑圧してきたために、個人レベルの能動的な力を結集することが出来ず、自立した国づくりに失敗しています。そのため東アジア地域の安定のためには、北朝鮮を経済的に支援しないといけない状況があります。国連も人道的支援を行なっています。

6者協議に参加する日本は、2月の合意で、第2段階では経済支援をしなければならない立場に立たされています。北朝鮮に軍事的な核を放棄させることは日本の安全保障にとって不可欠な要素です。

この認識が大切なのに全く逆の政策を追求する「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」の5月18日の初会合で、安倍首相は「北朝鮮の核開発や弾道ミサイル問題など、わが国を取り巻く環境は格段に厳しさを増していると述べています。この言葉は6者協議の2月合意を無視した安倍首相の偏屈な情勢認識です。

この情勢認識から導き出される政策は、解釈改憲してまで、米国に向かうかも知れないミサイルを撃ち落すというような、撃ち落せる確立が定かでない政策を追求します。これでは国民は不安定な環境の中でいつまでも不安な心を抱いて生きつづけなければならない生き方を強いられます。

その生き方を続けるのと、報道コミュニケにある、北東アジア地域の安全保障協力を強化する方策を探求するのと、どちらを選ぶべきは明らかです。

米国と韓国が強く望んだ第2段階の年内完了は困難になりましたが、2005年までの6者協議の停滞や昨年の北朝鮮の核実験当時から見れば、大きな前進を遂げています。北朝鮮の脅威なるものが改憲の有力な宣伝材料となっていましたから、この情勢を素直に見れば、北朝鮮の脅威なるものは宣伝材料として賞味期限が切れていることは確かです。